全国大会編⑭~陰陽師の助言~

 ギルド長に合衆国へ行ってもらってから1週間経っても、WAOからなんの反応もない。


 ここ数日、毎日絵蓮さんの訓練を行っていたため、今日は気分転換をかねて休みにした。

 テレビでは今日のリバイアサン出現海域の予想が表示されている。


(こんなことをする時間があるのなら、もっと別のことをしろよ……)


 ほぼ全海域で【出現の可能性有】となっていて、過去1週間分の出現ポイントも出ていた。


 テレビを見ていて分かったことは、一定の大きさ以上の船が陸から一定距離離れた時にリバイアサンが出現するということだ。


(しっかし、今の俺じゃ戦いにならないからな……どうするか……)


 ヤツは海を超高速で移動しており、無策で挑んでも戦いすらできない現状をどうするのか頭を悩ませる。

 ポセイドンに相談したら、相手が強力なため1度だけなら逃げないように海を遮断してくれると言ってくれた。


 強力な援助を受けられたものの、そもそも現れてくれるか分からない相手には使えない。


 母親が買い物へ行くたびに食料品や日用雑貨が高くなっているとぼやいているため、なんとかしてあげたい気持ちもある。


(ただな……求められてもいないのに俺がでしゃばるのも変な話だ……)


 明からWAOに要求した条件を聞いて、悪くないと思っているため要請されるまでリバイアサンに関わらないことにした。


 明に研究所の数をどのように調べたのか聞いたら、すべて占いというので脱帽してしまう。


 ただ、俺のことはレべ天の加護などで詳しくわからないようになってしまっているらしい。


(妙に明が絵蓮さんに注意しろと言っていたけど、なんなんだろう)


 絵蓮さんは俺の言うことを文句の1つを言わずに受け入れてくれて、どんな厳しい条件でもモンスターと戦ってくれる。

 それが嬉しくて強くしてあげようと言う気持ちが高くなっていた。


 今日は世間も休日なので休養日にしたため、レべ天と一緒にリバイアサン対策の話し合いをする。


 丁度テレビでは海のモンスターを討伐するための連合艦隊が出発することを報道していた。


(今日の話し合いが無駄になるように頑張って倒してほしいな)


 前回、超高圧水流による攻撃でほとんどの軍艦が沈んでしまっていた。

 そのため、今回はさすがにそれの対策を考えてあると思い、テレビ越しに討伐成功を祈る。


 母親へ一言伝えてからリュックを背負って自分の家を出た。


 すぐ横にあるレベ天の家に入ると、当然のようにいる明を気にせずに、レべ天の家のリビングに置いてあるソファーでくつろぎ始める。


「天音はなにか良い対策思い浮かんだ?」


 金色の髪の毛を左右に振って、なんの案も無いようだった。

 俺はポセイドンの助力しか得られていないため、リバイアサンの攻略に目途が立たない。


 ふたりだけではなんの意見も出てこないので、笑顔で俺を見ている明を見つめた。


(絶対にわかっているんだよな……聞くか? いや……でもな……)


 ギルド長の件で明が非常に役立つ占いが行えることが分かっている。

 しかし、その副作用を思い出したら意見を聞くのを少しためらってしまう。

 

「……明、何かある?」

「占ってもいいんですか?」


 明は俺へ笑顔を向けて占いを行おうとしていた。

 数日前に行った明の家での宿泊を思い出して、慌てて制止する。


「占いはなしで、意見を聞かせて」

「そうですね……私が占えば何か分かると思います」

「そうだね……」


 明の占いの代償は、明が【幸せ】を感じなければいけないらしい。

 それを行う前に次の占いをしようとしても、まともにできないようだった。


 明が嘘を言っているようなことはなく、レべ天に聞いてもそのような副作用があると断言している。


 レべ天のような守護者はモンスターを倒すことで力を使えるようになる。


 しかし、明は守護をしているフィールドに倒すべきモンスターがいないため、感情を力に変えているそうだ。


 ギルド長への助言と行動予測は非常に深く占いを行い、その影響で俺は明の家に泊まることになった。

 明は俺への食事の支度など、身の回りの面倒を見ることで幸せを感じたと言っている。


 実際に俺が明の家にいる時、明は常に俺が癒されるような笑顔で対応をしてくれていた。


 このままずっとここにいたら腐ってしまうのではないかというほど、明は俺の考えを先回りして自分のことをしなくてもよかったほどだ。


 その時間を思い出しながら、明をさらに見つめる。


(次の代償で何をすることになるんだろうか……いや……覚悟を決めるか……)


 この数日考えても何も良い案が思い浮かばなかった。

 もう陰陽師に頼ってみようと思う。


 明は俺がずっと見つめてしまったので、恥ずかしいのか視線をキョロキョロと動かして顔を赤らめていた。


「明、占っていいからどうすればいいのか教えて」

「本当ですか!? 任せてください!!」


 満面の笑みになった明は即座に占いの準備を始める。

 レべ天が俺の近くまできて、耳元へ顔を近づけてきた。


「一也さん、いいんですか?」

「他に方法がないだろう……お前は何かできそうなのか?」

「できても装備とかを送るくらいです……」

「いつもと変わらないじゃん」


 俺の言葉でレべ天がしょげてしまったので、頭をなでてなぐさめてやる。

 数回なでられてから、恥ずかしそうに俺の手を振り払ってきた。


「子供じゃないのでやめてください」

「喜んでいたよな?」

「でも……」

「ゴホン!!」


 俺とレべ天の話を遮るように、明が大きな咳払いをしてくる。

 話を止めて明を見たら、なぜかすねるようにレべ天へ顔を向けていた。


 それからすぐに明が立ち上がって、俺の座っているソファーのそばに横に座る。

 無言で頭を俺の手元に差し出してきた。


「私もなでてください」

「嘘だろ……」

「おそらくなでられたら幸せになるので、次の占いのためにお願いします」

「……わかった」


 レべ天をなでるのとまったく心情が違うため、明の頭を優しくなで始める。

 嬉しそうに喉を鳴らし、俺の手へ押し付けるように頭を上げてきた。


 明の髪はサラサラでなでていて手が心地よくなってくる。

 レべ天と同じように数回撫でたため、明の頭から手を放した。


 しかし、明は頭を俺へ向けたまま動かさずに、俺を横目で見てくる。


「もっと撫でてもいいですよ」

「もういいだろう。占いの結果は?」

「……撫でてくれないと話したくないです」

「わかったよ……」


 俺は再び明の頭に手を置いて、指の間を髪が通り始める。

 満足そうな顔をしながら、明は話を始めた。


「とりあえず、後6時間ほど待ってください」

「そんなに待つの?」

「はい。その後、リバイアサンと戦闘する方法をお伝えします」

「それまで何かすることはある?」

「私の幸せを溜めてください」

「は?」


 明が当たり前のように自分を幸せにしろと言ってきたので、思わず手が止まってしまう。

 その隙を逃さずに、明の横にレべ天が座ってきた。


「それなら、私ももっと撫でてほしいです」

「わかった……もういいよ……」


 2匹の小動物のご機嫌をとるように俺は両手を動かし始める。

 明も恥ずかしそうに顔を赤らめて、俺へ潤んだ瞳を向けた。


「必ず後で私の力が必要になるので入念にお願いします」

「それはもういいよ。時間までのんびりしよう」

「ありがとうございます」


 明に力を使ってほしいからやっているわけではなく、これまでの明の人生を知っているから少しでも明には幸せになってほしい。


 俺にできる協力ならいくらでもするため、なでるくらいの恥ずかしさはなんとか慣れるように努力をする。


 陰陽師に待てと占われたため、3人で食事をしたり、雑談をしたりして時間を潰す。

 占いから6時間経った頃、明が急にテレビを付ける。


「どうぞ一也さん、あなたへのメッセージです」

「どういうこと?」


 明が普通のバラエティ番組が放送されているテレビの横に立ちながら真剣に俺を見ていた。

 その時、芸能人たちが笑っている映像が切り替わり、WAOの緊急会見と書かれたテロップが映し出された。


 これを予想した明がすごいと思いながら、テレビへ耳を傾ける。


「本日、海のモンスターを討伐するために出撃した艦隊がすべて撃沈されました」


 今にも死にそうな顔をしながら、WAOの会長が画面の中で報告をしている。

 何かに祈るように両手を組み、うつむいた状態で話を続けた。


「私たちWAOは、日本で黒騎士と呼ばれる人へ協力を求めます」


 すべての国の軍艦が命運をかけて挑んだ戦いに敗れ、もう海のモンスターと戦う手段がないと説明をしている。


 大型爆弾等での討伐も考えたが、どこにいるのかもわかない相手へ使えないと悔しそうに言っていた。

 顔から汗を浸らせながら、最後の一言を口にする。


「彼から提示されていた条件をすべて承認し、24時間以内に実行します」


 会見が終了し、各国の記者による質問が開始される。

 それを見ていたら、俺のスマホにギルド長から電話がかかってきていた。

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