全国大会編⑫~世界が動き出す時~
『天音、装備を頼む』
『……はい』
『リバイアサンは対策が必要だから、今度話し合いをしよう』
『すみません。ありがとうございます』
樹海に放置していた絵蓮さんは、全身がボロボロの状態でグリーンドラゴンと戦っていた。
まだ元気そうなので、俺はメルルシープを捕獲しながら、絵蓮さんの戦いを見守ることにした。
(それにしてもリバイアサンか……うーん……よっと!)
順調にグリーンドラゴンを倒してしまいそうなので、数体のメルルシープの毛を燃やしてから絵蓮さんに向かって解き放つ。
それでも、文句を言わずに絵蓮さんがメルルシープとグリーンドラゴンの両方の対応を始めた。
(やっぱり絵蓮さんってすごいな)
メルルシープの頭突きを横っ腹に受けてもなお、戦い続けようとしていた。
体力の限界が近いのか、足の動きが悪くなる。
メルルシープの頭突きとグリーンドラゴンのブレスを受けて、瀕死になってしまった。
絵蓮さんを治療してから、周りにいたモンスターとの戦いを続けさせる。
なんとか倒してくれたので、飲み物を渡すために近づいた。
「よく頑張りましたね」
「本当?」
地面に倒れていた絵蓮さんが目を輝かせながら俺を見ている。
正直、数日でここまでできるようになるとは思わなかったため、素直に絵蓮さんを称賛する。
「はい。予想以上に強くなっているので、明日はもっとできそうですね」
「ありがとう佐藤くん、お願いね」
「任せてください」
グリーンドラゴンのブレスは相当痛いはずなのに、絵蓮さんは文句の1つも言わない。
おそらくその姿勢がこの成長速度を支えているのだろう。
(4人にも見習わせたいな)
ギルドへ電話をかけて、グリーンドラゴンを倒したことを伝えると、受け入れ準備をするから待ってほしいと言われる。
花蓮さんたちが4人だけでグリーンドラゴンを倒したこともあるため、もうこいつを倒しただけでは大きな騒ぎにならないらしい
それでも、1体あたりの値段が普通のモンスターとは比べ物にならないほど高額だ。
待っている間に絵蓮さんが俺と戦いたいと言うので、盾で相手をしてあげた。
その戦いの最中に、勢い余って絵蓮さんの腕を折ってしまう。
しかし、絵蓮さんは折れた腕を庇いながらも俺へ立ち向かってくる。
顔がほんのり赤みを帯びており、怒りがこもっている表情だと推測した。
そんなことをしていたらギルドから折り返しの連絡が来る。
絵蓮さんの腕を治す時、なぜか残念そうな顔をされた。
いつものように狩りの精算をすべて絵蓮さんに任せる。
「それじゃあ、絵蓮さん今日はお疲れ様でした」
「こちらこそ、明日はどうすればいいかな?」
「今日と同じでお願いします」
「ええ、わかったわ。じゃあ、帰還するね」
絵蓮さんが俺へ向けて手を振っていたので、頭を下げて見送ることにした。
帰還石を使用されて、絵蓮さんと今回の成果がギルドへ転送される。
俺はリバイアサンの対策を話し合うために、レべ天の家へワープホールを行う。
しかし、レべ天の家に移動したはずなのに、俺の足元では明が土下座をしていた。
「……なにごと?」
「失礼を承知で申し上げます」
明が頭を下げたまま分厚い封筒を俺へ差し出す。
意味が分からないまま封筒を受け取ると、明が切羽詰ったように言葉を張り上げる。
「不快に思われるのは当然かと思われますが、急いで黒騎士になってそれをギルド長へお届けください!」
「…………」
おそらく明は陰陽道で何かを占って、このようなことをしているのだと思う。
更に、よほど時間がないのか、説明をせずに俺へ【急げ】と言ってきている。
「……わかった。後で説明しろよ」
「必ず!」
明が頭を上げて強い意志を持って俺を見つめてきていた。
奥でリビングから様子をうかがっているレべ天に声をかける。
「天音、また装備を頼む」
「わかりました」
俺は今日2回目の黒騎士になり、ワープホールでギルドへ移動しようとした。
明がワープホールを行う直前に、再び口を開く。
「ギルド長へ【飛行機の中で開封してほしい】と伝えてください」
「飛行機? ……そうする」
明のよく分からない指示を受けてから、ギルドの正面に着いた。
俺の姿に気付いた周辺の人々が遠巻きに眺めてきて、スマホで写真を撮り始める。
(なんのためにこの格好にされたんだ?)
頭に浮かんだいくつかの疑問を振り払い、ギルド長の部屋へ向かうことにした。
ギルドへ入ってからも、俺を見てくる目が途絶えることはない。
ギルドへ入った瞬間、晴美さんが飛んでくるように俺へ近づいてくる。
肩で息をしながら、なんとか笑顔を作って対応をしてくれた。
「黒騎士さん!!?? 今日はどうされましたか!!??」
「ギルド長に会わせてください」
「えっ!? ギルド長……ですか? 少々お待ちください……」
晴美さんは一旦戸惑いつつも、頭を下げて奥へ向かってくれた。
俺が入り口の付近で立っていたら、後ろから誰かが入ってくる。
邪魔になると思い、座る場所を探し始めた。
「もしかして、黒騎士様ですか?」
入り口には絵蓮さんが立っており、俺のことを見つめていた。
その瞳は戸惑いを含んでおり、なかなか次の言葉が出ないように見受けられる。
「黒騎士さん、お待たせしました。こちらへどうぞ」
そんな中、晴美さんが戻ってきてしまったので、俺は絵蓮さんから目を離す。
俺の背中に視線を感じ、歩き出すと同時に声が聞こえてくる。
「必ずあなたに追い付きます」
俺はそれを楽しみにしているので、何もせずにこの場を立ち去った。
晴美さんは入室せずに、俺だけギルド長の部屋に入る。
そこには、ギルド長とどこかで見たことがある中年の男性が座っていた。
今はその人のことを無視して、ギルド長へ封筒を渡しながら用件だけを伝える。
「ギルド長、これを飛行機の中で開けてください」
「お前、いきなりなんなんだ!?」
「伝えましたよ。あとはギルド長次第です」
俺が部屋を出ようとしたら、中年の男性が勢いよく立ち上がる。
その男性の話を聞く気になれなかったため、俺は止まらずにドアノブへ手をかけた。
「待ってくれ! 話を聞いてほしい」
「俺にはありません、失礼します」
明はおそらくこのタイミングを狙っていたため、俺を急いで行かせたのだと判断した。
ギルド長へ封筒を渡すだけと言われていたので、それ以外のことは俺の判断で動く。
話を聞かずにギルド長の部屋から出て、騒がれないように隠密を使用しながらギルドを後にした。
(帰ってから、明の説明を聞くとしよう)
どんな説明が待っているのか楽しみにして、レべ天の家までワープホールを行なった。
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