全国大会編⑦~修練場へ~
「へー」
椅子に座ったまま明の目を見て、感想を述べた。
2人は俺へ顔を向けたまま動かず、俺がまだなにか言うのを待っている雰囲気を感じた。
「……他になにも感じてないよ」
2人が俺の言いたいことが伝わっていないのか、耳を疑うように目を見開く。
少しため息をついてから、俺の考えがはっきりとわからせる。
「天音がなにをどう思ったからって、俺はこいつのおかげでここにいるから、明の言っていることに対して俺は何も思っていないよ」
こんなことを話すために明がわざわざ両親を帰したと思うとくだらなくなってきた。
俺も帰るために立ち上がろうとしたら、レベ天が声を上げて泣き出す。
(こいつを泣かすようなことを言ったのか!?)
レベ天は涙腺が緩く、花蓮さんたちがドラゴンと戦うだけで涙を流す。
しかし、声を上げて泣くのは、よほどのことがあった時だけだった。
そんなレベ天を明は笑顔で背中をさすり始める。
「守護神様安心してください。一也さんはこういう方ですよ」
「ヒック……うん」
レベ天がよほど思いつめていたのか、嗚咽が止まらない。
明から励まされているものの、レベ天が落ち着くことはなかった。
俺も背中をさすってやろうかと思ったら、明に目で制される。
「一也さん、申し訳ありません。後はお任せください」
「大丈夫?」
「はい。今日は急に申し訳ありませんでした」
「いいよ。じゃあ、帰るよ」
椅子から立ち上がり、俺が部屋を出ようとする時に明があっと声を出す。
何かと思って止まると、振り向く前に言葉をかけてきた。
「明日は早朝に剣を持って修練場へ行くのが吉と出ています」
「なにそれ、占い?」
初めて占いをされたので、笑いながら明を横目で見る。
明が俺へ頭を下げてから微笑んできた。
「新米の陰陽師の占いですが……それ以降のことは、あなたの心の赴くままに」
「覚えておくよ。ありがとう」
軽く手を振ってから部屋を後にする。
明の家から出ようとしたら、両親を送ってくれた守さんが食器の片付けをしてくれていた。
こんな大きな家に2人で住んでいるようなので、手伝うことにする。
「守さん、手伝います」
「え!? 明ちゃんとの話は……」
「もう終わりました。これはあっちでいいですか?」
守さんがまとめていた食器を持って、きれいなキッチンを見る。
作業をしていた守さんの手が止まり、戸惑うような顔をするものの最後は頬を上げてくれた。
「ええ、お願いできるかな?」
「はい」
何度か食器を運び、何もなくなったテーブルの上を確認する。
守さんがテーブルを拭きながら悲しそうな顔をしていた。
「一也くん、明ちゃんを救ってくれてありがとう」
「救うなんてしていませんよ。最後は明の力です」
「明ちゃんはあなたとの思い出があったから全力で頑張れたって言っていたの」
「それは……ありがたいです」
もういない【俺】に聞かせてやりたい気持ちを抑えて、守さんの言葉を噛み締める。
守さんが立ち上がって、俺へ座るように座布団へ手を向けた。
テーブルに飲み物を置いてから、守さんが俺から少し離れたところへ座る。
「私は安倍の分家で、本家の方を守護する役割を担う家なの」
「だから鬼退治の部隊に?」
「ギルド職員としてだけどね……明ちゃんを直接守ることができなかったから」
「どういうことですか?」
詳しく聞いたら、守さんは明のことを小さな時から知っていたが、何もできない自分に憤りを感じていたようだった。
こうして明に直接付き添えることが幸せだといっている。
飲み物をいただき、一息ついたのでそろそろ帰らせてもらう。
守さんにお礼を言ってから家に戻って、ベッドへ横になる。
(修練場では何があるんだろう)
明日は学校以外に特にやることもないので、陰陽師からの占い結果に身をゆだねることにした。
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両親は朝から体調が悪そうだったので、気づかれないようにキュアーをしてあげた。
杉山さんが試作したアダマンタイトの剣を持って修練場へ向かっている。
修練場が開くのと同時に着くくらいに家を出たのに、もう開いており中には人がいるようだった。
(あれ? 遅かったかな?)
時間を確認したら、まだ開く時間になっていない。
今度はそれならなんで開いているのか疑問を持ちながら受付へ目を向ける。
受付のおじさんは事務所の奥で準備をしており、受付の椅子には座っていない。
俺の姿を見つけたおじさんが事務所から出てきてくれた。
「佐藤くん、久しぶりだね」
「おはようございます。開くのが早くなったんですか?」
「いいや、そんなことはないんだけど……」
おじさんはなにかを懐かしむように広場の方を見ている。
俺も広場を見ようとしたら、おじさんが腰に手を当てながら口を開く。
「熱心にここで武器を振るのは君以来いなかったから、最近はあの子が居たら早く開けてあげているんだ」
そう言ってからおじさんは事務所へ戻っていく。
俺とその人だけが広場に残り、剣が風を切る音が聞こえてくる。
その人が剣を振る姿を見ていたら、想定している相手が誰なのかわかってしまう。
(相手は花蓮さん……けど、どれだけ長い時間剣を振っているんだろう)
花蓮さんを鮮明にイメージしながら剣を振る人の動きを観察した。
広場を舞うように剣を操る姿に魅了されてしまいそうになる。
花蓮さんが実際には居ないはずなのに、その人を見ていたら居るかのように錯覚を覚えてしまった。
(この動きは簡単にできるものじゃない)
花蓮さんの剣に押し負けたその人が地面へ倒れてしまうので、手を差し伸べるために近づく。
「絵蓮さん、大丈夫ですか?」
「え……佐藤くん?」
絵蓮さんは困惑しながら俺の手を取って立ち上がってくれた。
手からスキルを読み取り、笑みがこぼれそうになってしまう。
◆
谷屋絵蓮スキル
体力回復力向上Lv4
剣熟練度Lv14
(Lv3) ┣挑発Lv5
(Lv5) ┣バッシュLv14
(Lv10)┗ブレイクアタックLv5
◆
(絵蓮さんもLv10を超えているスキルがある……京都でのことか……)
桜島で死にかけ、京都で鬼と戦ったことで格の上限が上がっているように思われる。
剣を振る姿を見ていた時から体の疼きが止まらない。
少し休憩してもらって、本題を切り出す。
「絵蓮さん、俺と勝負しましょう」
「きみと? 盾使いだよね?」
急な申し出を受けて、絵蓮さんは意外そうな顔をしている。
俺は背中の袋から剣を取り出して、絵蓮さんの前に出す。
「いいえ、剣を使いますよ」
「そう……ならお願いしようかな。そういえば、コカトリスを大量に剣で倒したことがあったわね」
絵蓮さんが俺と戦うことを了承してくれたので、再び広場に向かう。
広場の中央に向かいながら、絵蓮さんに1つの事実を教えてあげた。
「ちなみに、俺は花蓮さんに負けたことがないです」
「それなら証明してくれるかな?」
「いつでもどうぞ」
俺は剣を構えず、手を広げて絵蓮さんの剣を待つ。
絵蓮さんはそんな俺に容赦することなく、胴体の中心へ向けて剣を突いてきた。
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