全国大会編⑥~隣人~
結局、矢をつかむことができないまま下校の時間になってしまった。
花蓮さんは弓道場で最後まで部活を見学していた。
校門でレべ天を待とうとしたら、花蓮さんがスマホを見ながら先へ進もうとしている。
「天音ちゃん、先に帰っているって」
明が花蓮さんの横を歩きながら不思議そうな顔をしていた。
3人の後ろを付いていき、会話の内容へ耳をかたむける。
「天音さんですか?」
「一也くんの隣の家に住んでいる照屋天音ちゃんのことよ」
「……京都にも来ていただいていましたよね?」
「来ていたんだけど、いつの間にか帰っていたわね……何か知らないの?」
花蓮さんが俺へちらりと視線を送ってきた。
俺はできるだけ鮮明にあの日のことを思い出そうとする。
「ぬらりひょんを倒してから、宿で寝ていたらいなくなっていたな」
「いなくなっていたって……」
「それ以上は知らない」
その後、明へ街を案内するようにゆっくりと歩いた。
しかし、夏美ちゃんや花蓮さんと別れても、明が俺と同じ道を歩き続けている。
特に話をすることなく、明は俺から数歩離れた後ろにいる。
家がどこにあるのか知らなかったので、俺の家に近づいた時に話しかけようとした。
「明……」
「一也さん、少しお話があります」
「……ん?」
「家に寄っていただいてもいいですか?」
「ここなの?」
俺が覚えているぼろい平屋だった家が、いつの間にか豪華な日本家屋に変わっていた。
囲いで中が見えない時期もあり、特に気にしたことがなかったため衝撃を受ける。
木でできた門の前で、明がどうぞと言いながら扉を開けていた。
隣にできていたお屋敷のような家に入ると聞いたことのあるような声が聞こえてくる。
明がその部屋かの戸を開けたら、俺の両親とレべ天がテーブルの周りに座っていた。
「お待たせしてすみません。一也さんもお座りください」
「あ、ああ……」
明は荷物を置いてくると言いながら、別の部屋へ行ってしまった。
広い畳の部屋には、大きな木を輪切りにしたような丸いテーブルがある。
その上には豪勢な料理が並び、俺は部屋に入って立ち止まってしまった。
父親が自分の隣に置いてある座布団に俺を呼ぶ。
「一也はここに座りなさい」
「今日は何かあったの?」
荷物を座布団の後ろで降ろして、父親になんの集まりなのか聞いてみた。
父親が俺の背中を軽く叩きながら笑顔を向けてくる。
「隣に引っ越してきた安倍さんたちが晩御飯に招待してくれたんだ。話を聞いたら、京都で一緒に戦った仲なんだろう? 偶然ってあるもんなんだな!」
父親や母親が笑顔で俺とレべ天に声をかけていた。
俺は確実にこの場所を狙って、明が引っ越してきたと確信する。
(ただ、明1人だけでこっちに来れるわけがない)
陰陽道の巫女でも世間的には中学1年生なので、大人が誰かいるはず。
安倍宗家は明以外を俺が殺してしまったため、誰なのかまったく思い浮かばない。
腕を組んで考えていたら、料理を持った女性が明と一緒に部屋に入ってきた。
手に持っている料理を並べながら、俺へ顔を向ける。
「一也くん、久しぶりです。覚えていますか?」
「え?」
料理を並べる女性が俺をからかうようにうっすらと笑っていた。
その横顔にまったく見覚えがないため、その女性を凝視する。
20代前半に感じ、長い髪を三つ編みにしていた。
ずっと見ていても思い出せないので、料理が並べ終るまで見てしまった。
明とその女性が俺たちの向かい側に座る。
「改めまして、私は安倍
「すみません、あの時はそんなことを気にしていなかったので覚えていないです……」
「そうなの?」
守さんが驚いて目を見開いて俺を見ている。
父親が俺をフォローするように焦りながら声を出す。
「息子がご迷惑をかけて申し訳ない。今日はお招きいただきありがとうございます」
「いえ、今回は明さま……明ちゃんの案で御招待させていただきました」
守さんが明のことを様付で呼ぼうとしたら、明の手が少し動いていた。
気にせずに明が頭を下げてから挨拶を始める。
「安倍明と申します。京都では一也さんに大変お世話になりました」
2人が揃って深々と頭を下げるので、両親は俺の顔を穴が開くのではないかと思うほど見てきた。
頭を上げた明が説明をするようにかわいらしい笑顔になる。
「私は心から一也さんに救われました。今回はそのお礼と思ってください」
守さんが父親のコップにビールを注ごうとしていた。
なぜか明はジュースの入ったペットボトルを持って俺の横に来ている。
「一也さん、どうぞ」
「ありがとう……」
ジュースを注ぐ明の肌が綺麗で、横顔が俺へ接近してきていた。
急に心臓が脈を早め、体が火照るような気がしてくる。
ジュースを入れ終わった明が俺の目を見つめてきた。
ニコッと笑った後、明はレべ天のそばへ向かっていく。
レべ天はなぜかおどおどしながら飲み物を注がれ、明に何か耳元でつぶやかれている。
それから料理を楽しみ、守さんがお酒を飲みすぎた両親を家へ送ってくれようとしている。
レべ天が明にささやかれてからほとんど料理も食べず、会話にも参加していなかった。
両親が部屋を出たら、守さんが明を一瞬見たような気がした。
それと同時に明も立ち上がって廊下に出る。
「一也さんと天音さん、もう少しお話をしませんか?」
「ああ、いいよ」
俺は明の後に付いていこうと立ち上がった時、レべ天が俺の腕にしがみついてきた。
振り払うために力を込めようとすると、レベ天から心の声が聞こえてくる。
『行かないで!!』
なぜか必死にしがみついてくるレべ天が俺の腕をつかんだまま震えていた。
明はレべ天の様子を気にしないまま奥へ向かっていく。
「こちらへどうぞ」
明に案内された部屋は少し小さく、6畳ほどで床がフローリングだった。
そこに椅子とテーブルが用意されており、俺たちは座るようにうながされる。
「こちらへお座りください」
俺が椅子に座るものの、レべ天は俺の腕を離さずそばから離れない。
明はそんなレべ天を見て、床に正座をして頭を下げる。
「守護神様、私は一也さんへ事実を伝えるだけです。信じてください」
明はレべ天に対して、土下座をしたまま動かない。
レべ天はようやく警戒を解いたのか、俺の腕を離す。
「そんな風にしないでください。悪いのは……私なんです……」
それを聞いた途端、明がすぐさま立ち上がってレべ天の手をにぎる。
「それは違います! あなた様はまったく悪くありません!! むしろ一也さんをこの世界に導いた女神です!!」
「そ、そんなこと……」
目の前で繰り広げられていることを整理すると、明はレべ天が守護神だと認識している。
そして、俺がこの世界の人間ではないことをしっかりと把握していた。
2人の世界に入りそうな感じなので、俺にもわかるように説明を求める。
「明はなんでそのことを知っているの?」
「ご説明いたします」
レべ天を椅子に座らせてから、明も椅子に座った。
明は姿勢を正し、俺を正面に見すえる。
「私は京都の守護者となり、前任の安倍清明様からすべてを託されました。それで、そちらの女性が守護神様だとわかり、一也さんの魂がこの世界へ来たことを知りました」
「守護者にしたのは俺だもんな……」
「はい。ありがとうございます……あの方法しかなかったことも理解しているつもりです」
明の瞳は力強く、決して俺を責めるような眼で見てはいなかった。
血の印についても知っており、なぜレべ天が怯えるようなしぐさをしていたのか気になる。
「それなら、なんで天音は明と話すのを怖がっていたんだ?」
「それは……」
レべ天はテーブルへ目を伏せてしまい、口を閉ざしたままだった。
明がレべ天の代わりに、淡々と言葉を出し始める。
「守護神様は一番早くこの世界の人類を見限って、一也さんの世界に希望を求めてしまったからです」
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