全国大会編④~転校生~
学校から帰ってきたレべ天に戦車を海に落として、モンスターをおびき寄せる案を伝える。
レべ天が苦笑いになりながら俺の言葉を聞いていた。
「ダンジョンに兵器を持っていくとモンスターが出るんだろ? 海に落とせばリバイアサンが来ないかな?」
「それは、フィールドやダンジョンなどの限られた空間の話なので……今回はどうなんでしょう……」
レべ天は頭を抱えて、必死に考えているようだった。
戦車は簡単に海へ放り込むことができるようなので、これ以上ここで悩むのを止める。
「やってみたいから、明日にでも放りこめそうな場所を空と探してくるよ」
「……よろしくお願いします」
「じゃあ、家に戻ろう」
シャッターを閉めてから、レべ天と一緒に家に戻る。
リビングには晩御飯が用意されており、レべ天や両親と一緒に食べ始めた。
俺以外の3人は会話を楽しんでおり、俺はその様子を眺めている。
団らん中、テレビから大きい警報音と一緒に緊急速報と赤い文字が表示された。
テレビに注目をしたら、総理が緊急会見を開いている光景が映し出される。
汗が噴き出ている顔を拭うこともなく、かすれるような声で話を始めた。
「現在、世界中の海で巨大なモンスターがすべての航路を塞いでいると……WAOから報告がありました」
リバイアサンが世界中の船を沈没させているようだった。
暴れているとは知っていたものの、規模が大きすぎて想像できない。
気にせずに食事を進めていたら、ギルド長からかかってきたダンジョンでの電話を思い出す。
(ああ、あの電話で知りたかったのはリバイアサンのことだったのか)
後で電話をしてあげようと食後のお茶を用意しようとする。
3人にも飲むのか聞こうと顔を向けると、両親がテレビに釘付けになっていた。
夢中になっている時に話しかけるのも悪いので、全員分を用意してテーブルに戻る。
レべ天が気まずそうにコップを受け取り、両親が見ているテレビへ再び視線を送った。
総理が用意された原稿を早口気味に読んでおり、必死に聞いている両親が印象的だった。
「国連とWAOが協力し、国の垣根を越えて討伐するための艦隊を編成しております」
「ふーん……」
たくさんの国から戦艦や戦闘機などの兵器が投入されるというので、わざわざ俺の戦車を海に落とさなくてもいい気がしてきた。
日本からも複数の戦艦や部隊が参加をするそうだ。
総理からの発表が終わり、質問の時間になると言葉が宙を飛び交う。
意見を聞きながらノートパソコンなどに文字を打ち込んでいる人や、紙に何かを書いている人がいる。
しかし、ある質問がされると一斉に総理に視線が集中した。
「黒騎士と呼ばれている冒険者は日本からの部隊に含まれますか?」
「えー……それについては
総理が手元に用意されている紙をめくり始めた。
紙を見ながら総理が深呼吸をして、内容を読み始める。
「黒騎士は正式な冒険者ではなく、今までの行動はすべてボランティアにより行われていたため、この部隊には含まれておりません」
それを聞いた記者たちがほぼ同時に手を挙げる。
父親も内容が信じられないのか、同じように声を上げていた。
「そんな馬鹿な……今までのことがボランティアだって!?」
父親が口を開けたまま驚愕している。
俺は桜島や京都での戦闘で一切お金を貰っていない。
(自分が戦いたいから戦っただけで、それでお金を受け取るのはおかしい)
ギルド長に何度か桜島からの謝礼を受け取るように再三言われた結果、このような考えに至った。
この部隊への編成も俺になんの連絡もないため、最初から断られると思っていたのだろう。
お茶が飲み終わり、特に気になる内容でもなくなったため部屋へ行くことにした。
自分の使った食器をまとめて、シンクへ食器を置くために席を立つ。
「ごちそうさま。部屋に行くね」
「あ、ああ……」
父親は魂が抜けたような顔で俺を一目見るも、テレビへ視線を戻す。
レべ天も居た堪れないのか、食器の片付けを始めた。
俺が部屋でくつろいでいたら、スマホの振動が止まらない。
出るのも面倒と思いながら画面を見たら、佐々木さんからの着信だった。
通話ボタンをタップして、俺がスマホを耳へ当てると佐々木さんの声が聞こえる。
「一也くん、今は電話大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。どうしました?」
「さっきの会見は見たか?」
「見ました」
「……戦艦で海を暴れまわるモンスターに勝てると思うか?」
「俺に聞かれてもわからないですよ」
戦艦でリバイアサンと戦ったことなんてないため、俺は明確に答えることができない。
佐々木さんは不安そうに俺へ話をしてくる。
「黒騎士は……討伐へ向かうのか?」
「俺以外の人がなんとかできれば、それに越したことはないですよ」
「そうか……」
佐々木さんとの電話が終わった時、レべ天がリビングから戻ってきた。
明日行こうと思っていた戦車放り投げ作戦を中止して、世界の動向を見守る。
次の日、俺は久しぶりに学校生活を楽しむために朝から登校している。
学校へ向かう道中にも、昨日の総理の会見についての話が行われており、レべ天がそれを聞くたびに下を向く。
下を向くたびに額へデコピンをしていたら、レべ天にそっぽを向かれてしまった。
笑いながら謝っていると、もう学校へ着いてしまう。
下駄箱で靴を履きかえていたら、後ろから興奮したような話声が聞こえてくる。
「すっごくかわいい子がいたんだって! 信じろよ!」
「お前のかわいいは信じられないからな、誰を見てもかわいいって言うじゃないか」
「今回は特別! テレビで見たことがあるくらいの美人だぜ!?」
「なんでそんな子を見逃していたんだよ」
「確かに……転校生じゃないかな」
話していた2人は俺とレべ天を見て、口を噤んでしまう。
俺はなぜが人と目が合うと視線をそらされたり、道を譲られていたり、関わらないように意識されている。
他の生徒からいじめられているのではないかと田中先生に相談をしたら、鼻で笑われた。
俺をいじめるような人がいたら会ってみたいそうだ。
無視も立派ないじめだと職員室で言ったら、職員室中の視線を集めてしまったことを思い出す。
それ以来、田中先生に相談をするのはやめて、自分で解決するように努めている。
話をしていた2人が黙ったので、詳しく聞くために俺から話しかける。
「ねえ、今の話詳しく教えてよ」
「えっ!? なんの話ですか?」
「今、かわいい子とか話していたでしょ? 俺にも教えてよ」
「照屋さんよりはかわいくないと思います」
なんでいきなりレべ天の話が出てくるのか分からない。
もっとその子に話を聞こうとしたらレべ天が俺を引っ張ってくる。
「一也さん、もう行きますよ!」
「おい! まだ話の途中……」
「失礼しましたー」
レべ天に引きずられながら教室に入る。
机に荷物を置きながら、レべ天に俺の交友を邪魔された苦情を言う。
「俺の会話を途中で止めるな」
「相手が怖がっていたじゃないですか。あれは会話じゃなくて……事情聴取みたいでしたよ」
レべ天が笑顔で俺を見ていたので、頭に拳骨をくらわせておいた。
人が頑張って話しかけているのに、そんな風に見られて不服な気持ちも込める。
そんなことをしていたら、田中先生が教室に入ってくる。
ふと教室を見回すと、窓側の一番後ろに空席があった。
(昨日まであんな席あったかな?)
教壇に立って咳払いをした田中先生が教室中に届くように声を張って話を始める。
「今日から新しく皆さんと一緒に勉強をする転校生を紹介します」
田中先生が転校生を呼ぶために廊下に出ようとした時、教室の扉が廊下から開けられて転校生が入ってきた。
髪を肩の長さで整え、この中学校の制服を着た転校生を見る。
その姿に俺は冷や汗を感じ、思わず息を飲む。
田中先生の横に立ってお辞儀をした後、転校生が自己紹介を始める。
「みなさま、初めまして、安倍明と申します。京都から転校してきました。これからよろしくおねがいします」
自己紹介の途中から頭を抱え、横のレべ天を見たら目が合った。
俺は明がここにいる理由をレベ天に必死に心の中で聞いている。
しかし、レベ天には伝わらない。
「それじゃあ、安倍さんの席は窓側の……どこへいくの!?」
「見つめ合っているところ申し訳ありません」
「はっ!?」
俺の視界からレべ天を遮るように明が歩いてきた。
恐る恐る顔を上げたら、明が満面の笑みを俺に向けてくる。
「一也さん、あなたのことを追いかけるために転校しちゃいました。これからよろしくお願いします」
「よ……よろしく……」
「はい!」
手を差し出されるので、思わず握り返してしまう。
明の行動は田中先生を含めて、クラス中の視線をかっさらっていた。
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