第5章 ~日本攻略編~

全国大会編①~全国ギルド長会議~

「篠原ギルド長、聞いているのか?」

「はい、聞いています。黒騎士の件ですよね?」

「そうだ。私たちには話してもいいだろう!」


 東京にある冒険者ギルドの本部へ全国のギルド長が集まり、会議が行われていた。

 俺は静岡県の代表として出席している。

 本部の会長から黒騎士について質問をされても、答えることができない。


「一個人の情報を話すことはできません」


 俺の言葉に我慢ができなくなったのか、会長が立ち上がって俺へ指を向ける。

 俺を見ている会長の顔が大きくゆがみ、激昂していた。


「私には冒険者の情報を把握しておく義務があるんだ!! なぜ何も言おうとしない!!」

「ならなおさら言えませんね。彼は冒険者ではありません」

「そんなわけないだろう!! あんなに強い者が冒険者ではない訳がない!!」


 会長は何度も机を叩きながら俺へ言葉をあびせてきた。

 こうなることは佐藤が暴れてから予想済みだったので、冷静に対応ができている。


「どうしてですか? この中で黒騎士の冒険者情報を見たことがある人はいないんですよね?」

「だからこうして聞いているというのがわからないのか!!??」

「わかりませんね」


 会長が席を離れて俺へ近づいてきた。

 俺を見下ろしながら会長が怒鳴ってくる。


「お前がここで何も言わないと黒騎士の行動を制限するぞ!!」

「冒険者でもない黒騎士の行動をどんな権限で制限するんですか?」

「これ以上、正体不明な者を野放しにできないため、冒険者ギルドの所有する建物への立ち入り及びダンジョン等の入場制限を行う」


 会長がニヤニヤと俺を見ながら発案をしていた。

 それを聞いて、まったく困ることが無いため、平然と会長の案を承諾する。


「……それでよろしいかと」

「本気か篠原!? 黒騎士は一切冒険者活動ができなくなるんだぞ!?」


 会長が俺の肩をつかんでくるので、俺も立ち上がって肩から手を振り払う。

 会長は俺の言っていることの真意が分からないようだった。

 咳払いをして、会場の全員も巻き込んで話を行う。


「ここにいるみなさまのご意見だと思って、会長の言葉を聞いておりました。それでよろしいんですよね?」

「当たり前だろう。何を言っているんだ!」

「それはよかった。なら、今後は一切黒騎士に頼るような連絡を静岡ギルドへ行わないでいただきたい」

「そ、それは……」


 会場中がざわつき始め、会長も俺から数歩離れる。

 俺は畳み掛けるように黒騎士からの意見をこの場にいる全員へ言い放つ。


「今までは黒騎士はボランティアでモンスターの討伐をしていたため、桜島や京都のような救援活動を行わなくなります!! みなさんの地域でモンスターがあふれた場合は、各県で対応していただきたい!!」

「篠原……お前は自分の県が安全だからって、卑怯だぞ」


 会長の声が小さくなり、あろうことか卑怯とまで言われる始末だ。

 あまりのくだらなさに笑いがこみあげてきてしまう。


(冒険者ギルドはここまで落ちていたのか……)


 佐藤を通して、自分まで腑抜けてしまっていたことを自覚させられてしまった。

 おそらく、俺も佐藤と会う前まではこの集団と同じ考えをしていたのだろう。


(かつては武器を握りしめて毎日のようにモンスターを倒していたのに、なんという様だ)


 俺が笑っていることが不気味なのか、会長の顔から血の気が引いていた。

 久しぶりに手入れの怠っていない武器でモンスターでも狩りに行くことを胸に秘める。


「私が卑怯だと思うなら、みなさんも自分の県で冒険者を育成すればいい。少なくとも、私の県には黒騎士だけではなく、京都で活躍した数人の冒険者がいます」


 実際は佐藤が訓練を行なって、あのような活躍ができるようになるまで鍛えたらしい。

 佐々木に訓練内容を聞いたが、異常な内容で課した人間の正気を疑った。


(剣を1本だけを持ってモンスターの巣へ放り出されるなど、普通の人間では考えない)


 俺の言葉で会議場内のざわめきが収まらず、会長もその場から動こうとしない。

 この状況はもう知ったことではないため、席へ座りなおす。

 その時、扉が勢いよく開け放たれ、中年の男性が肩で息をしながら会長へ向かって叫ぶ。


「会長!! WAO世界冒険者協会から緊急発表が行われています!!」

「なんだと!? ここへ映像を回せ!!」

「は、はい!!」


 会長も自分の椅子に座り直し、WAOの発表が流されるのを待っている。

 ざわめいていた会場は静寂を取り戻し、全員が息を飲んで映像を待っていた。


 会議場の前方にある大型スクリーンにWAOからの会見が映り、その内容に注目する。


 内容を聞き終わった会議場では、7月末に行われる全国競技大会の延期を検討する意見などが出た。

 すべてを聞き終わった会長が、最後に全員を見ながら総括をする。


「これより、防衛省等関係機関と連携して事態の収拾を行う。大会等の日程は今後の動向次第。以上!」


 それを聞いた全員が一斉に会場を立ち去り始めた。

 俺はスマホに緊急速報として通知された内容を確認する。


【海中より謎の巨大モンスター出現!! 損失は世界規模か!?】


 WAOは最近増えていた貨物船等の沈没事故を巨大モンスターによる被害だと断定。

 現在は、安全のために世界中の航路を遮断したことを発表。

 物資等の輸送は空輸のみになっていると補足した。


 日本はエネルギーのほとんどを船により輸入しているため、生活に与える影響が計り知れない。

 今後に不安を覚えながら会議場を後にする。

 東京から静岡に帰る新幹線の中で、佐々木へ連絡をした。

 電話に出た佐々木も会見を見ていたようで、俺は余計な会話をせずに本題へ入る。


「佐々木、佐藤は何か言っているか?」

「それがまったく……電話に出ません」

「またか……」

「はい……またです……」


 佐藤はほとんど連絡に出ることはない。

 電話に出たとしても、必ず何か佐藤に用件があるときだけだ。


(この前の元第2地区の校長たちと話がしたいと連絡を受けた時は、なにが起こるかと思ったが……)


 今は関係ないことを忘れて、佐々木になんとしても佐藤と話をするように言って電話を切る。

 移動中で何もできないことに我慢ができなくなり、俺も佐藤へ電話をかけてみることにした。


 出ないと思いつつ電話をかけて画面を見つめていたら、【通話中】と表示される。

 スマホを耳に押し付けると、佐藤が息を荒くしながら電話に出てくれていた。


「佐藤か!? 今どこにいる!?」

「今ですか? ……ちょっとダンジョンの中なのでわからないです」

「またお前は……今は大丈夫なのか?」

「20秒くらいなら平気です」


 電話越しに何か雷が弾けるような音が聞こえるので、誰かとダンジョンへ入っているのだろう。

 用件を時間内に伝えるため、早口で話す。


「今、世界中の海で巨大なモンスターが暴れている……何か知っているか?」

「すみません、わからないです」

「そうか……」

「これ以上、持ちそうにないのでこれで切りますが、少し調べてみますね」

「ありがとう」


 俺が落胆したことがわかったのか、佐藤は最後に一言放ってから電話を切った。

 会長と話をするときよりも緊張している自分を苦笑してしまう。

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