京都攻略編24~富士山にて~

 俺は富士山の決闘場にて、七輪の上でとうもろこしを焼いている。

 醤油を塗りながら焼いていたら、醤油の焼けたにおいが漂う。

 その様子を食い入るように見つめる5歳くらいの白い子供がおり、にらみつけるように白い大人の女性から見下ろされていた。

 

 レべ天に召喚された時、ここで子供が泣いており、俺の姿を見つけたら抱きついてきた。

 それを良く思っていないのか、この子の母親と思われる女性からずっと鋭い視線を送られている。


「できた!」

「おおー!! はやくはやく!!」


 白い子供が拍手をしながら俺へキラキラとした瞳を向けた。

 大人の女性は何も言わずに、競技場の奥にある空間へ歩き始める。


「食べるなら、ちゃんと椅子に座ってからよ」

「うん!」


 白い子供が大人の女性を追いかけるように走り出す。

 俺は焼きトウモロコシを持ち、終始おろおろとしていたレべ天に声をかける。


「天音、あれは本当に【エンシェントドラゴンの親子】なのか?」

「そうです。奥には生活スペースがあるんです」

「この世界は俺の知らないことばかりだ」


 俺がレべ天と話をしていたら、子供がこっちへ向けて手を振っている。


「しゅごしん様と一也さん!! 早く来てください!!」

「今行くよ!」

「早く食べたいです!!」


 俺は笑顔で子供の言葉に答えて、レべ天と一緒に居住スペースという場所へ向かう。

 歩いている最中に、2人について質問をした。


「あの親子の名前ってあるの?」

「……そういえば、聞いたことないですね」

「そんな文化ないのかな」

「多分……あの2人の他にエンシェントドラゴンがいないですからね」

「たくさんいたら怖いな」

「本当に……」


 居住スペースという場所に入ると、普通のリビングの光景が広がっていた。

 子供が椅子に座って、テーブルには何も置かれていないお皿がある。

 俺はそのお皿へ焼いたトウモロコシを山のように積み上げた。


「おおー!! 食べてもいい!?」

「いただきますをしてから食べなさい」

「いただきます!!」


 その子は手を大きく打ち鳴らしてから、両手でトウモロコシを持ってかぶりつく。

 美味しく焼けてくれたのか、足を嬉しそうに揺らしながら食べていた。


 大人の女性は微笑んで子供を慈愛のこもった瞳で見つめており、本当にこの子の親ということが分かる。

 俺の視線に気付いたのか、咳払いをした。


「冒険者よ、この子を助けてくれてありがとうございます」

「いえいえ、俺もこの子に助けられたので、気にしないでください」


 俺と大人の女性がお互いに頭を下げていたら、トウモロコシを食べていた子供が手を止める。


「お母さん、その人には一也さんって名前があるんだよ!! 冒険者さんって名前じゃないよ」

「そ、そうね……」

「お礼を言う時は心を込めてって、お母さんいつも言ってるでしょ!」

「わかっているから、あなたは食べていなさい」

「はーい」


 とうもろこしを食べながらも子供に見張られているため、大人の女性は気まずそうに俺を見る。

 軽くため息をついて、リビングの奥へ行ってしまった。


 レべ天はここへ来たことがあるのか、ソファーでくつろぎ始める。

 俺は子供の横に座って、トウモロコシの感想を聞く。


「美味しい?」

「すごく美味しい!! 作ってくれてありがとうございます!!」

「よかった。たくさんあるから遠慮なく食べな」

「うん!!」


 トウモロコシを食べ続ける子供がエンシェントドラゴンの子供と思うことができない。

 どうみても就学前の幼い子供なので、その食べっぷりを見ていたら自然と頭を撫でてしまう。


 子供が嬉しそうに喉を鳴らしながら食べ続ける。

 小さい子供と接する機会なんて今までなかったため、新鮮な気持ちを覚えた。


 頭をなで続けていたら、後ろからくる気配に気づくのが遅れる。

 俺の背後に誰かが立つのを感じて、思わず椅子から立ち上がった。


 後ろにはこの子の母親が立っており、複雑そうな目で眺められていた。

 どうすることもできず、緊張感が漂い始める。


「佐藤一也、感謝の気持ちとしてこれを受け取ってください」


 大人の女性が手に白い玉を俺へ差し出してきた。

 玉を受け取りながら、【鑑定】を行う。


【白龍の宝玉】


 俺は持っていた玉を何度も鑑定して、結果が合っているのか確認してしまう。

 白龍の宝玉は、願いがなんでも叶うとされているマジックアイテム。

 エンシェントドラゴンへ最後の一撃を入れた者が極僅かな確率で獲得できる。

 ゲームでも俺は何十年間、1度も手にしたことが無い。


 玉を持ったまま固まっていたら、白龍の母親が子供の頭をなでている。


「私はこの子がいなくなって、もう世界などどうでもいいと思ってしまいました」

「……」

「あなたは私へ再び生きる希望を思い出させてくれました。それはそのお礼です」


 白龍が優しく微笑みながら子供を見ている。

 この手にあるものは手から喉が出るほど欲しいが、こんなことで貰うことはできない。


「んーっ!!!!」

「え!?」


 葛藤しながら白龍へ宝玉を押し付けた。

 白龍と子供が目を点にしながら俺を見ており、レべ天はあきれるようにソファーへ顔をうずめていた。


「これは本気のあなたを倒した時にいただきます!!」

「あなたが私を倒せるとは思えませんが……」

「今までは本気じゃなかったですもんね! 必ず倒すので、預かっておいてください!!」


 ぬらりひょんと戦った時に、上級モンスターの強さを実感した。

 それをはるかに凌ぐ白龍と俺が普通に戦えるわけがない。


 白龍は手加減ができないと言いつつ、俺が死なない程度に戦ってくれていた。

 それが悔しくて堪らず、俺は素直に宝玉を受け取ることができない。


 俺の行動を見ていた子供が、母親の袖を引っ張っていた。


「お母さん、一也と戦うの?」

「……そうね。次から本気で戦うと思うわ」


 子供は食べ終わったトウモロコシをお皿に置いて、俺の横に立つ。

 何かと思っていたら、子供が母親へ向かって胸を張る。


「なら、僕も一也と一緒にお母さんと戦うよ!」

「ちょっとどういうこと!?」


 白龍が初めて俺の前で焦るように膝をついて、目線を合わせながら子供の手をにぎった。

 子供は意志が固いのか、不安そうな母親を余所に俺を見てくる。


「僕は一也と一緒に世界を知りたいんだ」

「まだそんなことを……」

「一也と一緒にお母さんに勝てたら、もう僕は弱くないから自由にしてもいいでしょ!?」


 それから何度か白龍が子供の説得を試みるが、子供はまったく諦めない。

 白龍は子供を抱きしめながら、涙声で子供へささやく。


「わかったわ……お母さんは本気で戦うから、必ず私を超えなさい」

「うん!!」


 白龍が子供から離れて、俺の手をにぎってきた。

 今までのやり取りを見ていたため、何を言われるのか身構えてしまう。


「この子をよろしくお願いします」

「はい!」


 力強く返事をして、白龍を少しでも安心させてあげたい。

 悲しそうに微笑みながら、白龍が言葉を続ける。


「なら、この子に名前をお願いします」

「名前ですか?」

「冒険者は仲間にしたモンスターに名前を付けるんでしょう?」

「そういえばそうですね」


 テイムしたモンスターと共に行動していた人がいたが、俺は自分にモンスターが懐くとは思わなかったため、テイムをしたことがなかった。

 白龍の子供を見ながら名前を考えていたら、この子の言ったある言葉を思い出す。


 白龍の子供の手をにぎりながら、笑顔で名前を伝える。


「今日からきみの名前は【ソラ】だ」

「ソラ?」

「ああ、世界を自由に飛び立とうとするきみにぴったりの名前だよ」

「ありがとう!! 僕は今日からソラだ!!」


 空は名前が決まってから闘技場ではしゃいでしまい、しばらくしたら倒れるように寝てしまった。

 白龍が空を抱きかかえて、ベッドへ連れていこうとしている。


「今日はありがとうございました」

 

 白龍に見送られながら、ワープホールを使用してレべ天の家に帰った。

 レべ天へ連絡をすれば、空を俺のもとに召喚してくれるそうだ。


 レべ天はもう寝ると言いながら家の奥へ行ってしまったので、家にある俺の部屋に入る。

 部屋にはベッドと俺が取得した大量の武器が積み重なっていた。


(明日は大量に取れた金棒を杉山さんのところへ運ぶか……)


 予定を考えながら、武器に囲まれたベッドで横になる。

 スマホを見たら、知らない番号から伝言を残されていたので、寝る前に聞くことにした。


「こんばんは、安倍明です。佐藤一也さんの番号で合っていますか? 合っていたら連絡をください」


 明に番号を教えた覚えがないので、疑問を持ちつつも番号を使ってメッセージを送る。


【番号合っているよ。どうやって知ったの?】


 深夜に近い時間だったため、返信は明日見ればいいとスマホを枕元へ置く。

 目を閉じたら、スマホが震えた。

 薄目で画面を見たら、明からの返信が来ている。


【合っていてよかったです。番号は占いで出しました】


 内容を読んで言葉を失ってしまう。

 この数字の順番を正確に占いで出した明を思い浮かべる。


(……陰陽道怖い)


 俺は陰陽道に対抗するために、自分を常時隠密状態にする訓練を始めることを決意した。

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