京都攻略編23~眠れない夜~

 京都駅までの道中、明から今までの境遇を聞いた。

 話されているのは俺のはずなのに、周りを歩くギルドの人たちが泣いてしまっている。

 

「私は助けられたあの時から、あなたのことを忘れたことはありません」

「……そうだったのか」

「はい……心からお慕いしております」


 明の告白により、周囲の人々息を飲んで俺の返答をうかがっていた。

 笑顔で明の頭をなでながら、今まで耐えてきたことを尊敬する。


「明はすごいな。それでよく京都を守ろうって判断ができた」

「あなたのおかげです」

「……」


 明はなんでも俺の存在が心の支えになり、俺との思い出の場所だからこの街を守ったと言う。

 しかし、それを言う明を見て、俺はなおさらこの告白を受けるべきではないと判断した。


「明、よく聞いて」

「……はい」


 何かを感じ取ってしまったのか、俺の表情を見る明の目が下を向いてしまう。

 明へ諭すように言葉を伝え始める。


「明はまだ12年しか生きていない。これからもっと色々な人と会うし、経験もする」

「嫌です……」

「だから、俺は明の告白にうなずくことはできない」

「うぅ……」


 明の体が悲しそうに涙を流しながら体を震わせている。

 京都駅に着くまで涙が止まることはなく、泣かせてしまった俺は拭ってあげることもできない。

 

 京都駅に着いてから、明をギルドの人に受け取ってもらい、馬から地面へ降ろした。

 俺も馬を下りて、3人が俺の横に並んでから、明へ声をかける。


「明! それでも俺と一緒に歩きたかったら、俺たちに追い付いてこい」

「え……」

「たくさん感情を出して、たくさん自分の好きなことをして、それでも俺の横に居たいと思ったら全力で俺を追いかけてこい!」


 明や周りの大人たちは呆気にとられながら俺を見ていた。

 俺は高らかに笑いながら、両手を天に向けて大きく広げる。


「世界はすごく広くて、俺でも知らないことがたくさんある。俺は1つでも多く経験するために全力で走り続けたいんだ!!」


 笑いながら駅に入ろうとする俺の背中へ、明が大きな声で叫んできた。


「追い付きます!! 必ずあなたに追い付きます!!」


 俺は言葉を放つことなく、手を振って京都と明に別れを告げる。


 新幹線に乗る時、花蓮さんたちから冷ややかな目で見られていた。


 俺だけ1人の席に座り、他の3人は隣り合って座っている。

 一番近くに座っていた花蓮さんから、ため息をつかれながら横目で見られた。


「明、きれいであんなに一也くんのことを想っていたのに、振られて可哀そうだなー」

「花蓮さんにはそういう人いないんですか?」

「は!?」


 俺のことばかり言われていたので、花蓮さんにも思う人について聞いてみる。

 花蓮さんはにらむように俺へ目を向けた。


「今はそんなことより、殴りたい人がいるから……どうでもいいわ」

「そんなに恨まれている人がいるんですか?」

「べー」


 花蓮さんが俺へ舌を見せてから、そっぽを向いてしまった。


 ただ、耳がほのかに赤くなっているような気がしたが、夏で新幹線の車内が暑いせいだと思う。


 俺は着物を着ているので、汗が止まらない。

 早く静岡に着くように願いながら、眠りについた。



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「真央さん、送っていただいてありがとうございました」

「いいよ。じゃあな」

「お気をつけて」


 静岡駅から家の近くまで運んでくれた真央さんの車へ手を振って見送る。

 家までは徒歩で数分だったのだが、着物姿で歩いていたら何人も写真を求められた。


 やっとのことで家に着いたら、家の前に両親がいて、複数のカメラが来ている。

 誰かが俺のことに気付いたのか、両親へ俺のことを教えていた。

 気にせずに歩いていたら、両親が俺へ駆け寄ってくる。


「待って! 今はこれを脱がせてほしいんだけど……」


 俺に抱き付こうとしてきた両親を止めて、汗だくの顔を見せた。


 この着物は夏仕様などと甘いことはなく、普通の着物なのでこんな天気の下で着ていたら倒れる。


 やせ我慢をしていたが、家を見て安心したら一気に疲労が俺を襲う。


 両親や報道陣を押し退けながら家に入り、着物を脱ぎ始める。

 畳み方はスマホを見ながら試行錯誤した。


 しかし、どうにも上手くできないので、今度近くの着物教室へ行ってみようと決心する。

 着物の片付けを諦めてリビングへ下りると、報道陣から解放された両親がなぜかそわそわしていた。


「言うのが遅くなってごめん、ただいま」


 俺が来たのが分かった両親は険しい表情で俺へ向かって駆け寄ってくる。

 両親から逃げるわけにもいかないので、俺はなにが起こるのか疑問に思いながら待つ。


「「お帰り!」」


 両親は俺をはさむように抱きしめながら俺の帰りを喜んでくれた。

 俺は体をはさまれた苦しみを感じながらも、笑顔でそれに応える。


「心配かけてごめん」


 両親はテレビで俺の京都での行動を知ったようだった。

 朝の時間のニュースで流れた俺が盾で銃撃戦を戦い切ったのを見て、心臓が張り裂けそうになったそうだ。


 急に京都へ行ったことを怒られた後、人助けをしてきた俺を誇りに思うと言われる。

 京都ではやりたいことしかしていなかったので、褒められると恥ずかしくなった。


 自分の部屋に戻ると、旅館の快適な部屋を思い出してしまう。

 ただ、落ち着くのはこっちの部屋なので、布団へ入って寝ようとした。


『一也さん助けてください!!』

『どうした!?』


 まったく音沙汰のなかったレべ天から急に連絡が入ったため、ベッドから飛び起きて武器を手に取る。

 またモンスターと戦うのかと思いながら、レべ天の言葉を待つ。


『【この子】がご飯を食べてくれないんです!!』


 持っていた武器を戻して、レべ天の言葉を自分の中で繰り返す。


(この子ってどの子? 子ってことは子供だよな……レべ天の子供じゃないとおもうし……)


 レべ天が隣の家に居ないことを気配察知で確認をして、富士山にいると仮定したら1つの考えが浮かぶ。


『もしかして、エンシェントドラゴンの子供?』

『そうです!! どうすればいいと思いますか!?』

『俺の知る限りでなんとかするから、ちょっと準備させて』

『本当ですか!? お願いします』


 そういえば、エンシェントドラゴンの子供を富士山へ返したことを思い出した。

 荷物の中に詰め込んでいたリュックを取り出しながら、小さな白いドラゴンについて考える。


(あの子にちゃんと食べさせてあげよう)


 俺はリュックを背負って、リビングにいる母親へ家にある物がないか聞いた。


「おかあさん、家に七輪ってあるかな?」

「そんなのないわよ……」

「そうなんだ……わかった! 少し出かけてくるね!」

「もう遅いけど、どこかに泊まってくるの?」

「天音の家に泊まるよ! 行ってきます!」


 両親は不思議そうな顔をして俺を見送る。

 時計を見たらホームセンターが開いているか微妙な時間だったので、全力で走り出す。

 ホームセンターで無事に七輪や炭を購入することができた。


(スーパーは24時間やっているからゆっくりいこう)


 俺は小さな白いドラゴンに食べてもらうための材料を求めてスーパーへ向かった。

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