京都攻略編22~京都凱旋~

「佐藤様、希望されていたものはすべて用意できました」

「本当ですか!?」

「はい。ご期待に応えられるものだと思います」

「ありがとうございます!」


 俺は初老の男性へ頭を下げてお礼を言う。

 まさか全部用意できるとは思わなかったので、心から感謝を伝えられる。


「最初に渡したお金じゃ足りないと思うので、あれもお願いします」


 俺は初老の男性の手厚いサービスの対価として、机の上に置いてあるお金を見る。

 しかし、男性は首を振り受け取りを拒否してきた。


「京都を救っていただいた方から受け取ることはできません」


 男性はお金を見もせずに俺へ笑顔を向ける。

 男性の手には、俺が最初に支払ったお金が用意されていた。


 俺も出したお金を持って帰れないので、妥協案を提示する。

 男性からお金を受け取って、机の上に追加して置いた。


「なら、このお金はここへ捨てておきます。自由に使ってください」

「……わかりました」


 男性は目を見開いてから俺へゆっくりと頭を下げる。

 帰る準備を整えるために、男性へ声をかけた。


「出る準備をしていただいてもいいですか?」

「お任せください」


 俺は男性に案内されながら、帰るための準備を始める。

 準備を終えてからロビーへ向かうと、そこには3人しかおらず佐々木さんと絵蓮さんがいない。

 仲居さんなどもまったくいないため、この空間さえも用意されたことを察した。

 

「お待たせしました」

「どれだけ待ったと……」


 花蓮さんが俺へ顔を向けながら文句を言おうとしたまま止まってしまう。


 他の2人も目を見開いて俺を見つめていた。

 俺は思い通りの反応をしてくれた3人へ自分の姿を披露する。


「この着物すごいでしょ。お気に入りなんです」


 俺はこの前、京都府ギルドへ歩いていった時に着させてもらった着物を購入できないか初老の男性に交渉していた。

 この着物は何かの賞を獲得していて、非常に希少価値の高い物だというので自分の払える限りのお金を払おうとしたが、受け取ってもらえなかった。


 3人に着物を自慢して満足したため、この後のことを相談するために佐々木さんと絵蓮さんがどこにいるのか聞く。

 夏美ちゃんが目を輝かせながら俺の着物を見るために近づいてきていた。


「佐々木さんと絵蓮さんはどこですか?」

「えっと……佐々木さんはお酒を飲みすぎて寝ちゃいました」

「疲れていたんだね」

「うん……美味しい美味しいって、泣きながら飲んでいたよ」

「ならいいか」


 佐々木さんは仕事と訓練の両立で、4人の中で一番苦労をしてきたため今日くらい休ませてあげたい。

 それなら、絵蓮さんだけでもいないか探そうとしたら、真央さんが口を開く。


「先輩は私たちに合わせる顔が無いって言って、先に静岡に帰ったみたい」

「人の誘導をしたり、人をまとめたりしたり活躍していたじゃないですか」


 真央さんはそれ以上言えなくなってしまい、代わりに花蓮さんが話をする。


「私たちと一緒に戦えないのが悔しかったみたい」

「そんなこと分かりきっていたじゃないですか」

「……【黒騎士】様と肩を並べて戦いたかったみたいよ」

「それは4人と同等以上にならないと無理ですね」

「そうよね……お姉ちゃんが強くなりたいって言ったら……」


 花蓮さんは俺の目を見つめてから、首を振って言葉を止める。

 絵蓮さんのことを考えながら話を聞いていたので、真央さんを見てしまう。


 真央さんは花蓮さんの言葉を複雑そうな顔で聞いていた。

 花蓮さんが俺を奮い立たせてくれたことを思い出して、花蓮さんの言葉を待つ。


「なんでもない。忘れて」

「本人が心から望めば俺は拒みませんよ」

「いいの?」

「たとえ下半身が吹き飛ぼうとも、腕がなくなろうとも、闘志を持ってくれれば」

「あれね……」


 4人は体のどこかを欠損したまま戦ったことがある。

 佐々木さんにいたっては、下半身が吹き飛んだまま1回でも多く魔法を使わせようとした。


 そのことを思い出しているのか、3人とも表情を曇らせる。

 そんな時、初老の男性が旅館の奥から戻ってきた。


「みなさま、お待たせして申し訳ありませんでした」

「安倍様のご用意ができましたので、これより京都駅までお送りします」

「よろしくお願いします。それじゃあ、行きましょう」


 俺は事前に打ち合わせをしてあるので、そのまま外へ出ようとする。

 よくわかっていない3人が動かないまま、夏美ちゃんが心配するように俺へ聞いてくる。


「明はどこにいるの?」

「もう外にいるよ」

「そうなの?」

「うん。早く迎えに行ってあげよう」


 そう聞いて、安心したように3人が外へ出てくれようと歩き出す。

まだ旅館に残っている佐々木さんのことを初老の男性へ頼む。

 笑顔でお任せくださいと頭を下げてから、俺と一緒に外へ歩き出した。


 先に外へ出ていた3人は用意されていた【もの】を見て絶句している。

 俺は平然と近づいて、それに乗る。


「真央さんと花蓮さんは乗れますよね? これに乗って京都駅まで行きますよ」


 着物姿で【馬】に乗り、京都駅まで向かいたいという希望を初老の男性へ伝えていた。

 それを聞いた時、額から冷や汗のようなものが噴き出ていたが、馬を4頭用意してくれたということは準備ができているということだ。


「あなた本気!?」


 花蓮さんが俺の正気を疑うようなことを聞いてきている。


 俺はこの姿で馬に乗り、京都を凱旋することで全国へ京都が無事であるということを伝えたい。

 丁度、旅館の前には多数のカメラや報道陣が来ている。

 有名になって色々障害もあるが、今は気にしない。


 馬にまたがったまま乗るのを待っていたら、夏美ちゃんが困っている。


「夏美ちゃんは花蓮さんか真央さんと一緒に乗るといいよ」

「一也くんは?」

「先約があるからごめん」

「……」


 夏美ちゃんが真央さんに頼んで一緒に馬へ乗っていた。

 花蓮さんが1人になるので、俺は用意した緑色の棒に付けた旗を花蓮さんに渡す。


「花蓮さんはこれを持っていただいてもいいですか?」

「何この旗?」

「静岡県の県旗ですよ。みんなにわかるように棒を高く掲げてくださいね」

「こんなものまで用意したの!?」

「一応、俺たちは静岡県の代表ですから」

「はあ……」


 花蓮さんが呆れながら棒を立てて、旗を掲げてくれた。

 初老の男性も馬に乗り、俺たちの案内を始める。


「みなさまこちらへいらしてください」


 真央さんや花蓮さんは馬に乗れると言っても、運転しているようなものだ。

 俺は手綱も持たず、スキルを使用して自分の一部のように馬を操る。


 旅館の敷地を出る直前に、青い傘の下で待っている人が見えた。

 俺はそこまで近づき、手を差し伸べる。


「駅までの道のり、ご一緒していただいてもいいですか? 明さん」


 傘の下には綺麗な青の着物を着た明さんが待っていた。

 明さんは俺へ潤んだ目を向ける。


「よろしく……お願いします」

「どうぞ」


 俺は明さんの手を引いて、抱えるように馬へ乗せる。

 俺の腕の中で戸惑う明さんを不安にさせない。


「京都へ結界を張ってくれたお礼です。帰る間、お話ししましょう」

「ありがとうございます」


 いきなり俺へ結婚を申し込んでくれたこともあり、明さんは提案に賛同してくれた。

 旅館の敷地を出た時、報道陣を抑え込んで銃を持った黒い集団が俺たちを囲む。


「佐藤一也さんとその御一行様ですか?」

「ごらんのとおりです」


 以前とは違い、集団は銃を下に向けて俺たちを見る。

 一番前にいた人が手を上げると、俺たちの前に誰もいない道が出来上がった。


「私たち京都ギルド一同は警察機関と協力して、あなた方一同を無事に京都駅まで送り届けます!!」


 こんなことをしてくれるなんて思ってもいなかったため、俺は初老の男性へ笑顔で視線を送る。

 俺へ深く頭を下げるので、俺は高らかに笑い始めた。


「これより我らの凱旋だ!!」


 ギルド員と思われる人たちが俺たちの周辺を守りながら、何もいない道路を進む。

 その沿道からは、京都を救ったお礼などの声援が送られる。

 道を進みながら、腕の中にいる明さんにこの結果を見せつけた。


「これが、明さんが頑張った結果だよ」

「私だけじゃないです……みなさんがいたから」

「明さんがいなかったら、俺はここにいない」

「1年前のことがあったから、来ていただけたんですよね」

「うん。ドラゴンも無事だったよ」

「よかった……」


 明さんもドラゴンのことが気になっていたのか、安堵している。

 ドラゴンについて占っても、【白いドラゴン】はどこにもいないと結果が出ていたようだ。


 俺は明さんにいきなり結婚を申し込んできた理由を聞き始めた。

 明さんが何か気になることがあるのか、眉を少し下げて俺を見る。


「すみません。その話の前に、一也さんには私のことを明と呼び捨てにいていただきたいです」

「できないよ」

「お願いします」


 俺の腕の中で両手をにぎりながら懇願する彼女を見て、京都の英雄の希望を叶える。


「わかったよ。明、話してくれる?」

「はい」


 明は頬をほのかに赤く染めながら俺を見つめ続けていた。

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