京都攻略編21~仲間襲来~
「佐藤様、佐藤様、就寝中に申し訳ありません」
「……はい?」
聞き覚えのある声に体を揺すられて起こされる。
布団から身を起こしたら、旅館の初老の男性が困った表情を俺へ向けてきていた。
「どうしましたか?」
「佐藤様の知人という方々が旅館の入り口にいらっしゃっております」
「知人ですか?」
「はい……今はロビーで待っていていただいております」
俺はあくびをしながら体を伸ばし、初老の男性の言葉を聞き返す。
初老の男性は焦るように俺をロビーへ案内しようとしていた。
気にせずにテレビを付けたら、この旅館が映されている。
敷地内には入らないようにしているようで、この旅館の仲居さんが必死で止めていた。
「なんでこんなに集まっているんですかね?」
「おそらく昨晩のことが原因かと……」
少しだけ誰が旅館で待っているのか気になったので、初老の男性に顔を向ける。
「ロビーにはどんな人が来ていますか?」
「この人たちがきております」
初老の男性が示すテレビには、佐々木さんたちと俺へ求婚を迫ってきた巫女が映されていた。
全員がここへ直行してきたのか、疲れているように見える。
「俺は帰る準備をするので、その間この5人へお風呂と食事をお願いします」
「かしこまりました」
テレビを見ていて普通に帰るのが勿体なく感じた。
初老の男性が部屋の外へ出ようとした時に、呼び止めて俺の準備もしてもらう。
相談をしているうちに、男性の顔がみるみる曇ってしまった。
「できますか?」
「できるだけ……しょ、少々お待ちください!」
男性は足音を立てながら部屋を出ていこうとする。
そんなに急ぐ帰宅でもないので、なるべく明るい声で男性の背中へ声をかけた。
「これからお風呂に入るので、ゆっくりでいいですよ」
「ありがとうございます」
部屋を出る時にゆっくりと頭を下げてから扉を閉める。
しかし、廊下を走っているのか少し振動を感じた。
(そんなに困るようなことを言っちゃったかな?)
ただ、初老の男性が全力で俺の希望をかなえてくれようとしているのはわかるので、俺もそれに応える。
リュックの中に入っているお金をすべて机の上へ並べた。
全部で3000万ほどしか入っていなかった。
(少ないな)
足りないと思い家にあるお金を全部送ってもらうためにレべ天を探した。
部屋にいるはずのレべ天に頼もうとしたら、どこにもいない。
露天風呂にもいなかったので、心で連絡を取ってみる。
『天音、今どこ?』
『立て込んでいるので後にしてください!!』
『ご、ごめん』
心の中でレべ天に拒否されるのが初めてだったので、よほどのことが起こっているのだろう。
しかし、俺に手伝いを求めないということは、モンスター関連ではない。
(俺も露天風呂に入って帰る準備を始めるか)
俺は服を脱ぎ捨てて、京都の絶景が見られる露天風呂で体を癒し始めた。
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「部屋へは案内していただけないのですか?」
「はい……佐藤様からみなさまへ当旅館自慢の温泉と、食事で休んでほしいとのことです」
「あくまでも会わせることはできないと」
「帰宅準備をしているので、みなさまが休まれた頃には来ていただけるかと……」
「ほう……」
佐々木さんと呼ばれる男性が私を見てきて、旅館の男性が言っていることを確認する。
旅館の男性へ向かって【力】を使い、言葉の真偽を確かめた。
「内容はすべて本当のようです」
「ありがとう」
佐々木さんが旅館の男性へ案内をしてもらうように頼み始める。
私たちはうながされるまま温泉の脱衣所へ入ってしまった。
体を洗った後に温泉へ髪が浸からないように、タオルで巻いていたら背後から誰かが近づいてくる。
何も持っていない花蓮さんが私の体を興味深そうに見ていた。
「明の肌きれいね」
「え!?」
肌をほめられたことなんて1度もないので、恥ずかしくなってしまう。
逃げるように温泉に入ったら、先に入っていた真央さんが私の肌を指で押してくる。
「本当だ。焼けてもないし白いな」
「やめてください……」
「ごめん、私らはこんなだから珍しいんだよ」
「うらやましいです」
夏美ちゃんも私の肌と自分の肌を見比べていた。
逆に私は3人の健康的な肌色がうらやましい。
「私は家に閉じ込められていたので、みなさんのようになりたいです」
「どういうことなの?」
私の一言で重苦しい空気になってしまい、花蓮さんが私へ心配するように聞いてきてくれた。
私は自分の言葉で、3人へこれまでの人生を伝える。
「私は、京都に古くからある安倍家という家に生まれました」
「安倍?」
「安倍清明の子孫になります」
「すご……」
名前を聞いて真央さんが驚くが、私は暗い過去を思い出してしまう。
私の顔を見た花蓮さんが真央さんへ耳打ちをしている。
真央さんは申し訳なさそうに私へ謝ってくれた。
もう気にしていないので、首を振ってから話を続ける。
「私は父と不倫相手の子供で、生まれてからすぐに屋敷に閉じ込められました」
「酷い親だな! 私が文句を言ってやる!」
真央さんが立ち上がって私のために本気で怒ってくれている。
ただ、それはもうかなわないことなので、冷静に事実を話す。
「昨日、私以外の家族が死にました」
「……は?」
真央さんは温泉で立ったまま唖然として私を見る。
昨日占いで出た結果と、周りから言われたことを温泉に映る自分へ目を向けながら口にした。
「京都から逃げる時の車内でモンスターに殺されたようです」
「嘘でしょ……」
「本当です。占いましたし、他の人からも聞きました」
真央さんは力なく座り直し、花蓮さんと夏美ちゃんは泣きそうな顔をしてくれていた。
しかし、私はほとんど悲しくないので、3人へ笑顔を向ける。
「私は大丈夫ですよ。ずっと……彼のことを思っていたので」
それを言った途端、悲しそうな顔をしていた3人が私へ詰め寄ってきた。
いきなり密集されて困ってしまう。
花蓮さんが私の肩をつかんで、笑いながら怒っているように見えた。
「明、その話詳しく聞いてもいいかな? なんでいきなり結婚になるわけ?」
他の2人も聞きたいのか、私から目を離さずに私の言葉を待っていた。
私は今も鮮明に覚えている佐藤一也さんとの思い出を語り始める。
「明の話を聞いていたらのぼせたわ……」
花蓮さんが体中をまっ赤にして扇風機の風に当たっている。
真央さんは脱衣所に置いてある長椅子の上に倒れてしまった。
夏美ちゃんがうずくまったまま動かないので、お水をコップに入れて手渡そうとした。
「夏美ちゃん、お水飲む?」
「ありがとう……いただくね」
喉を鳴らしながらお水を飲み始める。
飲み終わってから、私へお礼を言ってくれた。
「ねえ!」
紙コップを握りしめながら夏美ちゃんが大きな声を出して、私を見つめていた。
コップをゴミ箱へ投げ入れてから、私の手をにぎる。
「な、なに?」
「私たち同じ歳だから、友達になれないかな!?」
「友達?」
「うん。……だめ?」
生まれてから学校というところにも行ったことがないので、本の中でよく出てくる友達という人が自分にできるとは思っていなかった。
夏美ちゃんからしてもらって提案が嬉しくて、手をにぎり返す。
「なる。なるよ……ありがとう」
「これからよろしくね【明】」
「え……私こそ、よろしく……【夏美】……ちゃん」
「そこは呼び捨てにしなよ」
「ちょっと慣れていないから……少しずつでお願いします」
扇風機の風に当たっていた花蓮さんや、倒れていた真央さんも私たちを見ていた。
2人へ顔を向けたら、2人が私へ近づいてくる。
「私も友達よ」
「私は……お姉ちゃんかな?」
花蓮さんが困りながら私を見る真央さんを見て笑い始める。
「真央さんそこは私も友達じゃないんですか?」
真央さんは本気で考えるように腕を組んでいた。
「家族がいないっていうから、そっちの方が良いかなって……明ちゃんはどうかな?」
私は友達が2人と姉ができて嬉し涙が止まらなくなってしまった。
それでも、私は自分の気持ちをしっかり伝える。
「みんな、これからよろしくお願いします」
3人は笑顔で私を歓迎してくれていた。
脱衣所を出るために浴衣に着替えた時、私の着物が無くなっているのに気が付いた。
それを聞こうとしたら、女性の仲居さんから話しかけられる。
「お客様、申し訳ありません。あの着物は思い入れのあるものですか?」
「特にありませんけど……なにか?」
「手違いでクリーニングに出してしまったので、帰りは私たちの用意をした着物を着ていただきたいです」
「……わかりました」
「ありがとうございます」
何も悪くない仲居さんが深く頭を下げてくれた。
私は手違いと言われたことを占ったら、【佐藤一也の意向によるもの】と結果が出たので何も言わないことにした。
佐々木さんは先に部屋へ来ており、見たことがない豪華な料理が机の上に並んでいる。
花蓮さんがスマホで何かを調べていた。
「ちょ……ここ、一泊6桁とかする旅館よ!?」
全員が机に並ぶ料理を見たまま動かなくなってしまう。
ロビーで対応してくれた男性が部屋へ入ってきて、私たちへ優しい笑顔を向ける。
「みなさま、こちらは佐藤様よりの心からの料理になります」
私たちが委縮しているのが伝わったのか、微笑みながら説明を続けた。
「どうぞ、心行くまでご堪能ください。何か必要な際は、その呼び鈴を押していただければすぐに参ります」
失礼しますと言いながら男性が部屋を出る。
佐々木さんが震える手で料理を口にしたら、強張っていた顔が綻ぶ。
「すまん、みんな……俺は酒をいただく!」
佐々木さんは緩んだ顔を引き締めながら、呼び鈴を鳴らしてお酒を頼んでいる。
それを皮切りに、私は今まで生きてきて一番楽しい食事をすることができた。
料理が終わりそうなときに、旅館の男性から声をかけられる。
「お客様、お着物のご用意ができました」
「ありがとうございます」
私は1人だけ部屋から出るように言われて、着物のある場所まで案内される。
薄い藍色の涼しげな印象を持つ着物が用意されていた。
「本当にこれを着てもいいんですか?」
「はい、私どもの不手際で申し訳ありません。そのままお持ちください」
「え!? これを頂けるんですか!?」
「左様でございます」
男性が頭を下げた後、私は綺麗な色をした着物を手にする。
カタログでこの着物をみたことがあり、少なくとも簡単にもらえるような値段ではない。
私の身に何が起こっているのか確かめても、【佐藤一也の仕業】としかでなかった。
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