京都攻略編⑲~巫女の力~

「左から薙ぎ払うような刀の攻撃が来ます!!」

「俺が弾く! みんなは前へ!!」


 振るわれてくる方向を巫女が予測する。

 俺は巨大な刀を弾くために、左へ向けて走り始めた。


 ぬらりひょんはすでに刀を振り上げており、巫女が言った通りに左から振るわれようとしている。


 拳に茶色の魔力を纏わせて、刀を全力で地面へ打ち落とす。


「アースパリィ!!」


 刀が地面へ突き刺さり、俺は刀の上を走り始める。

 ぬらりひょんの体は巨大化したが、ひとつひとつの動作が遅くなり、隙だらけになっていた。


 刀を弾かれてから抜こうとするまでに、俺は腕まで上ることができた。

 ぬらりひょんの頭上へ向けてテレポートを行う。


 眼下にぬらりひょんをとらえて、全身に赤い気を纏わせる。

 赤い拳を振り下ろし、魔力を放出した。


「五月雨バーニングフィスト!!」


 12個の炎の塊がぬらりひょんに向けて発射される。

 俺は反動でさらに上へ飛んでしまった。


 地面では、花蓮さんたちが巫女の支援を受けて、ぬらりひょんへ攻撃を始めていた。

 少しでも意識を俺へ向けさせるために、両手へ魔力を込めてさらに魔法を唱え始める。


「すべてを射ぬけ!! マルチプルファイヤーアロー!!」


 俺の両手から、【3200本】の炎の矢が放たれ始めた。

 数十秒間続いた魔法を受けても、ぬらりひょんは倒れることはない。


 空中を飛んでいたら近くにビルがまだ残っていたため、屋上へ降り立ってぬらりひょんを見る。


 ぬらりひょんも俺から目を離さず、足元を気にしていないようだった。

 大きな口がゆがみ、怒号のような声が聞こえ始める。


「まったく効かぬわ!! ひねり潰してやろう!!!!」


 声により鼓膜が破れるので、ヒールを行なって治す。

 地上では声に驚いた数人が上を見上げていた。


 そんな時、巫女が青い光を俺たちへ届けてくれる。


(この青い光は、陰陽道を使える人が行える【祈り】という支援)


 体の底から力が湧いて、数倍の能力を発揮できるようになる。

 本来は、基本職が上級モンスターであるぬらりひょんと戦うために使用されていた。


(それが上級の俺へ使われたら、最上級の力を発揮することができる!)


 駆け巡る魔力の量が爆発的に増えて、身体能力も普段とは桁違いに増幅している。

 青い光を見て、ぬらりひょんは足元の巫女へ視線を向けた。

 足を攻撃され続けて、うめき声と共に膝を地面についている。


「ぬぅ!!」


 俺はその瞬間、ぬらりひょんの頭上へ向けて跳ぶ。

 右手を振り上げて、渾身の力を込めて振り下ろす。


「俺と戦っている最中によそ見をするなんて余裕だな!!!!」


 立ち膝になったぬらりひょんの後頭部へ俺の拳が当たると、そのまま崩れるように地面へ倒れ始めた。

 地面へテレポートを行い、押しつぶされそうな巫女を抱えてその場を離れる。


「ごめん、担ぐ」

「え!?」

「他の人も避難を!!」


 ぬらりひょんの足を潜るように退避をしてから、巫女を地面へ降ろす。

 倒れている今がチャンスなので、いち早くぬらりひょんへ向かう。


「強引でごめん!」

「いいえ……ありがとうございます!」


 巫女は俺からすんなり降りてくれた。

 倒れたぬらりひょんの体へ飛び乗るために走り始める。


(これで仕留めなければ次にいつ好機が来るかわからない!)


 俺は一目散にぬらりひょんの体へ向けて疾走していた。

 気配察知をしようするまでもなく、俺の後ろを4人が付いてきている足音が聞こえる。

 

 跳躍して、ぬらりひょんの体全体を視界にとらえた。

 仲間たちはそれぞれの最大火力でぬらりひょんの背中へ攻撃を行なっている。


 右手にすべての力を込めて、ぬらりひょんに向かって振り下ろす準備をした。


 4人の仲間は俺の行動を察知して、ぬらりひょんの体から離れていた。

 俺は右手で手刀を作り、全身の魔力を集中させる。


(さあ! 勝負といこうか!!)


 ぬらりひょんの体に向かって、手刀を振り下ろす。


「一刀両断!!!!」


 ぬらりひょんの体に反発されたダメージが俺の右腕を襲う。

 それでも俺は右腕を振り切り、ぬらりひょんの体が切断された。


 ぬらりひょんの体の切断面から黒い気があふれ始める。

 黒い気は飛散するように消えてなくなり、地面には元の大きさに戻ったぬらりひょんが倒れていた。


「巫女!! 出番だ!!」

「はい!!」

 

 巫女は両手から青い光をぬらりひょんに向けて放つ。

 青い光が当たったぬらりひょんは最後の絶叫を上げ始める。


「これで勝ったと思うなよ!! 我らは不滅の存在!! お前たちが弱った時、何千年先でも蘇ってやる!! ハッハハハハ!!」


 ぬらりひょんは言い終わってからもうっとおしく笑い続けている。

 消し去るためにぬらりひょんへ近づいたら、噛んで吐き出すように俺へ言葉を向けた。


「お前がいなければすべては我らのものだったというのに!! 呪ってやる!!」

「消えろ」


 ぬらりひょんの頭を潰すように足を踏みつけたら、ぬらりひょんは消滅する。


 巫女にはまだやらなければならないことがあるので、日が昇る前に京都の中心に移動しなければならない。

 空が明るくなりかけていたので、俺は再び巫女に近づいて担がせてもらう。


「日が昇る前に京都の中心へいかなければいけない。理由は分かるな?」

「わかっています!」

「普通に走ったら間に合わないから、また担ぐよ」

「えっと……よろしくお願いします」


 俺は巫女を担いでから全速力で走り出し、テレポートを使いながら自分のできる最速の移動をする。

 はるか後ろでは、花蓮さんが説明しろと叫んでいたがそんな時間はない。


「話そうとするなよ! 舌を噛む!」

「ひゃい!」


 巫女を運ぶことだけを考えているため、少し扱いが荒くなってしまう。

 申し訳ないと思いながらも、足を止めることはない。


 ギルドの跡地周辺には多数の人が集まってきていたので、人垣を飛び越えて瓦礫の上に立つ。

 巫女を降ろすと人がこちらへやってこようとしていた。


「近づくな!!」


 すべての人を制止させて、俺も数歩巫女から離れる。

 巫女は俺へ頭を下げてから、地面へ手を添えた。


「これより京都へ結界を張ります」

「頼むよ」

「はい!」


 巫女が手を添えた場所が青く光り始める。

 手から腕、体と巫女の全身が青い光で包まれてから、巫女は空へ手を向けた。


 巫女は祈りを捧げるように呪文のような言葉を放ちながら空を見上げている。

 それが終わると、巫女から5本の青い光が放たれた。


 太陽が昇る直前に儀式が終わり、イベントが無事終了したことに安堵してしまう。


(やっと終わった……最後に一言巫女へ伝えないと)


 儀式が終わった巫女に近づいて声をかけた。


「協力してくれてありがとう」

「こちらこそ、あなたがいなければ私たちは死んでいました」


 巫女は頭を深く下げて、俺へお礼を言ってくれている。

 頭を上げてくれた巫女へ、俺も頭を下げる。


「後、1年前に少年とドラゴンを庇ってくれてありがとう」

「え!?」


 巫女の頬が赤くなり、手に両手を当てたまま絶句してしまった。

 言いたいことだけ言って去ろうと思っているので、最後に手を上げながら別れを告げようとする。


「巫女さん、今日はありがとう」

「待ってください!!」


 ワープホールで消えようとしたときに、巫女が呼び止めてきた。

 俺は周りに見られているので早く去りたい気持ちを抑えて、巫女の言葉を待つ。


「私の名前は安倍明です」

「えっと……ごめん、俺は名乗れないんだ」


 急に巫女が自己紹介をしてきてくれるが、俺はこの姿で名乗れないので謝ることしかできない。

 それが分かっているのか、巫女は俺へ涙目の笑顔を向ける。


「大丈夫です。事情はわかります」

「……ありがとう」


 女性に目の前で涙を流されても俺は対応がまったくわからない。

 行動に困っていたら、巫女が俺へ抱きついてきた。


「……どうした?」


 俺は抱きつかれた衝撃で動揺するのを黒騎士という皮で必死に抑える。

 巫女は耳元で俺にしか聞こえないように小声で話す。


「あなたは佐藤一也さんですよね? あそこにいる一也さんのような人は正体がわかりませんが、あなたのことは占いでわかっています」

「……わかった。それで?」


 陰陽道の力をなめていたので、俺は突き放そうとした手を止めて巫女の言葉に神経を向ける。

 巫女はさらに力を込めて俺を放さないように抱きしめてきた


「佐藤一也さん、1年前に助けていただいてありがとうございます」

「わからないと思うけど、それは俺じゃないんだ」

「それを含めて、あなたに伝えたいことがあります」


 巫女は俺から離れて、布の間から俺の目を見つめてきた。


 巫女をよく見ると、和服を着こなし、つやのある肩まで伸びた髪をなびかせている。

 京都美人という言葉がよく似合う女の子だった。


(戦っているときはまったく目に留まらなかったけど、人形みたいにきれいだ)


 そんな人から何を言われるのか想像できず、思わず息を呑んでしまう。

 巫女は決心したように、俺へ口を開いてきた。


「結婚してください!! 私は家があるので、できれば婿になっていただけると助かります!!」

「ごめん」

「ええ!? 理由を!!」

「あなたのことを名前しか知らないので……それでは」


 俺は逃げるようにワープホールを行って旅館へ戻る。


 いきなりプロポーズを受けて、困惑が頭の中を駆け巡っていた。

 考えるのが面倒くさくなったので、とりあえず防具を脱ぎ捨てて布団へ飛び込む。


「一也さん、私に言うことはありませんか?」


 そんな俺を寝かさないように、俺の姿をしたレベ天が怒りの表情を浮かべている。

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