京都攻略編⑪~ドラゴンとの共鳴~
この部屋に着くまでの間、廊下から捕獲されている無数のモンスターが確認できた。
特にドラゴンは重要なのか、他のモンスターとは違い、厳重な扉の奥に閉じ込められていた。
部屋に入ったら、俺の前にいる男性が扉の方を向いて声を上げる。
「ドラゴンの所まで案内したぞ! もういいだろう!?」
ドラゴンを見つめてしまっていた俺は男性の声を無視し、2mほどしかない黒いドラゴンへ近づきながらガラスへ手をそえる。
隠密も解いてしまい、俺に気付いた男性が近寄ってきた。
俺たちに気が付いたのか、黒いドラゴンが小さな紫電を身にまとわせる。
「なあ!? 解放してくれよ!」
男性がガラスを覗き込む俺の横へ来る。
俺のことを知っているのか、俺の顔を見ながら目を点にした。
「ま……まさか……おまえ……佐藤……一也……」
「これは誰の指示なんですか?」
男性が俺を知っていようがそんなことは関係なく、このドラゴンこんな状況にした犯人を知りたい。
男性はまだ俺がここにいることが信じられないのか、何も言わずに立ち尽くしている。
「知っていることを教えろ!」
俺が男性の胸ぐらをつかんで持ち上げたら、悲鳴を漏らした。
苦しそうに俺の腕を握ってくるので、再度同じことを聞き直した。
「お前の! 知っていることをすべて教えろ!」
「わ、わかった!」
手を離したら、男性が地面に落ちてからうずくまってしまう。
何かをしようとした瞬間殴るために拳を振り上げて、その状態で話を始める。
「こいつは去年捕獲して、それから毎日観察をしているんだ」
「それで? 誰の指示?」
「指示なんてない。あえて言うならこの研究所の方針ってことだけだ……」
「方針ね……」
俺は近くにあるデスクの上に置いてあった資料へ目を向ける。
そこにはいたるところにこう書かれていた。
○
【国立モンスター研究所 京都支部】
○
国の方針でこのような研究が全国で行われているということがこれだけで分かる。
男性は俺が何も言わなくなったので、這うように部屋から出ようとしていた。
「まあ、待ってください」
「ひぃ……」
逃がさないように部屋から出ようとしていた男性の襟を持って止める。
そのまま蹴り上げて床へ転ばした。
俺はすぐさま両腕で倒れている男性の首を締め始める。
「やくそくが……ちが……」
「何もせずに解放するなんて言っていない」
男性が必死でもがくものの、俺の腕を振り払えることはなく、力が抜けて両腕が床に落ちる。
腕を離しても、男性は微動だに動かない。
まだこの男性にはやってもらうことがあるので、意識を失わせることにした。
ドラゴンと部屋を仕切るガラスの横に扉のようなものがある。
その扉も施錠されており、金属でできているため簡単に開きそうにない。
(この扉を開けさせてから締めればよかった!)
無理に開けようとして音を出したら、ドラゴンがこちらへ向かって細い紫電を放ってきた。
その姿は弱弱しいが黒龍と似ている。
(やっぱり、このドラゴンがエンシェントドラゴンの子供だ)
そうなると、このドラゴンは1年ほどこの中に閉じ込められたままということになる。
扉を開ける音で驚かせてしまったので、扉を無理やり開けるのを止めた。
扉から離れてドラゴンへ顔を向けてから、ドラゴンの近くまでテレポートを行う。
ドラゴンは突然俺が目の前に現れたことに驚き、紫電を俺へ放ってきた。
その紫電は富士山で戦ったエンシェントドラゴンと比べると非常に弱いが、人を殺すには十分な威力を持っている。
俺は錬気も行わずに、ドラゴンへ近づき続けた。
「大丈夫、俺はお前へ何もしない」
「ギャオオオオオオオ!!」
エンシェントドラゴンの子供が咆哮を上げながら、角を光らせて紫電を放つ。
それでも紫電を避けず、俺はドラゴンへ抱きついた。
ドラゴンは俺の肩に噛みつき、首を振るい始める。
(俺が何をしてもこのドラゴンは心を開いてくれないのか……)
ドラゴンが一向に攻撃の手を緩めてくれない。
俺の意識が薄れ始めた時、頭の中から声が聞こえてきた。
『【この子】を探してくれてありがとう。後は任せて』
『……いいのか?』
頭の中の【俺】へ聞こうとした時に、俺の意識が完全に無くなってしまう。
視界が真っ白になり、俺は自分の体に力を入れることができなくなった。
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「ここから離れろ!!」
鉄製の剣を持った少年が何かに対してそう言っている。
よく見たら、その少年は【俺】で、白い小さなドラゴンに対して剣を向けていた。
【俺】の後ろには怯えながら震えている女の子がいた。
「これはなんだ……」
「おそらく、1年前に起こったことだと思います」
俺の背後から聞きなれた声が聞こえてくる。
俺は後ろを振り返ることなく、その声に応答した。
「なんでこんなことに?」
「あなたの一也さんの魂があの子の魂に干渉しているからです」
「そんなことできるのか……」
レべ天を横目で見たら、目の前で繰り広げられているものから目をそらすように顔を横に向ける。
理由を聞こうとしたら、目をつぶって悲しそうな顔をしていた。
「……最後の力を振り絞って……あの子の正気を取り戻そうともがいているんです」
「そんなことをしても大丈夫なのか!?」
「おそらく、あなたの中にいた一也さんは完全に消えてしまうと思います……」
「完全に消えるって……」
レべ天が肩を揺らしながら悲しそうにしているので、俺はレべ天の頬を持って顔を上げる。
それでもレべ天がこれ以上見せないでくれと懇願してきた。
しかし、俺とレべ天だけはこの光景から目をそらすことをしてはいけない。
「レべ天……これは俺とお前が無理をしてこの世界に来てしまった結果だ」
「え……」
「俺たち2人だけは、この【佐藤一也】がいたことを覚え続けてなきゃ駄目なんだよ!」
レべ天の潤んでいるトパーズのような瞳を見つめて俺の意思を伝える。
レべ天は腕で涙をぬぐって、【佐藤一也】の最期へ目を向けてくれた。
「取り乱してすみません。見届けましょう」
「ありがとう」
俺とレべ天は【佐藤一也】が最後に伝えようとしていることを注視する。
白いドラゴンは【俺】から剣を向けられて戸惑っているのか、2人からじりじりと離れ始めていた。
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