京都攻略編⑩~研究所潜入~
指に力をこめて、扉を力任せに開く。
案外簡単に扉が開き、空けた扉を閉めてから、俺は暗くて底の見えないエレベーターの無い空間へ飛び込む。
落下をしながら鷹の目の上級スキルである【
暗視は暗いところでも昼間のようにはっきりと視界が開くスキル。
暗い中でも視界が確保できるという効果で、地味だが夜の戦闘では絶大な効果を発揮する。
俺がオーガと冷静に戦えたのもこのスキルによる視界開放が大きい。
(まだ無いのか!? どれだけ深いんだ!?)
落ち続けて数秒経つが扉が現れない。
そんなに深くに気配の反応がなかったため、扉を見逃してしまったと思い始める。
すると、俺が注意深く上を見ていたら光が漏れている場所が見えた。
その場所へ向かってテレポートを行い、光の隙間に指をねじ込む。
最初と同じように簡単に扉が開いたため、隠密を行いながら閉める。
(潜入は成功した。ここに何があるのか調べるだけだ……)
隠密を行なっているため、俺の姿はカメラにも映らない。
この場所に気配察知のLvが10以上ある人がいるとは思えないため、安心して白い廊下を進む。
白衣を着ている女性が前から歩いてきていたので、この人が入る部屋を調査させてもらうことにした。
目の前にいる俺を素通りして、白衣の女性の後を付け始める。
その人が扉の横でカードをかざして【資料室】という場所に入ってくれたので、俺も一緒に入室した。
白衣の女性は目的の資料を見つけたのか、入ってから1分もしないうちに部屋を出てしまう。
出るのにカードを使わないことを見ていたので、ゆっくりと資料を探すことにする。
(これは……レベ天は知っていたのか?)
俺が探し始めてから数分で、【モンスターの毒が人体に与える影響】、【モンスターによる人体への損傷率】などの資料が見つかる。
最初の資料へ目を通すと、ポイズンスネイク等の毒を人体に入れてどのような影響が出るのか、毒の種類、量、時間など詳しい項目毎にまとめられていた。
2つ目の資料には、モンスターの名前とランクが書かれている。
その横にはそれぞれのモンスターが攻撃したときに人体がどれだけ損傷するのか、被験体と書かれた項目毎にその損傷具合が詳細に記載されている。
○
グリズリー(D)
被験体防具なし
被験体1[左肩から右足にかけて爪による裂傷--治療が間に合わず出血により10分後に死亡]
被験体2[牙による頭部欠損--即死]
○
その他にもモンスターの名前が並び、人へ攻撃したときの状況が載っていた。
モンスター毎に、防具の損傷具合や効率的な防具の着け方がまとめられている。
(こんな実験、人が行なっていいことじゃない……)
この研究所は人さえも実験のために犠牲にしていた。
何度か深呼吸をして力を込めすぎて震える拳を収めた。
冷静になり、まだ周囲にある大量の資料へ目を移す。
2つの資料をリュックの中へ入れて、別に気になるものがないか探し始めた。
(【薬によるモンスターへの影響】、【銃によるモンスターの損傷率】……どんなやつがこんなことやろうと考えるんだ……)
資料の名前を見るだけで吐き気がしてきた。
俺でもわかることは、ここではモンスターのことを実験動物として扱っている集団がいる。
(ここはモンスターに対して命もかけず、モンスターをもてあそぶやつらが集まる場所か!!!!)
この資料たちへ目を通していたら、キャンプの時に使っていたモンスターが近寄らない香なんてものが生まれている理由もわかった。
(人類がいかに危険を避けてモンスターを倒そうとしているのがよく分かる)
各所の守護者達が人類を見限っても仕方が無いと思いながらも、別の資料を探す。
【モンスター経過観察記録】というものが見つかり、すぐに手に取る。
その時にこの部屋の扉が開け放たれた。
俺は隠密を発動させていることを確認しながら、入ってきた人を資料庫の隅から見守る。
「あれ? 観察記録のバインダーが無いぞ」
入ってきた男性が俺の持っているバインダーを探していたので、そっと足元の横にある棚に戻した。
周りの資料庫の中を探していたら、俺の戻したバインダーを見つけてくれる。
「誰だよこんなところに入れたやつ……ちゃんと戻さないとわからないじゃないか……」
独り言で怒りながら、持っていた資料を新たにバインダーへはさんでから男性がバインダーをしまう。
男性が部屋を出てから、俺は間を置かずに男性が片付けたバインダーを手に取る。
男性がはさんだと思われる紙には、今日の日付が書かれていた。
その紙に目を通し、俺は怒りを抑えるのが精一杯だった。
○
モンスター検体[ドラゴン種]
本日も紫色の雷を身にまとったままなんの反応も示さない
○
(これを持ってきた男性を確保だ!!)
これを持ってきた男性は少なくとも、このドラゴンがいる場所を知っている。
俺は気配察知で部屋から出た男性の気配を追う。
(こいつか!)
気配が分かった瞬間、間髪を容れずに部屋から飛び出し、男性へ向かって走り出す。
男性はトイレに入っており、中には1人しかいない。
立ちながら用を足している男性の首を後ろからつかんで個室へ押し込んだ。
「グエッ!?」
男性が声を出す前に、空いている方の手で男性の眼前の壁へ拳を打ち付ける。
コンクリートに拳がめり込み、それを目の前にした男性が悲鳴をあげようとした。
「声を出したり、動いたりしたらすぐに頭を砕く。わかったら左手を上げろ」
男性の下半身から液体のようなものが漏れ続けたまま、震えながら左手が上がる。
首を持つ力を少し込めて、内に秘める気持ちを男性の耳元でささやく。
「俺はここにいる研究者を皆殺しにしたいのを我慢しているんだ……その右手を止めないとこのままへし折るぞ?」
男性が俺に気付かれないように白衣のポケットへ向けて動かしていた右手を制止させる。
諦めたのか、男性は右手から力を抜いた。
「このまま紫電を纏うドラゴンのところまで案内してもらおうか」
「それはっ!?」
男性が言葉を放ったので、頭をつかんで顔を壁へすりこむようにねじ込む。
顔の痛みで全身が硬直し、唸るように喉を鳴らし始めた。
「次に言葉を放ったら確実に殺す。お前に頼んだのは道案内だけだ。いいな?」
俺は隠密を使用してから男性を解放する。
壁に打ちつけられていた男性が俺から手を離されて、周りを見ても誰もいないのでこの場から走り去ろうとする。
「なんでっ!?」
個室から飛び出そうとする男性を再び床へ取り押さえた。
胸を強く地面へ打ち付けて、男性の上に乗るとうめき声を上げる。
「逃げようと思わないことだ。俺はスキルで消えているだけだからな」
俺が男性の上からどいたら、ゆっくりと立ち上がってから周りを見るので声をかける。
「そのまま大人しくドラゴンのところまで歩くだけで解放してやる」
男性が俺のいる方向へ恐怖で染まった顔を向けてきていた。
さっきの接触で男性のスキルを読み取ったが、ほとんどスキルなんて存在していない。
こんな男性がモンスターをもてあそんでいると思えば思うほど感情が爆発しそうになる。
男性は俺が見えないので、トイレの中を見回しながら小さく言葉を放つ。
「ドラゴンのところへ行くだけでいいんですよね?」
「そうだ」
「わかりました」
男性がズボンを変えに行きたいというが、そのまま行けと命令した。
濡れたズボンをはいたまま、男性がぎこちなくトイレを出て廊下を歩き始める。
俺はぴったりと男性の背後に張り付く。
男性は俺に言われた通り、ドラゴンの所へ真っ直ぐに向かう。
カードを使用して扉を開けたら、厚いガラスの向こうに小さい黒いドラゴンが佇んでいた。
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「佐々木さん、みなさんに集まってもらってください」
「ああ……わかった」
佐々木さんにまだ観光を楽しんでいる真央さんたちを呼んできてもらう。
私の表情を見てから、戸惑うように佐々木さんは3人へ声をかけにいってくれた。
佐々木さんは私が電話をしている最中から私の表情を凝視してきていた。
(佐々木さんが私へ何か聞きたいことがあるのは分かる……)
けれど、それよりもはやくみんなと一也くんの伝言を共有したい。
彼との会話が終わってから、胸の高鳴りが収まらない。
(収まるわけがない……彼にようやく直接言ってもらえた……)
佐々木さんに呼ばれて、花蓮さんたち3人が私のいるテーブルへ近寄ってくる。
先頭を歩いていた佐々木さんが困惑しながら私の顔を見てきた。
「夏美さん……どうして泣いているんだ……」
「すみません! なんでも……いいえ。話を聞いてください」
佐々木さんに言われて、花蓮さんたちも私が涙を流していることに混乱している。
4人が席に座ってくれたので、私は絵蓮さん以外の3人へ目配りをした。
「彼から……ここに現れるモンスターを倒してほしいと【頼まれました】」
私の言葉が信じられないのか、真央さんが息を飲んでから私を見つめる。
「本当にあいつからそう言われたのか!?」
花蓮さんと佐々木さんも同じことを聞きたいのか、私から目を離さない。
絵蓮さんだけは意味が分からないのか、私たちを見て困惑している。
私は間違わずに、彼から言われたことと同じことをはっきりと話す。
「そうです。一也くんから指定された場所に出るモンスターを討伐してほしい。そう……【依頼されたんです】」
私が言い終わると、花蓮さんが興奮を隠しきれずに立ち上がってガッツポーズをする。
「いよっし!!」
「ようやく言いやがったか!!」
真央さんも目を光り輝かせながら手を握りしめていた。
佐々木さんは両手で目を押さえて震えている。
「えっ!? なにっ!? 何なの一体!?」
絵蓮さんが私たちの行動を見て、ますます訳が分からなくなってしまっていた。
喜びに浸っている3人に話かけられず、絵蓮さんは私へ目を向ける。
「ごめん、夏美ちゃん。なにが起こっているの?」
「私たちはようやく一也くんから戦力だと【認められた】んです」
「……それってこんなに喜ぶことなの?」
私も3人と一緒に喜びたい気持ちを抑えつつ、絵蓮さんに今の気持ちを言葉で表現する。
「私たちにとっては、この前の大会で優勝した時よりも嬉しいです」
「……そっか……そんなにすごいことなんだね」
「はい!」
私は自信を持って返事をして、絵蓮さんへ顔を向ける。
「私は真央のあんな顔みたことなかったよ」
絵蓮さんは泣きながら喜ぶ真央さんの顔を見て微笑んでいた。
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