京都攻略編⑨~京都へ~
朝までに4体の
金棒も4本確保して、手伝ってくれるという人が嵐山の旅館まで運んでくれた。
名探偵さんが言うには、最初に戦っていた鬼は結局倒すことができず、見に来ていた市民を逃がしてから撤退したそうだ。
(あれだけいて倒せなかったのか……今からだと間に合うか微妙だな)
それを聞いて、最初の場所まで向かおうとした時に日が昇ってしまい、5体目を倒す時間がなかった。
名探偵さんは撮影を止めて、俺と一緒に嵐山の旅館まで付いてきている。
「今日は貴重な体験をさせてくれてありがとう」
「いいんですよ。最初に言いましたがファンサービスです」
頭を下げてから旅館の前で名探偵さんと別れた。
旅館に入ったら、いつものように初老の男性が迎えてくれる。
ロビーの片隅に、金棒が置かれてしまっていたので、レべ天を呼ぶ。
『天音、金棒の転送を頼める?』
『……わかりました』
レべ天の返事を聞いた後に金棒へ触れたら、この場から金棒が消える。
初めて俺の前で初老の男性が表情を変えて、目を見開いた顔を俺へ向けた。
この旅館の人は口が堅いと思い、これはスキルですと言いながら部屋へ向かい始める。
初老の男性はわかりましたと言うだけで、それ以上俺に聞くことはなかった。
部屋へ戻ったらレべ天が部屋の中で立っていた。
慣れないことをして疲れたため少し休むために、レべ天に最低限のことだけを伝えて布団へ向かう。
「今日、京都の守護者に陰陽道が使える人間を全員京都の中心によこしてもらえ」
「いいんですか!?」
「後は任せろ」
「ありがとうございます!」
レべ天が俺に頭を下げるように髪がこすれる音が聞こえる。
今回の討伐でわかったことは、俺1人ではすべての標的に回りきれない。
鬼を倒してもそのあとがあるため、一人では本命を倒しきる時間が確保できそうになかった。
(移動時間で戦う時間が奪われる……4人は来てくれるかな……何か忘れているな……なんだっけ? ……ねむ)
自分にはもう1つ何かやらなければならないことがあったはずだ。
眠気に意識を持っていかれ、これ以上考えることができなくなった。
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「うーん……でてくれないなぁ……」
新幹線へ乗る前に一也くんへ連絡をするものの、また繋がらない。
花蓮さんや真央さんが連絡してもまったく通じないと言っていたため、私だけ無視されているということはないみたいだ。
2人の待っている場所に近づきながら首を横に振ると、花蓮さんと真央さんが同時にため息をつく。
「夏美ちゃんでもダメか……」
「京都へ行ってから連絡をもらったのは佐々木さんだけですね」
「そうだな。私たちに用があるなら直接連絡よこせっての」
花蓮さんが真央さんへ寂しそうに話しかけていた。
真央さんは悲しさと怒りが混同しているようだ。
(私は頼られて嬉しいな)
佐々木さんの話では、一也くんが私たちの力を必要と言ってくれているらしい。
それがとても嬉しいが、この二人の前では笑顔にならないように注意している。
(佐々木さんまだかな?)
佐々木さんが京都へ向かう新幹線のチケットを買いに行ってくれていると言っていたため、今は改札口の前で待っていた。
私は一番遅く着いてしまったのでよくわからないが、なぜか真央さんと花蓮さんが窓口の方を見ながらそわそわとせわしなく視線や足を動かしている。
ちょうど真央さんと目が合ったため、落ち着きのない理由を聞くことにした。
「何かあったんですか?」
「まあ……ちょっとね……」
真央さんは横目で花蓮さんを見ると、花蓮さんが急に頭を下げてくる。
「ごめん、夏美ちゃん。今日はできるだけ一也くんが黒騎士ってことがわからないようにしてくれる?」
「どういうことですか?」
「それはね……」
「花蓮ちゃん待った!!」
真央さんが花蓮さんを止めながら窓口の方を見ていたら、佐々木さんがこちらへ近づいてきていた。
花蓮さんと真央さんが急になにかを決心したように佐々木さんを見る。
窓口から戻ってくる佐々木さんが苦笑いをしながら私たち3人へチケットを渡してくれた。
佐々木さんの後ろにはなぜか、花蓮さんのお姉さんである絵蓮さんが歩いている。
(なんでこの人が? 花蓮さんのお姉さんは黒騎士の熱狂的なファンって言っていたけど……)
花蓮さんがお姉さんのことで相談があるとこの人の話をしていたことを思い出す。
私はこの道中に黒騎士という単語を自分から出さないことを決めた。
しかし、絵蓮さんがいる理由は聞く必要があると思うので、佐々木さんへ質問をする。
「佐々木さんその方は?」
「ああ、こちらは」
佐々木さんが私へ絵蓮さんを紹介するために身を譲った時、絵蓮さんは凛とした笑顔を私へ向けてくる。
顔を直視しただけで緊張してしまい、声が出せない。
そんな私に気を使ったのか、絵蓮さんが自己紹介を始めてくれる。
「はじめまして、谷屋絵蓮です。射撃大会で優勝した夏美ちゃんだよね?」
「こちらこそ、はじめまして……絵蓮さんはどうしてここに?」
「聞いてくれる!?」
絵蓮さんが笑顔を崩して私の手をにぎり、少し不機嫌そうに花蓮さんと真央さんを見る。
私は急に絵蓮さんから手をにぎられて驚いてしまった。
「真央が私との約束を蹴って、京都へ遊びに行こうとしていたの」
「遊びに……ですか?」
私たちはこれから京都で大量のモンスターと戦うと聞いていたので、3人へ目を向けたら気まずそうな顔をしていた。
3人の様子を見て、私はすぐに口を合わせることにする。
「この前の大会のご褒美で、佐々木さんが急に京都へ行こうって私のところにも連絡が来ましたよ」
「やっぱりそうだったんだね。私も暇だったから一緒に行ってもいいかな?」
「私は3人が良ければ大丈夫ですよ」
「本当!? ありがとう!」
一緒に行ってもいいのか聞いている時から絵蓮さんの目が私へ訴えてきていた。
私は自分から断ることができなかったので、絵蓮さんへ漏らした誰かに託すことにした。
「花蓮、真央。夏美ちゃんもこう言ってくれたから、一緒に京都へ行けるわよね?」
「う……うん、よかったねお姉ちゃん」
「先輩も楽しみなんですね」
「今まで引きこもっちゃっていたからね! 旅行は楽しみよ!」
絵蓮さんが2人と会話を始めたため、私は佐々木さんに近づいて確認を取る。
「さっきも一也くんに連絡をしましたが繋がりません」
「そうか……」
「絵蓮さんが一緒でもいいんですか?」
「彼に連絡が取れないから、こちらでなんとかするしかないだろう」
「そうなりますよね」
見たところ、絵蓮さんも武器や防具を持ってきている。
私は最後に佐々木さんへ絵蓮さんへ京都へ行く理由をなんと説明しているのか聞いておく。
「絵蓮さんには京都へ何をするために行くって伝えてあるんですか?」
「京都周辺にしかいないモンスターの見学と観光だ」
「わかりました」
私は普段あまり見られない花蓮さんと真央さんの居心地が悪そうな顔を見てから改札口を通る。
2人を助けるために、電光掲示板に写る時間を示す。
「みなさん! もうすぐ新幹線が来るみたいですよ!」
真央さんと花蓮さんが絵蓮さんを新幹線へ乗らせるために改札口へ通そうとしていた。
佐々木さんは苦笑いでその様子を見ている。
私はこの先に何が起こるのか不安になってしまった。
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目を覚ましたら、もう夕方になっていた。
レべ天がのんきにテレビを見ながらお茶を飲んでいる。
近づきながら俺の要件が伝わったのか確認してみた。
「天音、守護者はなんだって?」
「1度だけなら協力するとのことです」
レべ天が嬉しそうに言いながら俺へ満面の笑みを向けた。
京都の中心に陰陽道が使える人間がいてくれれば、イベントを進行することができる。
(陰陽道を使ってもらえるだけで敵の強さが大分違うから、佐々木さんたちでもオーガくらいなら大丈夫……なはず)
4人が来てくれていることを祈りながらスマホを見たら、佐々木さんと夏美ちゃんから何度も着信が来ていた。
「え!?」
俺の持つスマホが急に震え始めるので、声を出してしまう。
画面には【清水夏美】と表示されていたため、電話に出る。
「もしもし、夏美ちゃん?」
「やっと繋がった!! 一也くん今どこにいるの!?」
「今は宿だけど……夏美ちゃんは?」
「私たちは【5人】で京都で観光中だよ」
「5人?」
俺が佐々木さんへ頼んだのは、夏美ちゃんを含めて全部で4人だったはずなので、俺の知らない誰かが来ていることになる。
夏美ちゃんも会話内容に気を使っているのか、なぜかはっきりとした口調で話をしていた。
「花蓮さんのお姉さんが付いてきてくれているの」
「絵蓮さんも来てるの!?」
「うん……」
「夏美ちゃん、そこには全員いる?」
「居るよ」
俺は嬉しい誤算を聞いて、呼び鈴を押して京都の地図を用意してもらった。
夏美ちゃんにも地図を用意してほしいため、空いている人を呼んでほしい。
「佐々木さんは手が空いてそう?」
「大丈夫。私たちはどうすればいい?」
「夜の相談をしようと思うんだけど、手元に地図を用意してもらってもいい?」
「ちょっと待って」
夏美ちゃんがスマホから顔を離して、佐々木さんを呼ぶような声が聞こえる。
準備ができたのか、夏美ちゃんの声がスマホから聞こえ始めた。
「佐々木さんのスマホに地図を表示してもらったよ。これでいいかな?」
「今から5箇所の場所を伝えるから、チェックしてくれる?」
「5箇所? わかった」
俺は自分の足で発見した、オーガが出現する場所をすべて夏美ちゃんへ伝える。
細かい神社の名前までわかっているため、スムーズに教えることができた。
場所の確認が終わり、最後にやってほしいことを話す。
「今晩その場所に1体ずつ鬼が出るから、できるだけ早く全部討伐してほしい」
「鬼を全部!?」
「そう。俺が戦ったのよりは弱くなるはずだから、絵蓮さん以外の人が1人で戦っても大丈夫だと思うよ」
「そう言われても……」
「夏美ちゃん、今夜しかチャンスがないんだ」
夏美ちゃんは渋々わかりましたと言ってから言葉を続けた。
「私たちは鬼を必ず倒します。一也さんも必ず目標を達成してくださいね」
「ありがとう。そっちは【頼む】」
声が聞こえていなかったのか、夏美ちゃんが俺の言葉に返事をしてくれない。
もう1度声を出そうとした時、はっきりと力強い声がスマホから聞こえてくる。
「こっちは任せてください。一也くん……ご武運を」
「助かる。夏美ちゃんも無事で」
スマホでの会話が終わり、レベ天が地図を見ながら複雑な表情をしている。
その視線の先には、【モンスター博物館】と書かれていた。
「やっぱり、そこにお前をそんな表情にさせる【何かが】あるんだよな」
「え!? えっと……詳しくは分かりませんが、たぶん……」
時計を見てもまだ夜まで余裕があるため、俺は博物館の地下にあるといわれている研究所の調査へ向かうための準備を始めた。
準備を進める俺へレベ天が不安そうな顔を向けている。
「お前のために行くんじゃない。【俺】のために行くんだ」
「……よろしくお願いします」
「行ってくる」
レベ天は俺が部屋を出るまで1度も頭を上げることはなかった。
(それだけ心を痛めていることが博物館の下にはあるんだ)
もうすぐ閉館してしまう博物館へ隠密を使用しながら潜入して、職員専用エレベーターの前に立った。
(進む道は待つものじゃない。自分の手で切り開くものだ!)
俺はエレベーターの扉の間に指をねじ込んで扉をこじ開け始めた。
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