京都攻略編⑧~白いモンスターと博物館~

「あの子がその少年だとしても、【白いモンスター】はなんなんですか?」

「それについても調べてある」

「すごいですね」

「朝の戦闘を特等席で見た見物料だと思ってくれ」


 名探偵さんが頬を少し上げながら俺を見ていた。

 最初の時の印象とは違い、その人は自分に自信を持っている表情で話を続ける。


「そのモンスターは神社から少し離れた場所で捕獲されて、なぜか【博物館】の職員という人たち引き取ったそうだ」

「博物館の人がですか?」

「そうだ。しかし、博物館の職員はそのモンスターの存在を知らないと言い続けている」

「なぜですか?」


 その人は俺へ手招きをしながら、ゆっくりと近づいてくる。

 周りの目を気にするように顔を動かした後、俺へ耳打ちをしてきた。


「……噂だが、博物館の地下には【モンスターの研究所】があるらしい」

「研究【所】……ですか」

「ああ、そこで収容したから博物館の職員は知らないのだと思う」

「調べていただいてありがとうございます」


 詳しく調べてくれた名探偵さんへ頭を下げてからお礼を言った。

 お礼を言われて恥ずかしいのか、俺へ白い歯を少し見せてから口を開く。


「いいんだ。ギルドでの行動を見て、俺はきみのファンになった」

「そんな大したことしていませんよ」

「あんな物を簡単に渡せる人、きみ以外にはいないよ」


 金棒1本あげただけなので、俺としては京都府ギルドへ着物で行けたことの方が印象深い。


 しかし、世間では金棒の方が目立ってしまっていることが面白い。

 金棒なんていくらでも取れるということを少しでも広めてもらうために、ある提案をした。


「これから金棒を取りにいきますけど、一緒に行きますか?」

「いいのかい?」

「ファンサービスです」

「撮影してもいいかな?」


 俺はその人へ笑顔で答えてから、【巫女】が力に目覚めたという神社へ向かって足を進める。

 名探偵さんはスマホで何かの操作をした後、スマホを俺へ向け続けていた。



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「先ほど佐藤くんから連絡があり、モンスターを倒すために明日の夜までには京都に来てほしいそうだ」

「明日の夜ですか?」

「ああ、谷屋さんは大丈夫かい?」

「必ず行きます」

「ありがとう。これから他の2人にも連絡をする」

「よろしくおねがいします」


 寝ようとしていたら佐々木さんから電話があり、一也くんからの伝言を聞いた。

 佐々木さんとの電話が終わった後、一也くんへ電話をしても出てくれる気配がまったくない。


(私の電話やメッセージには一切返してこないのに、佐々木さんには連絡するわけ!? 信じられない!! あいつ!! あいつ!!!!)


 手元にあった枕を数回叩いて、怒りを発散させる。

 眠気が吹き飛んでしまったため、スマホで一也くんについての情報を集め始めた。


(京都で大暴れしている……なんで?)


 鬼を相手に1人で戦う様子が朝の全国ニュースで映像が流れ、その直後にファミレスで爆睡していた写真がSNSで流れた。


 反響がすごく、爆睡写真を少なくとも【500万人】が見たと思われる。


 京都の名探偵という明らかに不審なアカウント名だが、この写真の後に生配信された映像は今も世界中を駆け巡っていた。


(武装したギルド員を盾だけで制圧……生徒を倒すのとは違う……)


 ギルド員はその地区のエリートだけが慣れる職業だ。

 そんな相手を盾という身を守る武具で制圧した映像の影響は計り知れない。

 その映像は国内だけではなく海外にも波及したため、ニュース等で様々な専門家という人が動画の解説をしていたが、一也くんの戦闘をまったく説明できていない。


 中にはフェイク動画なんてことを言い出す人もいたが、近くの監視カメラの映像も提供されて、この戦闘が真実であることを決定付させた。


(専門家の人たちは、銃よりも盾が強いなんていうことを認めたくないように思えた)


 この銃特化時代に、盾を使う少年に武装した集団が負けることがありえないと思いたいことはよく分かる。

 SNSでは私にも佐藤くんに関する質問が返信する気が失せるほど来ていた。


(あれ? なんだろう、急に騒がしくなった)


 SNSのメッセージを読み流していたら、急に一也くんに対するコメントが増え始めている。

 元を辿っていくと、また京都の名探偵に行き着く。


 スマホから飛び込んでくる情報を整理していたら、思わず頭を抱えてしまった。


(あのバカはなんでこの人と仲良くなってんのよ……)


 スマホから、京都の名探偵と思われる人と仲良く会話をする一也くんが生中継されていた。


 神社のような場所におり、一也くんの周りに漂う鬼火と呼ばれるモンスターが徐々に増えつつある。

 一也くんは鬼火を触りながら、笑顔でどんどん増えていきますね、などと言っている。


(こんなのほほんライブを見せたいわけがない……一也くんなら何かある……)


 視聴者数を見たらすでに200万人を超えており、今も爆発的に増加していた。

 私にはこの後何が起こるのか心配でたまらなかった。


「離れて!!」


 一也くんの弾ける声と共に、スマホから地面を何かが打ち付けた轟音が響く。

 あまりに大きな音で、スマホが震えてしまった。

 土煙の中から突然がすごい勢いで金棒こちらに振るわれてきている。


「そらぁ!!」


 金属同士が打ち合う甲高い音が聞こえて、金棒が盾に弾かれていた。

 土煙が収まると、一也くんよりも数倍大きな鬼が金棒を振るっている。


(一也くんと鬼が戦う生中継なの!?)


 ニュースでは少ししか流れなかった鬼と戦う人の姿が中継されていた。

 その光景にSNS上でのコメントが一瞬止まり、すぐに大量の文字が流れる。


 一也くんが戦っていたら、銃を持った集団が神社へ集まってきた。

 中継を行っている人へ近づきながら怒号をかけてくる。


「何を撮っているんだやめろ!!」

「お前が俺のファンに何をしようとしているんだ!! 後から来たくせに文句言うんじゃねえ!!」


 銃を向けて撮影を止めようとしてきた人へ、一也くんが盾を振るいながら叫ぶ。

 その人は砂利の上を数mほど滑るように吹き飛ばされた、

 集団の中から中年の男性が出てきて、一也くんへ怒鳴り始める。


「何をするんだ!! 私たちは京都の治安を守っているんだぞ!!」

「……そうですか」


 一也くんは鬼の足を両手の盾ですくい上げて、鬼を地面へ転ばせた。

 集団はその様子を眺めており、平然とした表情で一也くんは声を上げた男性へ近づく。


「それならあいつをお任せしますね。失礼します」

「はっ!? おい!! 待て!!」

「もうすぐ起きますよ? 俺は行きますね」

「待ってくれ!! こんなのを相手になんて──」

「グウォォオオオオオオオ!!」


 そう言い放ち、鬼の咆哮を背にしながら撮影している人と一緒に神社を出てしまった。

 映像では騒ぎを聞きつけた一般人も多数映っており、銃声が聞こえ始める。


 後から来た人が戦闘していることをまったく気にしていないのか、一也くんは盾をリュックへしまいながら話を始めた。


「次に行きましょう」

「どこに現れるかわかるのか!?」

「直感です」


 私は戸惑う様子を見せる撮影している人に同情して、一也くんに連れられてモンスターと戦う時のことを思い出した。


(彼はいつも第六感とか訳の分からないことを言いながら、モンスターが大量にいる場所へ向かうんだよね……怖いわー)


 おそらく、一也くんが直感で向かっている場所にも確実に鬼がいるのだろう。

 映像を眺めていたら、部屋の扉が数回ノックされた。

 扉の外から姉の声が聞こえてくる。


「花蓮、今いい?」

「大丈夫だよ」


 ゆっくりと扉が開けられると姉が廊下に立っていた。

 部屋に入ればいいのに、廊下で立ったまま何か悩んでいる様子だった。


「お姉ちゃんどうしたの?」

「……明日、久しぶりに真央とモンスターと戦いに行く約束をしていたんだけど……今断られちゃった」


 姉が悲しそうな顔をして廊下で立っていたので、部屋へ入って座ってもらう。

 私は佐々木さんが真央さんへ連絡したことを伝えるべきか考えていたら、姉に顔色をうかがわれていた。


「その顔! 花蓮、何か知っているでしょ!?」

「うーん……」

「花蓮に言われて、最近は黒騎士様のことを調べないように、最低限スマホを触っていないんだから、何か知っていたら教えて!!」

「……そうだよね」


 私は剣術大会の決勝で、姉の剣を弾き飛ばした後に『黒騎士を追いかけてばかりいるから私に負けるんだよ』と言い放ってしまった。


 それから姉は前以上にように熱を入れて剣を振るってくれている。

 その努力を知っているため、返答に困ってしまった。


(どうしようかな……いやー……これは無理!!)


 姉の圧力に負けた私は、京都へ行く人数を増やしてもいいのか佐々木さんへ連絡をしてしまった。


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