京都攻略編②~動乱の始まり~
別の場所にいたウィスプを観察していたら、日が昇り始めるのと同時に消えるようにいなくなった。
時間は5時前になっており、俺は一晩中京都を駆け回っていたらしい。
全部で3体のオーガを討伐し、金棒もすべて回収した。
最初に邪魔をされた集団から連絡がされていたのか、後の2体と戦っている時には妨害を受けなかった。
しかし、3回とも鬼が現れてからすぐに集団が駆けつけてきていたため、その仕組みを知りたくなる。
(もう少しここにいるか)
眠気と少し腹が減ってきたため、まだ起きていない街へ向けて歩き出した。
歩きながら夜の間に調べたことを頭の中でまとめ始める。
まず、この京都という土地はイベント中だけ一定の場所でモンスターが発生する。
そして、いつからか分からないが、少なくとも1年以上前からイベントが始まっていた。
(おそらく、過去の俺はモンスターが出現する場所へ1人で行ってしまい、【夢の子】に助けられた)
モンスターが発生したことがわかるようになっており、被害が出ないようにする組織がある。
この推測によると、昨日駆けつけてきた集団について調べることができれば夢の子について判明すると思う。
捜査が確実に進展しており、【俺】の未練をすぐに果たせそうな気がしてきた。
歩いていたら開いているファミレスを見つけたので、入店した。
店員さんが俺を見て少し驚きながらも、席へ案内する。
俺が椅子に座ってメニューを見ていたら、水とおしぼりをテーブルへ置かれた。
適当にサンドイッチと飲み物を注文して、おとなしくテレビを見ながら来るのを待つ。
(レべ天に連絡をして、分身を消しておかなきゃダメだな)
しばらく京都で活動することにしたので、俺の部屋で寝ている分身を消してもらうためにレべ天を呼ぶ。
『天音起きているか?』
『もう寝かせてください、まだ何かあるんですか……』
『しばらくこっちにいるから、俺の部屋にいるやつ消しておいて』
『はーい……』
レべ天も夜の間ずっと俺の連絡を待っていてくれたので相当眠いらしい。
元は神様でも、人の姿になったレべ天は、普通の生活をしないと体が辛いようだった。
(あいつは1日中ダンジョンに付き合わせただけで音を上げたからな)
眠いのを我慢しているレべ天に少しの感謝をしていたら食べ物が届いた。
味わうことなく腹に詰め込み、机に伏して仮眠を始める。
相当眠気が溜っていたのか、たちまち意識が無くなってしまう。
-------------------------------------------------
ズボンに入っていたスマホの振動と共に目を覚ます。
誰からの連絡かとスマホを見たら、花蓮さんと画面に表示されている。
今日はなんの予定もしていなかったので、何かの誘いかと思って通話ボタンをタップした。
「花蓮さん、おはようございます」
「あんた今、京都のファミレスにいるでしょ!?」
席から周りを見ても花蓮さんの姿が見当たらない。
俺がここにいることをどのように知ったのか分からず、首を傾げてしまう。
「なんで知っているんですか?」
「SNSで広められているわよ!」
「なんのために……」
「昨晩あんたが京都で暴れたってニュースでやっているから、誰かが写真を撮ったのよ!」
俺は花蓮さんの話を聞きながら再び周りを見たら、俺を遠巻きで見ている人が急に視線を落とす。
それも、1人どころではなく、俺の席を囲むように同じような人がいるように見える。
花蓮さんに詳しく状況を聞かせてもらう。
「すみません、今まで寝ていてよく分からないんですけど」
「死んでいるように寝ていたもんね」
花蓮さんが考える間もなく、俺が電話をする前までの状態を知っていた。
今までの話から、花蓮さんも拡散しているという俺の写真を見たと思われる。
「花蓮さんも写真を見ました?」
「ええ、だからすぐに連絡をしたの」
「誰が広めたのかわかりますか?」
「ちょっと待って……えっと、【京都の名探偵】ってアカウント名の人」
「教えていただきありがとうございます。それじゃあ」
「まちなさ……」
スマホからはまだ何か聞こえてきていたが、気にすることなく通話を終了させた。
花蓮さんが名前を教えてくれたので、俺は一番初めに目の合った人に近づく。
俺が見下ろすようにその人を見たら少し手が震えているように見える。
「あなたが京都の名探偵さんですか?」
その人は首と手を全力で横へ振って俺の言葉を否定してきた。
俺は見渡した時に目が合った人を覚えていたので、全員へ声をかけるために歩き続ける。
しかし、全員に声をかけても京都の名探偵という人がいない。
聞き終わってから自分の席へ戻り、またお腹が減ってきたので店員さんを呼ぶ。
呼び鈴ボタンを押したらすぐに店員さんが来てくれたので、メニューを見ながら注文を行う。
俺がサンドイッチを注文した時と同じ店員さんが来てくれていた。
(当たり前だけど、この店員さんはずっとお店にいるんだよな……)
俺の写真を撮った人を見たのか確かめるために注文を終えてから質問をしてみる。
「後、京都の名探偵って人を知りませんか?」
「え!? えっと……」
店員さんは俺の言葉を聞いたら、困るように目を泳がせ始める。
その先には、俺が最初に声をかけた人がいた。
「あの人が俺の写真を撮ったんですね」
20代と思われる男性に指を向けながら聞いたら、店員さんが無言でうなずく。
俺が注文したものをその男性と同じテーブルに持ってきてもらうように店員さんへ伝えた。
荷物を持ち、京都の名探偵さんの座っているテーブルに再び近づく。
「ここ、いいですよね」
「ごめんなさい……どうぞ」
その男性と向かい合うように椅子へ座り、男性を観察する。
スマホを隠そうとするので、止めるための声をかけた。
「スマホはそのままで」
「え!?」
俺が注意した瞬間、男性が固まる。
男性のスマホを指で叩きながら、再度俺の盗撮した事実の確認を行う。
「俺を撮ったんですよね」
「……はい」
「理由は?」
男性は下を向いたまま何も言わない。
スマホを壊そうとした時、男性がテレビに釘付けになったいた。
話をしている時にテレビを見ないよう忠告を行うために、俺は手を振り上げる。
「あ、あれが理由です!」
「ん?」
急に男性が話を始めたので、俺は手を上げたままテレビへ顔を向けた。
テレビでは、女性のアナウンサーが映っている。
画面に映るテロップが目に飛び込んできて、俺は手をゆっくりと戻してしまった
【静岡の鉄壁、京都で大暴れ! 深夜の攻防戦!】
大量のウィスプが光源となり、俺がオーガと戦っている時の様子がはっきりと分かるように流されている。
オーガから降り注ぐ金棒からの攻撃をすべて盾で防ぐ一部始終が撮影されていた。
解説では、オーガは【C】ランクのモンスターで、単独での討伐記録は史上初と説明していた。
さらに、1晩で3体のオーガは誰も討伐したこともないようだ。
最後に余談で、今俺の行方を京都の冒険者ギルドが血眼になって探していると笑いながら言っている。
俺の前に座る男性は、顔に冷や汗をかきながら俺の顔を見ていた。
俺が映っていたニュースが終わると同時に、テーブルへ頼んでいだステーキが運ばれてくる。
料理を持ってきてくれた店員さんの表情も強張っていた。
置かれたステーキを食べながら男性と話をする。
「俺を盗撮した写真ってどれくらい広がっているんですか?」
「えーっと……これくらい」
男性が片手の指を広げて手のひらを俺へ見せてくる。
俺は5百とか5千人くらいと予想して、あまり広がっていないようで安心をした。
「そんなもんなんですね」
「え!? そ、そうだね」
男性が俺の言葉を聞いて目を見開いていたが、気にせずに俺は黙々とステーキを食べ進めた。
男性は俺のことが気になって仕方がないのか、チラチラと俺を見てきている。
「なんですか?」
「もし良ければ、盾を見せてもらうことはできるかな?」
「どうぞ」
リュックの中から盾を取り出して、テーブルへ置く。
周囲からもこの盾を覗き込むように顔を伸ばしている人が多数いた。
男性は盾をスマホで写真を撮り、俺と一緒に写真を撮りたいようなことも要求してきた。
「食べ終わってからならいいですよ」
「ありがとう!」
それから、食べ終わるまでほとんど一方的に話をされていた。
紙ナプキンで口を拭いた後、男性へ笑顔を向ける。
「この食事代で俺を盗撮したことは忘れてあげますよ」
「本当かい!?」
男性が安堵して、とても嬉しそうな笑顔をする。
一緒に写真を撮った後に、何を怖がっていたのか疑問に思ったため、店員さんを呼ぶボタンを押している男性へ声をかけた。
「なんでそんなに怯えていたんですか?」
「俺が最初に嘘をついたから、盾で殴られると思ったんだよ」
「あなたを殴ったら死ぬと思うので、そこまではしないです」
「そ、そうかい……」
男性も何かの注文を始めたので、終わった時に店員さんを呼び止める。
立ち止まった店員さんは、ぎこちない笑顔を俺へ向けていた。
「俺の会計はすべてこの男性でお願いします」
「わかりました!」
なぜか大きめの声で返事をされたため、少し驚いてしまった。
リュックを持った時にあることを思いついたため、男性へ声をかける。
「すみません。名探偵と自称するあなたに頼みがあるんですがいいですか?」
「もちろん、なんでも言ってくれ」
「1年くらい前に、少年がモンスターに襲われたことがあるかどうか調べてもらうことはできますか?」
「1年前……それは……」
男性が即答をしてくれないので、リュックを背負いながら顔を向けた。
まだ男性が考えていたため、自分で調べようと思い直す。
「やっぱりいいです。忘れてください」
俺はお店を出るために歩き始める。
後ろから男性の声が聞こえてきた。
「できる限り調べるよ」
男性にあまり期待をしていないため、顔を向けずに軽く手を上げて返事をする。
お店を出たらいきなり銃を構えた集団に囲まれて、1台の大きなカメラで撮影されていた。
その中から偉そうな老人が歩み出てきている。
「お前が佐藤一也だな」
その老人は俺を敵視するように睨みながら言ってきた。
なにも身に覚えがないため、俺は笑顔でその老人へ返事をする。
「そうですが、なにか?」
「連行しろ!!」
その言葉と共に銃を構えた数人が俺へ近づいてくるので、大声で叫びながら盾を取り出す。
「正当防衛!!」
俺を取り押さえようとしていた集団を盾で吹き飛ばす。
盾を老人へ向けながら、残っている人たちへ警告を行う。
「銃を向けるならそれなりの覚悟をしろよ?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ご覧いただきありがとうございました。
現在カクヨムコン9に以下の作品で参戦しております。
ぜひ、応援よろしくお願いします。
【最強の無能力者】追放された隠し職業「レベル0」はシステム外のチート機能で破滅世界を無双する
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます