京都攻略編①~深夜の捜索~

「まったくわからん」


 俺は無人のお寺の境内にある椅子に座って、レべ天に送ってもらってから京都を駆け回った結果について考えていた。


「手掛かりは夢だけなんだけど……どの夢がな……」


 泊まったと言っていた嵐山の旅館のそばにある神社やその周辺を見たが、夢と一致しない。


 夏の京都では花火と一緒に行うお祭りが非常に多く、日付も近いため特定できそうになかった。


「月がきれいだな」


 もう月が真上に上がり、深夜となっていた。

 子供1人で歩いていたら不審がられると思い、無人そうなお寺で休ませてもらっている。


「これからどうしたもんか……」


 月を見ていても解決策が浮かんでこない。

 座っていたベンチへ寝転がり、目を閉じて考える。


(そもそもヒントが少なすぎる。この京都で特定の人を探すなんてどうすればいいんだ)


 京都の人のあまり来ない位置にワープホールの登録をしたので、次からは自由に来ることができる。

 今日はもう帰ろうかと思っていたら、俺へ近づいてくる気配が空中にいきなり現れた。

 

 その方向へ体を向けると、【ウィスプ】が漂っている。

 街中でモンスターを見るとは思わなかったので、俺は漂う鬼火のような光へ近づく。


 青白い光を放ち浮遊する球体が俺の周りを漂い、導くように俺からゆっくりと離れ始める。


 俺はこの場から動かず、その光を見つめた。

 スマホを取り出して、ウィスプについて調べ始める。


 ウィスプは鬼火とも呼ばれ、導いた先にある危険へ陥れるために自らを追わせる。

 一応人に危害を加えるが、ほとんど無害ということでスライムと同じ【G】ランクのモンスターと分類されていた。


 ウィスプのことをスマホで見ていたら、大量のウィスプが俺の周辺を漂っている。


「これは相当な危険があるのか……」


 ウィスプがその先にある危険度に応じて増えるため、俺は導かれた先に何があるのか気になってしまった。


 ウィスプを追おうとしたが、俺の周辺を漂ったまま動かなくなってしまう。

 つまらなくなり、ベンチへ戻ってもウィスプが俺から離れることが無い。


(あれ? これはもしかして……)


 俺はある予感がしてきて、少しベンチから離れてみた。

 たくさん集まって煌々と光るウィスプが俺へ付いてくる。

 頭の中でレべ天を呼んですぐに武器を転送してもらう。


『天音! 今すぐいつものリュックを送ってくれ!』

『なにがあったんですか!? すぐに送ります!』


 俺がリュックから盾を取り出した瞬間、地響きと共に境内の砂利が勢いよく俺に向かってくる。

 砂利を盾で防いで、地響きのした方向を見たら【オーガ】が地面をへこませて着地していた。


(やっぱり、俺そのものに危険が迫っていたのか!)


 赤い皮膚をしており、頭に二本角が生えている人を食べる人型の怪物。

 地域によっては鬼とも呼ばれている。

 巨体が獲物を見つけるように顔を振っており、俺を見つけたらすぐに突進してきた。


(イベント限定モンスターがいきなり現れるなんて運がいい!!)


 オーガの巨体をパリィで弾き、頭に向かって盾を全力で投げる。


「シールドブーメラン!」


 ミスリルの盾がオーガの頭に当たり、俺の手元に戻ってきた。

 盾の直撃を受けても、オーガはまったく効いていない。


(武器の選択をミスったか……)


 オーガは分厚い皮膚と筋肉に覆われているため、打撃系の攻撃が通りにくい。


(頭なら割れると思ったんだけどな)


 俺は持っている盾でオーガを攻略するべく頭を回転させる。

 オーガは背中に背負っていた金棒を手に持ち、俺へ襲い掛かってきた。


 俺がオーガの金棒を盾で弾こうとした時、いきなり後ろから地面に取り押さえられる。


「今だ!! 撃て!!」


 その声と同時に大量の射撃音が聞こえ始める。

 俺は勝負を邪魔してきた人を力任せに吹き飛ばす。


「どけよ!!」

「きゃっ!?」

 

 女性の悲鳴のような声が聞こえてから、俺の上にいた人は宙を舞う。

 オーガは銃の弾をうっとおしそうに腕を顔の前に持ってきていた。


 女性が地面へ叩き付けられたら、銃撃が止む。

 俺はオーガの前に立ち、盾を構えながら突然乱入してきた集団へ声を張る。


「こいつに銃なんて効かない!! 邪魔だ!!」


 オーガは銃が止むと、俺へ向けて金棒を振り上げた。

 その金棒を盾で弾き、俺が盾で攻撃するよりも早く再度金棒が俺を襲う。


 錬気以外のバフ魔法をかけているのに、攻撃のチャンスがまったくこない。

 盾で金棒を弾き続けていたら、集団の中から声が聞こえてくる。


「あいつは【静岡の防壁】だ!」


 俺が盾で攻撃を防いでいる様子をスマホで撮り始めるような気配がした。

 俺はそれよりも、自分のことがそんな呼び方をされている方が気になる。


(静岡の防壁ってなんだよ……)


 予期せぬ言葉を聞き、オーガとの戦いから気が逸れようとしていた。

 しかし、目の前の戦う相手へ敬意を払うために、全力で向かう。


 両手でオーガが金棒を振り上げたので、両手の盾で上へ弾く。

 それとほぼ同時に足を全力で蹴り、オーガを地面へ打ち付けた。

 俺はオーガの胸に飛び込みながら、顔へ向かって魔力を込めた盾を振り抜く。

 

「シールドバッシュ!」


 盾の一撃で顔が潰れるものの、オーガは胴体に乗る俺を振り払おうとする。

 俺は胴体から上へ跳び、再び顔をめがけて1枚の盾を投げて、残った盾で頭を潰す。


 攻撃を受けたオーガは金棒を手から離した後、黒い煙と共に消えた。

 オーガが消えた瞬間、歓声のようなものが聞こえる。


「すげえ!」

「1人で倒した!」


 見られていたことを忘れていたので、途中から本気で戦ってしまった。

 スマホを構えている人がいるため、動画を撮られていたらしい。


(逃げよう)


 その集団から俺へ話しかけようとする人が近づいてこようとしていた

 俺は近づかれる前に、盾と金棒を持ってその集団へ向かって一言かける。


「お騒がせしました。これで失礼します」

「ちょっと……」


 俺が吹き飛ばした女性が何かを言おうとしていたが、無視をしてお寺から離れた。

 人が追ってきていないことを確認してから、レべ天へ金棒を回収してもらい、リュックへ盾を入れる。


(1つ調べることが増えたな)


 俺はウィスプの漂う場所を探し始めた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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