一也の記憶編⑤~佐藤一也との面談~

 ドラゴンの波にもまれた4人がぼろぼろになったのでレべ天が回復する。


 俺はストーンドラゴンに腕と共に吹き飛ばされてしまった佐々木さんの杖を回収してきた。

 それ以外に目立った傷がないため、ここまで強くなってくれて嬉しい。


 その時にレべ天へ4人の格について聞いたら、全員の格が【2】に上がっていた。

 レベ天にスキル鑑定等で10以上と表示されないように処置をしてもらってから、ギルドへ帰還を行う。


 バフォメットを倒してくれたので、しばらく訓練としての狩りへ行かないと伝えたら4人は泣くほど喜んでいた。

 ギルドで解散をして、俺はレべ天を連れてすぐに家へ戻る。

 部屋へ戻ってから、レべ天へ頭に響いた声について聞く。


「お前も聞こえたんだよな」

「はっきり聞こえました」


 俺は頭を両手で抱えて、自分の中にいる自分に話かける。


「聞こえていたら返事をしてくれ!」


 なんの返事もなく、俺は1人で上へ向かって叫んだだけになった。

 レべ天はベッドへ座りながら腕を組む。

 俺はずっと頭へ向けて語りかける。


「ちょっとうるさいんだけど!」


 母親が俺の部屋へ怒鳴り込んできた。

 部屋へ入ってから俺とレべ天の様子を見て、唖然としている。

 なんとか口を動かした母親は、俺とレべ天へ晩御飯を食べるように言葉をかけてきた。


 リビングに下りてテーブルで食事をしていたら、壁一面に貼られた新聞の切り抜きや雑誌のページが目に飛び込んでくる。


 この前の大会で優勝をした時から爆発的に増えて、今はリビングの壁紙の半分以上に掲示されていた。


 雑誌には俺のスキルの鑑定結果も掲載されており、体力向上と盾のスキルしか書いていない。


 俺は無言で食事をしているが、レべ天は母親と雑談をしながら食べていた。

 話が途切れたタイミングで、母親へこれ以上壁の額縁を増やさないように苦情を言う。


「お母さん、恥ずかしいからこれ以上壁のやつ増やさないでよ」

「嫌よ。私の楽しみで、あなたの活躍が一目でわかるようにしているんだから」


 母親がこの件で俺の言葉に首を縦に振ってくれたことは1度もない。

 最近ではなにかと友達を家へ呼んで、俺の自慢をしていると言っていた。


 その場に俺も呼び出されると、毎回のように母親の友達からどうやって強くなったのか聞かれて疲れる。


 父親も最近はゲームをせずに、俺のことを調べてまとめる日ができた。


 優勝したご褒美で好きなものを買ってくれると言うので、杉山さんの武器屋へ行ったら金額を見て違う物にしてくれと言われた。


 そんなことを思い出していたら、急にめまいを感じる。


『これなら安心して任せられるよ』


 声が聞こえた瞬間、母親と雑談していたレべ天がすごい勢いで俺へ顔を向けた。

 めまいは声と共に収まり、なんとか食事を終わらせて立ち上がる。


 部屋へ戻る時にまだふらついていたので、レべ天に体を支えられながらなんとか歩いた。

 レべ天に部屋のベッドへ寝かされて、俺のすぐ横にレべ天が座る。


「一也さん、あなたの中にいる人の魂の境目がわかったので話ができますよ」


 意識が遠くなり、自分の体が自由に動かせない。

 レべ天の声もかすかに俺へ届き、なんとか声を絞り出す。


「……頼む」

「目を閉じていてください」


 レべ天に額へ手を当てられ、俺は目を閉じた。

 何か聞こえ始めるが俺にその声が聞こえることはない。

 俺の意識はすぐに落ちた。



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 周りを見渡してもすべてが真っ白だった。

 急に空中へ俺が初めてグリズリーを討伐した時の映像が現れる。


「これは……」

「あなたの記憶だよ」


 聞いたことのあるような声のする方向を見たら【俺】の姿をした少年がいる。


 近づいてきながら、様々な方向を見ていた。


「これはあなたが今まで戦ってきたモンスター達」


 映像がいたるところに流れ始めて、バフォメットやレッドベア、桜龍など俺が今まで戦ってきた様子が映し出されていた。


 突如、急にすべての映像が消えて、俺は【俺】と向き合う。


「僕は急にあなたに体を取られて恨みました」

「……ごめん」

「あやまらないでください。今は満足しているんです」

「そうなの?」

「これを見てください」


 指で示した方向には、俺が黒い防具を着けて黒龍と戦っている時の様子が映し出される。

 その映像を【俺】が笑顔で見ていた。


「僕はこんなモンスターと戦えるなんて夢にも思っていませんでした」

「……」

「あなたは僕が理想とする冒険者の道を歩いてくれています」

「理想?」

「どんなモンスターにもひるまずに挑む人です」

「そうか……」


 俺の言葉を聞いて、【俺】は俺に向けて頭を下げる。

 急にどうしたのかと考えていたら、【俺】が頭を上げて口を開く。


「後、お母さんとお父さんを喜ばせてくれてありがとうございます」

「心配させてばかりだと思うけど……」

「それでも、最近は笑顔が多いですよ」

「それならよかった」


 それからしばらく、俺は【俺】と自分自身のことについて話をした。

 俺の過ごしてきた30年間と、【俺】の過ごした12年間、それぞれの話を聞きあった。


【俺】は話の途中で悲しそうな顔を俺へ向ける。


「僕の心残りは、去年はぐれてしまった【あの子】のことだけです」

「あの……祭りの時にはぐれた子?」

「はい。なんとかして探してくれませんか? そして、助けてくれたお礼を伝えてください」

「わかった」


 それを伝えたら、【俺】の体が消えてゆく。

 慌てて手を握ろうとしたら、もうつかめない。


「もう消えるみたい」

「そうか……必ずその人を探すから」

「お願いします」


 そう言いながら【俺】は消えてしまった。

 すぐにこの空間も消えてしまい、俺はすぐに意識が覚醒した。

 目を開けたらレべ天が不安そうに俺を見ている。


「どこまで聞いた?」

「魂を繋ぐことに集中したので、何も聞いていません」

「そうか、なら説明は後だ!」


 スマホを見たら夕食が終わってまだ30分も経っていなかったため、すぐにリビングへ向かう。

 レべ天は驚きながらも俺へついてくる。


 リビングでは父親がVRゲームをやっていたため、母親へ用件だけを伝える。


「お母さん! 去年俺が行った祭りってどこかわかる?」

「急にどうしたの? 祭りなんてしょっちゅう行っていたじゃない」

「そうだったね。えっと……」


 俺は先ほどの話の中で、【俺】が祭りが大好きでよく自分で調べて静岡県中の祭りへ行っていたと言われたことを思い出す。


 他に特定できそうなことが無いのか頭で考えていたら、テレビで花火特集が行われていた。


(花火を見るためにあの子へ謝りながらあの場所を離れた!)


 母親が不思議そうに俺を見ており、俺は再び母親へ聞くために口を開く。


「花火を一緒に見に行った祭りがあったよね!?」

「一緒に花火? あったかしら……」


 母親が考えるようなしぐさをしても、なかなか思い出してくれない。

 俺はそれ以外のヒントを出して、なんとか頭からひねり出してもらう努力をする。


 その時に、ゲームを終えた父親がリビングに近づいてきた。


「どうしたんだ?」

「あなた、去年一也と一緒に花火を見に行った?」

「花火? あったかな……」


 家族3人でお祭りについて考えても、なかなか答えが出てこない。

 俺は家族で来ているはずのお祭りなのに、夢でなぜか1人で行動していたことに気が付いた。


「俺が迷子になったお祭りだよ」

「迷子……ああ!」


 母親が何かを思い出せたのか、父親と内容を確認するように話を始める。


「あなたあれよ。夏休みに旅館に泊まった時よ」

「ああ、あの時か!」

「京都のお祭りだからって、一也がはしゃいで1人で人ごみに紛れてはぐれたのよね」

「そうそう。けど、旅館から花火が良く見えるって教えていたから、始まったら帰ってきたな」


 両親は詳細に懐かしみながら話を弾ませている。

 その内容があまりよくわからないので、改めて聞いてみた。


「えっと、それでどこの祭りのことなの?」


 母親は父親との話を止めて、俺に覚えていないのと言いながら場所を教えてくれた。


「去年の夏休みに京都の嵐山の旅館に泊まった時のことよ。あんなに楽しんでいたのに本当に忘れたの?」

「忘れてた。教えてくれてありがとう!」


 俺はレべ天の手を引いて、再び部屋へ戻る。

 部屋に戻った瞬間、魂との約束を果たすためにレべ天へ祈るように頼みごとをした。


「天音頼む! 今すぐ分身をここで寝かせて、俺を京都へ飛ばしてくれ!」

「しょうがないですね。任せてください」


 レべ天は俺から必死に頼まれて嬉しいのか、満面の笑みを向ける。


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