一也の記憶編②~現在の弓道部~
「また時間切れですね」
俺は制服を着せられた状態で学校のベンチへ座っている。
レべ天は放課後の時間になった瞬間に俺を白龍の場所から回収した。
今は横にいるレべ天に文句を言われながらベンチで白龍の攻略法について悩んでいる。
「私は少しでもあいつを弱らせてくれれば助かりますけど、今はナイトを倒してくれた方が良いです」
「そういうことじゃない」
「どういうことですか!?」
「それより、天音。もうあの子たちが待っているんじゃないの?」
あまりにもしつこいので、手で追い払うようにしながら顔をそむけた。
レべ天は頬をふくらませてから、離れていく。
不機嫌そうに歩くレべ天の後姿を見て、思わず笑みがこぼれる。
(文句は言うけど、必ずサポートをしてくれるんだよな)
そのため、先ほどは俺のことを心配して白龍と戦わないでと、遠回しに言ってくれているのだろう。
俺も部活へ向かうためにベンチから立ち上がる。
弓道場へ向かいながらも白龍の攻略に必要なことを思い浮かべた。
(あの防壁を突破するには、最上級スキルを取得する必要があるな……)
俺の格は【4】まで上昇している。
レべ天が言っていたが、最上級スキルを手に入れるためには【7】も格が必要らしい。
(日本各地のモンスターを倒し続けても1すら上がらないのにどうすればいいんだ……)
レべ天は格が上がる明確な条件を忘れてしまったと涙目で言っていた。
本当に肝心なところで使えないと思ってしまったら、心の中を読んだレべ天がいきなり泣き叫んだ時は本気でレべ天の頭の中を心配した。
(弓道場には格の上昇のヒントになる人物がいる)
弓道場へ入ると、夏美ちゃんがすでに準備を終えて弓を引いていた。
俺へ視線を送ることなく、夏美ちゃんが言葉をかけてくる。
「今日も来たんだね」
「……部員だからくるよ」
夏美ちゃんを花蓮さんたちと一緒に連れまわすようになってから、なぜか冷たく対応されるようになった。
荷物を置くために部室へ向かっていたら、矢が3本同時に的へ刺さる。
次は2本同時に矢を引いて、別々の的に当てていた。
スキル鑑定で確認済みだが、これはスキルによる効果ではなく、単純に夏美ちゃんの技術による芸当だ。
(この技がモンスター相手でもできるようになって、夏美ちゃんは弓の熟練度Lvだけが上限を突破している)
夏美ちゃんのスキルを思い出しながら弓を取り出して服を着替え始めた。
◆
(清水夏美スキル一覧)
体力回復力向上Lv10
(Lv5) ┣[+剣熟練度Lv5]攻撃速度向上Lv5
(Lv10)┗キュアーLv10
剣熟練度Lv6
(Lv3) ┣挑発Lv6
(Lv5) ┗バッシュLv6
弓熟練度Lv12
(Lv3)┣気配察知Lv10
(Lv5)┗鷹の目Lv10
◆
弓の熟練度Lvが格の上限を突破していることは俺とレべ天しか知らない。
極限状態でもそのスキルを信じて使用すると突破するとレべ天が考察していた。
レべ天に熟練度Lvが10以上であることが知られると困ることを相談したら、スキル鑑定などで10にしか見えないように隠してくれた。
(スキル鑑定Lv20以上の者が行わなければなければ、これがばれることはない)
ちなみに、俺のスキルは体力向上と盾熟練度しか表示されないようにしてある。
◆
(佐藤一也隠蔽ver)
体力回復力向上Lv10
盾熟練度Lv10
(Lv10)┗シールドバッシュLv10
◆
スキルが本当に隠せているのか不安になったため、学校に来ていたスキル鑑定士さんで確認をしておいた。
その時に、俺のスキルが無くなっているのを知った鑑定士さんが自分のスキルを疑ってしまったので、隠すようにできるスキルを習得したと嘘をついてしまった。
準備を終えたので、弓を持って射場へ向かったら夏美ちゃんが矢を整えながら俺を見てきた。
「授業には出ていないのに部活には来るんだね」
「わかるの?」
「学校にいる身代わりは今の一也くんと気配が違うよ」
さすがのレべ天も気配までは真似できないようだった。
それに気付いた夏美ちゃんを褒めるしかない。
「すごいね。他の人はまったくわかっていないのに」
「あなたは私が初めて的にしたいと思った人だから」
「怖いことを言うようになったよね」
「……あんなことをさせておいてよく言えるね」
夏美ちゃんが持っていた弓を俺へ向けて矢を引いていた。
引く動作までが早く、音もほとんどしない。
今放たれても俺には当たることはないため、特に気にせず自分の矢を用意する。
「余裕ですか? 放ちますよ」
「自分でも当たらないってわかっているでしょ? 練習の続きをしないの?」
夏美ちゃんは俺に聞こえるように大きな舌打ちをして、矢を戻す。
最初の印象とだいぶ違う人物になり、俺はなんでそんなに恨まれているのか気になる。
「夏美ちゃんはなんでそんなに俺が憎いの?」
「一番覚えているのは、佐々木さんの下半身が吹き飛んだ時にも矢を引けと言われたことだよ」
「そんなことあった?」
「あったよ!! 下半身がモンスターに食べられているのを見たまま、平然と餌に夢中だからそのまま倒せって言ったんだよ!!」
俺は矢を的に当てながら考えても、夏美ちゃんの言っていることが思い出せない。
モンスターと戦って負った傷は治してあげているため、何が憎いのか理解に苦しむ。
「治っているし、モンスターも倒せたからいいじゃん」
「そういう問題じゃないよ! 今もあの時のことを夢に見ているんだから!」
「次はそうならないようにもっと強くなろう」
「話を聞いていましたか!?」
夏美ちゃんが弓を引こうとしていた俺へ詰め寄ってくる。
そんな時に弓道場の入り口から田中先生が疲れた顔をして入っていた。
夏美ちゃんは俺から少し離れて、まだ俺をにらんできている。
俺は夏美ちゃんを見ないようにして、田中先生が疲れている理由を聞いた。
「田中先生、疲れているように見えますけど、大丈夫ですか?」
「あんたたちが大会で勝ったから、毎日色々な人に部活で何をやっているのか聞かれすぎて疲れているのよ……」
「そうならないように実演したじゃないですか」
夏美ちゃんが射撃大会で優勝した時や競技大会で全国大会の出場権を得た時、特に喜んでくれていたのが晴美さんと田中先生だった。
その大会後、弓を練習したいという生徒が弓道場に殺到したため、俺と同じ入部テストを行なった結果、入部希望者がいなくなった。
(矢が1本足に刺さっただけで辞めちゃうんだもんな)
俺も入部試験で盾を持った生徒へ弓を引いたが、誰も矢を弾けずに試験が終了する。
次の日に、足を故意に怪我をさせたと大量の親が学校へ乗り込んできた。
その集団は、目の前で俺が箱一杯の矢を弾いたら何も言わなくなった。
逆に俺がこの程度もしようとしない覚悟でここにくるんじゃないと叫んだことにより、それ以降入部希望者が1人も現れていない。
「あなたのことを取材したいとか、強さの秘訣を何か知っていたら教えてほしいとか、そんなのばっかりよ」
田中先生はうんざりしたように、射場に置いてある椅子に座る。
俺は田中先生が見ている前なので、弓道式に弓を引いて矢を放ち始めた。
俺が矢を放ち、余韻を残して残心を行なっていたら、田中先生があきれながら俺を見ている。
「もう取り繕わなくていいわよ」
「どういうことですか?」
「この前の大会で夏美が弓道を無視して矢を引いていたし、あなたもそうなんでしょう?」
「なにかぎこちなかったですか?」
「いいえ、私から見ても完璧ね」
田中先生は呆れるように半笑いで俺をほめていた。
初めて田中先生から弓の腕を認めてもらえたので、少し嬉しくなってしまう。
「えっと……ありがとうございます」
「自由に引いて良いから、練習をするなら続けなさい」
「はい」
俺は夏美ちゃんのできている2本同時撃ちを習得するべく練習をしたが、なかなかうまくできない。
俺の横では得意げな顔をしながら4本同時に矢を放つ夏美ちゃんがいたので、俺は田中先生に隠すことなくスキルを使用して矢を放つ。
無言でマルチプルショットを行い、的へ40本分の穴を開けたら、田中先生に的場の土まで吹き飛ばすなと怒られた。
すぐに部活動の終了する時間になったので、夏美ちゃんと一緒に片付けをしてから弓道場を出る。
校門には、馬の毛が顔に付き髪に鳥のような羽が刺さったレべ天が手を振りながら俺を待っており、腕を組んでいる花蓮さんがその横に立っていた。
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