一也の記憶編③~記録の断片~
「天音、汚れているからなんとかしろよ」
「すみません、急いでいたので」
レべ天は自分の服についている動物の毛を振り払っている。
自分の顔や頭についているものには気づいていないのか、花蓮さんが手を差し伸べた。
「天音ちゃん、じっとしていてね」
「はい」
花蓮さんはレべ天の顔と頭に付いているものを取り始める。
最後にレべ天の背中を見て、軽く背中をはたく。
「これで大丈夫よ」
「ありがとうございます」
レべ天が花蓮さんへ頭を下げてお礼を言っていた。
この2人は同じ騎乗部に所属している。
レべ天は動物の世話をするのが楽しいらしく、自分は一切乗らずに馬などの体を綺麗にしたり、厩舎の掃除をしているようだ。
俺と夏美さんはレベ天たちの様子を見守っており、終わったようなので帰り始める。
「帰りましょうか」
俺は先に歩き出して、後ろでは3人が楽しそうに雑談をしている。
女性同士の会話に入れるほどコミュニケ―ション能力が高くないことを自覚しているので、なんとか話すタイミングをうかがっていた。
それは中学校から一番近くに住んでいる夏美さんが帰る時にようやく訪れた。
夏美さんが立ち止まり、警戒しながら俺へ顔を向ける。
「一也くん、明日はどうすればいいの?」
「明日は8時頃に学校前集合でお願い」
「……わかった」
夏美さんはレべ天と花蓮さんへあいさつをしてから俺たちと別れた。
花蓮さんが疑うように俺へ言葉をかけてくる。
「明日は本当に【バフォメット】と戦いに行くの?」
「確認したいことがあるので、行ってもらいます」
俺の言葉を聞いた花蓮さんは左手をさすりながら歩き始めた。
花蓮さんと別れる交差点へ着いた時に後ろを振り返ったら、花蓮さんがいない。
俺は影を見て、顔を上へ向ける。
そこには花蓮さんが剣を振り上げて、俺の頭へ叩き込もうとしていた。
手で剣を軽く弾き、落ちてくる花蓮さんの腹に掌底を叩き込む。
花蓮さんは5mほど吹き飛ばされるも、地面へ倒れ込まずに体勢を整えていた。
「なかなか油断しないわね」
「今のを受けてよく平気ですね」
「誰かさんに鍛えられたおかげよ」
「明日は大丈夫そうでよかったです」
花蓮さんは鼻を鳴らしてからそっぽを向いて歩き始める。
レべ天が不安そうに花蓮さんを見ていた。
「明日は羊の化け物を倒した後はあなたをやるから」
「用意しておきます」
俺の言葉に答えることなく花蓮さんが歩き去っていく。
俺もレべ天と一緒に帰宅した。
レべ天はなにかと理由を付けて俺の部屋に来て、寝る直前まで俺のベッドを占領している。
両親はこの存在を当たり前かのように受け入れているため、無理に追い出したら逆に俺が親から怒られる。
レべ天の両親は海外に出張へ行っていて、家に1人だと寂しいからうちに来ている設定だった。
明日の準備も終わり、そろそろ寝ようとしたらレべ天が【動物の飼育方法】という本を読んでいたので取り上げる。
「意地悪しないでください」
「もう寝るから帰れよ」
「早くないですか?」
「時間を見ろよ、いつも通りの時間だって」
「本当だ……」
時計を見たレべ天がベッドから身を起こすので、俺は本を返して玄関まで見送る。
レべ天がいつのまにか住んでいる隣の家に戻った。
俺はほのかに温かい布団へ入り、寝始める。
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「ここで待っててね!」
何かへ俺はそう言って、にぎやかな屋台のある方へ歩く。
屋台を眺めて、さっき待たせた子が食べられそうな物を探す。
屋台にはモンスターの仮面などがあり、武器を持った人が大勢道を歩いていた。
美味しそうに焼かれたトウモロコシを見つける。
(これならあの子も食べられるかな)
財布を取り出して、中に入っているはずの百円玉を探す。
数枚の百円玉を渡して、袋に入った焼きトウモロコシを受け取る。
それを持ってあの子を待たせた場所へ戻っても、その姿が見えない。
探すためにトウモロコシを持ったまま走り回る。
「どこにいるの!? 戻ってきてよ!!」
いくら探してもその子の姿が無く、遠くで花火が鳴ってしまう。
(花火が始まっちゃった。もう行かなきゃ……)
その子が戻ってきても大丈夫なように布を敷いて、その上へ持っていた袋を残して俺はその場を去る。
(また会えるといいな……)
それからその風景が何も見えなくなり、世界が真っ暗になる。
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(あの夢はなんだったんだ……)
4人がバフォメットと戦い様子を見ながら、昨日見た夢について考える。
俺はこの世界に来てから祭りに行ったことなどないため前世の記憶かと思ったが、武器を持った人が歩いている祭りなど行ったことが無い。
悩んでいたら、4人の戦いが佳境を迎えていた。
前衛に花蓮さんと真央さん、後衛には佐々木さんと夏美さんという構成でバフォメットへ挑んでいた。
花蓮さんと真央さんは、攻撃を続ける後衛の2人へ攻撃が届かないように必死で攻撃を凌いでいる。
佐々木さんはライトニングボルトで確実にダメージを与え、夏美ちゃんは目や急所へ容赦なく矢を放つ。
(バフォメットを倒すのも時間の問題だ)
安心して見ていられる戦いを、俺の横にいるレべ天は落ち着きがなく応援している。
レべ天を横目で見て、相談でもしてみるかと思いながら口を開く。
「天音、ちょっといい?」
「なんですか!? もうちょっとで倒せそうなんですけど!?」
「相談があるんだけど」
「ぜひしてください!!」
さっきまで応援をしていた戦いを見るのをすぐに止めて、レべ天は俺を期待するような目で見る。
俺は昨日の夢のことを説明して、自分にはまったく身に覚えのないことを話す。
真剣に聞いていたレべ天はなぜか納得したように、ああと言いながら手を打つ。
「だから昨日一也さんの魂がちょっと変になったんですね」
「どういうこと?」
「ふふん。教えてあげましょう」
レべ天はあまりない胸を張りながら俺へ偉そうに話をしようとしていた。
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