第4章 〜佐藤一也の記憶〜

第4章導入編~静岡県予選~

4章の導入編になります。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 7月の初旬、静岡県営競技場では剣術部門一般の部の決勝が行われていた。

 俺は来賓席に用意されたギルド長と書かれた札が置かれた席から競技場を見守っている。


 決勝では谷屋花蓮対谷屋絵蓮という姉妹対決が実現してしまった。


 この部門もU-16とU-18、それ以上の一般の部に分かれている。

 しかし、中学3年生である谷屋花蓮はあえて一般に申し込みをしたようだった。


(条件にRank2以上の者としか書かれていないため、参加を認めないことができなかった)


 谷屋花蓮は太田真央と共にモンスターを狩り続けて、Rankが2に上昇していた。

 そして、予選と決勝トーナメントを勝ち抜き、決勝戦で姉の谷屋絵蓮と剣を交えていた。


 戦いの一挙一動をこの競技場にいる観客全員が見守っている。


 谷屋絵蓮は前年度の大会で優勝し、全国大会でも3位に入賞していた。

 その彼女に対して、俺の目から見ても妹である花蓮が押しているように見える。


 花蓮が一般の部へ登録したことが分かった時、U-16の団体戦で勝利をしたため天狗になっているのではないかと、ギルドや冒険者の間で噂をされた。


(この光景を誰が予想できたのか……)


 佐藤一也に鍛えられたからと言っても、ここまで強くなるものなのかと全身から冷や汗が出てくる。

 顔から噴き出る汗を手で拭い、花蓮の戦いの分析を始めた。


(おそらく……花蓮は絵蓮と戦うまで1度も全力を出していなかった……)


 競技場で戦う絵蓮に対して、花蓮の剣が暴風のように振るわれている。

 花蓮の振るう剣の音が絵蓮の防具に当たり続ける音が絶え間なく聞こえ続けていた。


 絵蓮が無理に剣を振ろうものなら、その隙を突いて回し蹴りがねじ込まれる。


 花蓮は準決勝まで盾や防具を着けていたのに、なんの冗談なのか今は剣1本しか持っていない。

 その行為の意味が分からなかったが、何かの制御を外したかの如く動きが速くなっていた。


(あいつの指導を受けたら防具をつけると弱くなるのか……)


 今まで見たことの無いような剣の使い手が現れて、この戦闘から目が離せない。

 絵蓮が防戦一方なのに対して、花蓮が怒るように叫んでいる。


「それがお姉ちゃんの実力なの!? もっと頑張ってよ!!」


 花蓮の声に答えることなく、絵蓮の剣が弾き飛ばされた。

 倒れた絵蓮に花蓮が剣を突き付けて、何かを言っている。

 ここからでは話し声までは聞こえないため、俺は表彰のために競技場へ向かい始めた。

 

 今回の大会は数日にわたって行われており、剣術部門が最終日となる。


 解体部門、射撃部門、競技部門個人戦、剣術部門の大会が行われた。

 俺は競技場に立つと、今回の表彰で特に目立つ者へ目を向ける。


 一部を見て軽くため息をついて賞状を渡し始めた。



解体部門一般の部優勝――太田真央

射撃部門U-16の部優勝――清水夏美

競技部門一般の部個人戦入賞者――佐藤一也・清水夏美・佐々木優

剣術部門一般の部優勝――谷屋花蓮

競技部門U-16の部団体戦優勝――佐藤一也・谷屋花蓮



 解体の部一般の部では、前年度のU―18で優勝した太田真央がそのまま一般の部でも優勝する。

 解体技術や運搬技術に磨きがかかり、静岡県の大会史上過去最高の成績を残す。


 射撃部門U-16の部では、初めて弓を使用した選手が優勝した。

 飛んでくる的へ1度も外すことなく、矢を当てる姿に俺を含んだ会場中が目を疑った。

 長距離への射撃でも、すべて的の中心に矢を的中させる。

 その結果、弓では不可能だと思われていた競技を制した。


 競技大会の個人戦は、全国大会へ進出できる3名になった時点で競技が終了する。

 一般の個人戦に佐藤一也が登録しており、同じ歳の清水夏美も一般へ出場していた。

 現役を引退したはずの佐々木も出ており、2人と共に全国大会へ進出する。


 佐藤が2人を守りながら、弓と魔法で攻撃を続ける姿を見た誰かが、佐藤のことを【静岡の鉄壁】と呼び始めてしまう。

 本来10人で登録する競技大会の団体戦を2人で勝ち抜き、圧倒的な力を見せた佐藤一也は県内の冒険者以外の人にも名前が知られるようになった。


 そのため、個人戦が終了した時点で冒険者Rank3を佐藤へ与えた。


 全国大会へ進出する各部門3人の表彰を終えた後、本当に実行していいのか佐藤へ向かって目配せを送る。

 佐藤は俺の合図に気付いたのか、笑顔でうなずいてきた。


(やるしかないか……)


 この場所にはマスコミや大勢の観客が見守っているため、あの【存在】を見せつけるにはまたとない機会だ。

 しかし、佐藤が表彰を受けるために目の前にいるのに本当に実行できるのか不安だった。

 連日の電話や国からの催促を躱し続けるのも限界なので、この場所に【黒騎士】を呼ぶ。


 俺はマイクを手にして、会場中へ聞こえるように声を張る。


「入賞をしたみなさんと会場のみなさんに私からサプライズがあります!」


 手を上へ上げながら天へ向かって人差し指を出して、言葉を続けた。


「入賞者のみなさんには、黒騎士と戦う挑戦権を与えましょう!」


 不安を隠しながら佐藤を見たら満足そうに笑顔になっていた。

 本当に登場するのか心臓が高鳴り、俺の声と共に会場から音が消える。

 その静寂を打ち砕くようにある声が聞こえてきた。


「バーニングフィスト!!」


 天から炎の塊が競技場に撃ち込まれて、弾けるように火の粉が飛び散る。

 競技場の一部にクレーターのような場所ができて、その中心に黒騎士が降り立つ。


(なんでいるんだ!? どこから来た!?)


 来ると知っていた俺でも驚いてしまう。

 会場中からフラッシュが見えて、スマホで黒騎士を撮影している。


(表彰を受けている佐藤がそこにいるのになぜ黒騎士もいるんだ!?)


 疑問を浮かべたのは俺だけではないようで、事情をしっている佐々木や谷屋花蓮も佐藤に何かを聞いていた。

 佐藤は俺を見ながら、マイクで何かを言うように催促をしてくる。

 俺は忘れかけていたことを思い出して、マイクを口へ近づけた。


「大会に勝ち残ったみなさん! 私が知っている一番強い者へ挑戦したい人はいつでもどうぞ!!」

「行きます!!」


 声のする方を見たら、谷屋絵蓮が目を輝かしながら剣を手にして黒騎士に向かって走り始めていた。

 クレーターから出てきた黒騎士は立ち止まって谷屋絵蓮を待っている。


「黒騎士様!! 私のことを覚えていますか!? 私は……」


 谷屋絵蓮が何かを言い終わる前に、黒騎士が拳を思い切り突き出して彼女を50mほど離れた競技場の壁まで吹き飛ばす。

 それを見ていた他の表彰者はしばらく動かなかったが、ある集団が黒騎士の前に立つ。


 谷屋花蓮を先頭にして、太田真央、清水晴美、佐々木が戦いを挑もうとしていた。

 谷屋花蓮が自分を奮い立たせるように、大声を出し始める。


「私たちにあんなことをしておいて絶対に許さない!! この機会にぶっころしてやるわ!!」


 全員が同じ気持ちなのか、その声を聞いて他の3人も雄叫びを上げながら武器を構える。

 それから行われた戦闘は他の者が介入する余地がなく、見ることしかできなかった。


 まずは黒騎士から再び放たれた炎の塊を4人の後ろから追い付いてきた【佐藤?】が盾で防ぐ。

 それ以降佐藤は黒騎士へ近づこうとせず、4人の戦いを見守るように見ていた。


 4人のチームワークは素晴らしく、谷屋花蓮と太田真央は黒騎士の攻撃をうまくさばきつつ、後衛の2人が全力で黒騎士に矢と魔法で攻撃を続けている。

 しかし、黒騎士に攻撃が1発も届くことはない。


 黒騎士の周辺の空気が揺らめいたと思ったら、谷屋花蓮と太田真央がなぜか黒騎士から吹き飛ばされている。

 2人を離した黒騎士は天へ手を上げていた。


「ライトニングストーム!」


 その声が終わると同時に、競技場の上空から突然雷がありえないほど降り続ける。

 4人は回避することができず、雷を受けたらその場へ崩れ落ちた。


 その戦いを見た後、挑戦するものは1人もいなかった。

 黒騎士は競技場から消えるようにいなくなったため、俺はマイクで最後の一言を会場へ響かせる。


「これが静岡県の誇る者の実力です!!」


 俺がマイクで言い終わるとすでに黒騎士の姿がどこにも見えない。


 佐藤が倒れている4人に駈け寄ったら、全員が立ち上がり始めていた。


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