富士山攻略編⑩~放課後の決闘~
第3章の最後の物語になります。
今回は谷屋花蓮視点で進行します。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一也くんが富士山から帰ってきてから数週間が経ち、すでに5月も終わろうとしていた。
私に挑んでくる挑戦者もほとんどいなくなり、今は平和な日々を過ごしている。
相変わらず姉は【黒騎士様】について熱心に情報収集をしており、7月に行われる剣術大会の準備をしていないように思える。
姉は奨学金をもらって騎士大学校へ通っているため、この大会で結果を残さなければ奨学金を打ち切られるかもしれない。
その危機感が姉から感じることができず、私はもう姉のことを放置することにしている。
(私はお姉ちゃんと戦うかもしれない)
私も姉と同じ剣術大会に出場するため、勝ち残れば姉と勝負することがあると思う。
なので、大会が終わるまでは姉とは距離を置くことにした。
一也くんは部活が忙しいようで、まったく姿を見かけない。
最近は真央さんと一緒にモンスターを狩りへ行くことが多くなっていた。
(私も着実に強くなっている)
モンスターを倒すたびに自分が強くなっているのがわかる。
今度、佐々木さんの予定が合う時に3人で樹海へ行くことも検討していた。
学校には第2中学校の校舎が破壊された影響で、第2中学校の希望する生徒が第1中学校と第3中学校に半分ずつ分配された。
しかし、第2中学校の大半の生徒が冒険者を諦めて普通中学校に転入してしまったようだった。
(あれをされて心が折れたんだ……)
自分の骨を折られて、なおかつ戦車を相手にまったく引かずに殴る一也くんから脅されるようなことを言われて冒険者の道を諦めたのだろう。
生徒の増えた第1中学校には空き教室がなくなり、1クラスあたりの人数も増えている。
私も一也くんのように自分の道を貫いて、学校で自由に過ごそうかと考え始めていた。
そんなことを考えながら学校へ向かっていたら、校門のところで女の子に声をかけられる。
「あの! 谷屋花蓮先輩ですよね!?」
「ええ、そうだけど……」
「どうかこれをお受け取りください!」
短い髪でどこかで見たことがあるような顔をした小柄な女の子が近づいてきていた。
名前を確認されてから、白い封筒を私の前に差し出してくる。
「これは?」
「よろしくお願いします!」
女の子は私の質問へ答えることなく、私に頭を下げてから走って去ってしまう。
私は受け取った封筒を鞄へ入れて、教室へ行ってから開封することにした。
教室の席に座り、改めて女の子から受け取った白い封筒の中身を見たら、和紙のような紙が入っている。
紙を取り出すと大きく墨で【果たし状】と書かれていた。
こんなもの実際にあるのかと思いながら紙を広げると、力強く筆で書かれた文字が並んでいる。
○
谷屋花蓮 様
佐藤一也くんのPTメンバー参加へ希望するため貴女へ決闘を申し込みます
本日、放課の5分後より開始させていただきたいと希望しております
ご都合が悪い場合のみ私のクラスへ来ていただければ中止します
1年Dクラス 清水 夏美
○
(なにこれ……)
今までPTメンバー参加するために勝負を数えられないほど受けてきたが、このパターンは初めてだった。
肝心なことが書かれていなかったため何度か文章を読み直す。
(場所は?)
焦って書き忘れたのかと思い、あの女の子は礼儀正しそうなのでそのうち伝えにくると考えた。
担任の先生が教室へ入ってくるので、紙を封筒へ戻して鞄の中へ入れておく。
授業がすべて終わり、放課後になってもあの女の子が私のところへ来ることはなかった。
荷物を持って、1年生の教室へ行こうか迷っている時にクラスメイトに話かけられる。
スキル習得のコツを聞かれたため、剣を振り続けるしかないとアドバイスをした。
その子はそれで納得ができないのか、他にはと聞かれ続ける。
他の生徒も気になっているようで、聞き耳を立てているような人もいた。
(思い切り剣を振るだけ……私もそれができなかった……)
親身になってスキルが使えるようにアドバイスをしようとした瞬間、ガラスの割れるような音が聞こえる。
反射的に剣を手にしたら、私の机に【矢】が突き刺さっていた。
「え!?」
ガラスの割れた方向を見たら、次の矢がすでに迫ってきている。
教室で叫びながら剣を鞘から抜いて、矢を振り払う準備を行なった。
「みんな頭を伏せて!!」
矢を弾くと金属同士が当たる音が聞こえ、床に銀色の矢が落ちる。
矢は隣の部室などがある普段は開放されていないはずの屋上から来ていた。
(あえて場所が指定されてないってことは、学校全体が戦う場所ってこと!?)
そう判断すると、私は時間が惜しいので扉を蹴破って教室から出る。
矢を止めさせるために、隣の校舎の屋上へ向かって走り始めた。
屋上へ行くために廊下を走っている最中にも、矢がガラスを突き破りながら放たれ続けている。
「あの子は何を考えているの!?」
他の生徒に当たるとか考えていないのだろうか。
女の子のところへ向かっている最中に放送が流れる。
「現在、校舎内では佐藤一也くんのPTメンバーを選抜する戦いが行われているので、関係のない生徒は次の放送があるまで動かないでください」
学校中のスピーカーから校長の声が流れていた。
私はこの決闘が学校公認であることを悟り、頭の片隅にあるやつのことが頭をよぎる。
(
こんなことを校長へ言わせることができるのは、あいつしかいない。
私に姿を見せないと思ったら、こんなことを計画していたとは思わなかった。
(そう言えば彼は弓道部だったわね!!)
矢が一旦止まり、私は全速力で屋上へ階段を上り始める。
屋上への扉を開けた瞬間、風を切るような音が聞こえた。
反応が一瞬遅れて、扉から手を離そうとしたら私の肩に矢がかする。
制服の肩の部分が切れてしまい、まだ自分には傷がないことを確認した。
飛び出すように屋上へ出ると女の子の姿はなく、さっきまで私がいた校舎の屋上へ移動している。
「嘘でしょ!?」
女の子は矢を構えて私へ向かって放ってくる。
矢を弾くと、女の子が次の矢を構えずに私を見ていた。
「谷屋先輩! グラウンドでお待ちしています!」
私へ一方的にそう言い放ち、大きな弓を持った女の子が扉を開けて校舎の中へ入っていく。
「上等よ!!」
私もグラウンドへ向かうと、中央に袴姿の女の子が先ほどよりも小さな弓を持って立っていた。
その立ち姿は凛としており、思わず見入って立ち止まってしまう。
「お待ちしておりました。決闘の続きをお願いします!」
女の子が弓を構えるので、私も剣を構えて矢を迎え撃つ。
至近距離で矢が放たれるので、私はそれを躱しつつ女の子へ近づく。
私が接近するのを気にすることなく、女の子は次の矢を放つ準備をしている。
「遅いわ!」
弓が放たれる前に女の子へ向かって剣を振るう。
しかし、私の剣が空を切り、そこに女の子はいなかった。
「あなたの方が遅いです」
地面で動く影で女の子の位置を確認する。
その方角から矢が放たれるので、私は寸前で矢を避けて距離をつめた。
剣を女の子へ向かって振り下ろす。
私の剣は女の子の髪を数本切っただけだった。
剣を振り下ろした直後の私へ【数本】の矢が放たれてくる。
(どういうことなの!?)
矢を躱すために自分の体を無理やり動かす。
矢が数本飛んできたことに驚き、気持ちが守りに入ってしまう。
女の子は2本同時に矢を持って弓を引いていた。
2本の矢が同時に放たれて、私へ向かって飛んでくる。
(離れた方が不利!)
矢を剣で打ち落として、全速力で女の子へ向かって走り出す。
女の子が再び2本の矢を持って構えた時、私はすでに間合いへ入ることができていた。
矢が放たれるのと同時に剣を振る。
しかし、私の剣と女の子の矢が相手に届くことはなく、紫色に光る盾に割り込まれていた。
盾に振り払われて、私はその場から吹き飛ばされる。
こんなことができる人物は1人しかいないので、その盾を使っている人物に勝負に水を差された文句を言う。
「ここからって時に止めるわけ?」
「お互い本気で相手を殺しにいっていたので止めました」
私の全力の剣を軽く受け流した一也くんが笑顔を向けてきていた。
学校中のガラスが割れているので、この騒動をどうするつもりなのか聞く。
「この責任は誰が取るの?」
「今日の勝負については、すべて校長が責任を取ってくれます」
一也くんは校長がこの前の第2中学校のことを外部に漏らしたと言っている。
その見返りに、今日の勝負についてはすべて不問にしてもらうようだ。
一也くんが話を終えると、女の子が頭を下げてから改めて自己紹介をしてきた。
「今日はいきなり申し訳ありませんでした。私は弓道部の清水夏美です」
「清水……もしかして、ギルドの?」
「はい、姉がいます」
清水さんの妹だから見たことがある顔なのかと思い、納得した。
私はこの騒動を引き起こしたと思える張本人へ顔を向ける。
「それで、なんでこんなことをしたの?」
「手紙読んでないんですか? これはPTメンバーの試験ですよ」
「試験って……」
「花蓮さんから見て夏美さんの実力はどうでしたか?」
夏美ちゃんを見たら不安そうに私を見上げている。
今まで戦った人と比べたら、夏美ちゃんは相当強いと感じた。
素直に口に出す前に、教室にいた私へ矢を放ったことを注意する。
「夏美ちゃん、教室にいた私を矢で攻撃するのは危険じゃないの?」
「危険ですか?」
「あんなに遠くにいるから他の人に当たるとか考えないの?」
「先輩の気配を覚えていたので、他の人には当たりません」
「気配って……」
私は平然とよくわからないことを言う夏美ちゃんを見て、頭を抱える。
しかし、PTメンバーとしてなら心強いので、夏美ちゃんへ笑顔を向けた。
「夏美ちゃん、これからよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
夏美ちゃんは弾けるような笑顔を私へお礼を言っている。
そんな私たちを見守るように一也くんが立っていた。
私たちのPTに3人目のメンバーが加入した。
一也くんは7月に行われる競技大会の個人戦までに、私たちの強化案を上機嫌で伝えてくる。
私はその案を聞きながら、自分が大会まで生きていられるか不安になってしまった。
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