富士山攻略編⑤~登頂への道のり・太田真央視点~
ギルド長から一也が富士山へ登頂するということを聞いて、居ても立っても居られなかった。
一也に同行させてもらえるように交渉するのは佐々木さんがやるから、私は連絡しないように言われている。
夜にようやく佐々木さんから連絡があり、朝の7時に一也の家へ行けば同行できると伝えられた。
同行するのは、キャンプの時と同じメンバーと言っていた。
連絡を受けてから、狩りへ行く準備のために武器と盾を用意する。
(さすがに防具を着けてもいいだろう……)
一也の話では、富士山には大量のドラゴンが生息しているらしい。
その中を防具も着けずに行くとは思えないため、一応防具も出しておく。
一也の家へ朝の7時に着くために、余裕を持って起きられるようにスマホの時間を設定してから寝ることにした。
富士山へ登ると言われて気持ちがまったく静まらず、ほとんど寝ることができないままスマホが鳴り始めた。
「もう時間かよ……」
寝た気がしないまま朝食を取り、用意をしてあったものを持って車へ向かう。
荷台に荷物を入れてから車に乗り込み、事故を起こさないように気を引き締めてハンドルを握る。
(よし! 行こう!)
車を発進させて、一也の家へ向かう。
早朝ということもあり、車が少なく少し早めに着くことができた。
車を近くの駐車場へ止める。
防具の装着などの準備を行い、時間に間に合うように一也の家へ歩いて向かったら、佐々木さんと花蓮ちゃんがすでに待っていた。
2人に挨拶を交わすと、佐々木さんが一也の家のインターホンのボタンを押す。
一也のお母さんが対応してくれているようで、佐々木さんと話をしていた。
しばらくすると、家の中から一也が両手に荷物を持って玄関を出ようとしている。
一也は荷物を持ちながら、家の中にいるお母さんへ声をかけていた。
「それじゃあ、行ってきます。帰る時には連絡をするから」
「いってらっしゃい」
一也がお母さんに見送られながら家を出てくる。
一也は私と花蓮ちゃんを見てから、佐々木さんへ苦情のようなものを言い出した。
「2人が来るのは聞いていないですけど」
「2人が来て問題でもあるのかい?」
「別にないですけど……」
一也はそう言いながら私と花蓮ちゃんの前に来たら、一也の雰囲気がいつもとは違うことに気付く。
一也から何を言われるのか身構えてしまう。
「今日は俺の言うことに背いたら容赦しないです。それを頭に入れておいてください」
一也はそう言い放つと、私たちの意見を聞くこともなく歩き始めた。
珍しく花蓮ちゃんが何も言わずに一也の言葉を聞いている。
一也の後に付いて歩きながら花蓮ちゃんに声をかけた。
「花蓮ちゃん、どうかしたの?」
花蓮ちゃんは私が声をかける前から少し落ち込んでいるように見えた。
思い詰めたような深刻な表情をしながら、花蓮ちゃんが私に小声で話をする。
「なんでもないです。気にしないでください……」
「……本当に?」
花蓮ちゃんがまったく大丈夫なように見えないので、余計に心配してしまう。
もう少し話をしようとした時、一也が人のいない公園へ入っていった。
慌てて追いかけたら、すぐに公園にある木の陰に来るように言われる。
「ここからワープホールを使って移動します」
一也はそう言い切り、すぐに私たちの足元に白い光が放ち始めた。
急に移動すると言われたため、少しは説明をしてほしいため一也へ声をかけようとする。
「ちょっと……」
私が言葉を出す前に、一也は私のことを強制的に移動させてきた。
白い光が私を包んだと思ったら、いきなり目の前には富士山がそびえ立っている。
一也もすでに移動してきており、なんの謝罪もなく地面へ荷物を置いて準備を始めた。
一也は荷物の中から、桜島の時に着けていた黒い防具を出す。
「防具を着けるので少し待っていてください」
一也は無言で防具を着け始めている。
普段、防具を着けない一也がこのように準備している姿を初めて見るので、これから起こることを予想してしまい緊張してくる。
(一也が防具!? この先はそんなに危険なのか!?)
花蓮ちゃんも不安そうに一也を見つめており、微動だにしない。
佐々木さんは一也を手伝おうとするために声をかけようとした時に、一也が低いトーンで話を始めた。
「戦うのは俺1人です。みなさんは俺が合図をするまでこの線から絶対に出ないでくださいね」
一也がこの線と言いながら、足で地面へ印をつける。
1人でドラゴンと戦わせるわけにはいかない。
「それは……」
「もし合図をする前にこの線を越えたら、思い切り殴ります。今日は俺の言うことが絶対です」
一也ににらまれて、私は自分の言葉を飲み込んだ。
花蓮ちゃんや佐々木さんも何も言えなくなっている。
一也が最後に赤い布を取り出しながら、私を見てきた。
「真央さん、これを前と同じように顔へ巻いてもらってもいいですか?」
「……いいよ」
私は布を受け取り、一也の顔に巻き始める。
作業を終えたら、桜島で戦った英雄が目の前で完成した。
「少しアップをしてきます。ここから動かないでくださいね」
一也は私たちのことを気にすることなく、樹海の方へ歩いて進んでいく。
私は一也の姿が見えなくなってから、佐々木さんに声をかける。
「佐々木さん、今日は黒騎士の撮影ですか?」
「……そうだ。富士山で戦う英雄を撮影させてもらう」
「理由は?」
佐々木さんは持っていた荷物からカメラを取り出しながら話を始めた。
「彼がバフォメットを倒してから、この樹海での負傷者が増え続けている」
「そうなんですね」
「ああ……この樹海を越えて富士山を目指す者が後を絶たない。だから、この先の資料が少しでも欲しいんだ」
私は富士山を見上げながら、その人たちの気持ちが分からないでもない。
(初めてここから富士山を見上げた時のことは今でも鮮明に覚えている)
映像ではなく、自分の目で確かめたいと思う気持ちが芽生えたのだろう。
そのことがわかるように、初めてここに来た花蓮ちゃんが富士山を見たまま固まっている。
佐々木さんも花蓮ちゃんが富士山を見つめているのに気が付いたようだ。
その様子を見ながら、佐々木さんが悲しそうな目をしている。
「谷屋さん」
「は、はい!」
「自分の力でここに来たことがあるのは彼だけだ」
「……次は私がここへ自力で来ます」
そんな話をしていたら、一也が森から戻ってくる。
私たちのことを気にする様子もなく、一也は一言つぶやいてから富士山を目指して走り始めた。
「怖くなったら帰ってください」
一也が数歩進んだ瞬間、富士山のいたるところからドラゴンが現れ始める。
目の前の光景は恐怖でしかなく、1体でも苦戦していたグリーンドラゴンが両手で数えられないほど羽ばたいてきていた。
その他にも見たことのないドラゴンが同じように現れている。
一也はそんなドラゴンの群れに臆することなく、走る速度を緩めなかった。
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