富士山攻略編④~ギルド長との会談~

 3人で昼食を食べてからギルドに着く。


 晴美さんがギルド長を連れてきてくれると言いながら、俺を部屋へ案内してくれた。

 なぜか今回はいつもとは違う部屋に入って、晴美さんが俺へ中に入るように言っていた。


(いつもギルド長と話をする時はギルド長の部屋だったのに今日はここなんだ……)


 晴美さんは同席をしないようで、俺が座るのを見届けると部屋を出ていってしまった。

 真央さんもここにはいないため、ギルド長は俺と2人で話をしたいらしい。


 しばらく待っていたら、ギルド長が神妙な顔で部屋へ入ってくる。

 ギルド長は部屋へ入る時にも、部屋の外に誰もいないことを確認するように見てから扉を閉めた。

 少し顔を強張らせたギルド長が部屋に入りながら俺へ話しかける。


「今日は急にすまないな」

「いいですよ。俺も話があったので」

「そうか……まずはこちらからの話からでもいいか?」

「構いませんよ」


 ギルド長が椅子に座り、テーブルへ肘をつきながら俺の目を覗く。

 俺にギルド長の鋭い眼光が俺へ向けられる。


「佐藤、第2地区の中学校の件で何か知っていることはないか?」

「ニュース以外のことは特に」


 事前に調べていたので、第2中学校の崩壊について俺は無関係となっているはず。

 平然と言っている俺を見て、ギルド長は息を軽くはいてから口を動かす。


「第1地区の校長さんとは、何度もお前のことで話をしている」

「そうなんですか」


 話を聞いていたら、なんとか俺のことを中学校で指導する道を探るために、校長がギルド長へ俺のことを相談していたようだ。

 俺が無関心で聞いていたら、ギルド長が腕を組んで目をつぶる。

 

「昨日、もう冒険者については中学校で教えるのは職員の技術的に無理と言われていた」

「自分で強くなるので、俺にかまわなくてもいいですよ」

「続きを聞け」

「…………」


 俺は口を閉じて、ギルド長は髭を触りながらゆっくりと話をする。


「話の中で、笑顔で戦車に挑むお前を見て戦慄を覚えたと言葉をこぼしていたんだ」

「…………」

「佐藤……もう一度聞く。第2地区の中学校でお前は何をしたんだ」


 校長がギルド長へ俺のことを漏らしてしまっていたようだった。

 俺は苛立ちを感じながら、ギルド長が望んでいることを口にする。


「すべてですよ」

「すべて?」

「ええ、第2地区で起こったことはすべて俺がやりました」

「説明をしてもらってもいいか……」


 ギルド長はかすれるような声を何とか出して、俺へ詳しく話すように催促をしてきた。

 もう校長が口を滑らせてしまっていたので、俺が隠す必要が無くなった。

 あの日に起こったことをすべて俺の口からギルド長へ伝える。


 話を聞き終わったギルド長が頭を抱えてしまった。

 俺はギルド長の話が終わったと思い、自分の聞きたいことをギルド長へ聞く。


「ギルド長、俺からも聞きたいことがあるんですがいいですか?」

「ああ……言ってみろ……」


 頭を抱えたまま俺を見ずにギルド長が答える。

 自分の中の憤りをギルド長が少しでも緩和してくれることを祈りつつ質問をした。


「冒険者とはどういう存在ですか?」

「どういうことだ?」

「冒険者を目指しているはずの中学生や、大会の時に相手をした連中は俺に対して戦いもせずに降伏しました」

「ぬう……」

「さっきも騎士大学校の人と会いましたが……助けてくれた相手に礼の1つも言えないという、俺の考える冒険者とは程遠い存在です」


 静岡の冒険者を束ねているギルド長なら俺の質問を答えてくれると信じていた。

 しかし、ギルド長は困るような顔を俺へ向ける。


「佐藤、お前の考える冒険者とはどんな存在なんだ?」

「自らの命をかけてモンスターと戦う人の総称で、お互いに尊重し合う関係です」

「……お前もそうなのか?」

「いいえ。僕は少し違います」

「では、お前は何をするんだ?」


 ギルド長は困惑しながら俺へ聞いてきていた。

 俺は自分の心に刻んでいる理想をギルド長へ語る。


「俺は自分よりも強い相手と戦うためにモンスターと戦い続けています」

「…………」


 ギルド長が目を見開いて俺の目を見返してくる。

 何を言われても俺は自分の道を切り開くために強くならなければならない。

 その意思を言葉として、なんとかギルド長に伝わってほしい。


「俺よりも強いモンスターに挑んで、死んだとしても俺に後悔などありません」

「どうしてだ?」

「俺が死ぬときは、全力で戦っているからです」


 俺の話を聞いた後、ギルド長は椅子にもたれて天井を見上げるように見ている。

 再び俺へ向けられたギルド長の目には哀感が込められているように感じられた。


「お前は……戦い続けるのか?」

「そうです」

「それは修羅の生き方だな……」

「だめなんですか?」


 ギルド長は机へ視線を下げて、考えるように目を閉じてしまう。

 今まで見てしまった戦う前に降参してきた人たちを見て、感じてしまったことを口に出した。


「戦う前に逃げていたら死んでいることと同じですよ」

「……お前の言いたいことはよくわかった」


 顔を上げたギルド長がそう言って、胸を押さえ始める。

 手で胸を押さえたままギルド長がつぶやくように話す。


「桜島を救った英雄を呼びたい。と、いたるところから連絡がきている」

「興味ないのでいいです」

「その中には、モンスターがあふれてくる前になんとかしてくれないかと相談もあるんだ」

「そんなのは自分たちでなんとかさせてください」


 俺はゲームで倒せないモンスターがいるから俺に倒してほしいなどと喚いていた集団を思い出す。


(自分で倒せないと思うのなら、強くなるまで頑張ればいい)


 人に頼む前に自分でやってほしい気持ちが強いため、ギルド長へ突き放つように言葉を続けた。


「桜島には絵蓮さんがいて、真央さんたちに頼まれたから行きました。他の大多数を助けるために戦うなんて思うほど俺は優しくないですよ」

「死ぬまで戦うんじゃなかったのか?」

「雑魚を相手に戦っても楽しくないので」

「お前にとってワイバーンが雑魚か……」


 ギルド長がそれを言った後、しばらく黙ってしまった。

 話が終わったと思い、俺は席を立つ。


「話は終わりですよね?」

「ああ……他に確認したいことはない……」


 俺はワープホールで帰るので、真央さんと晴美さんへの伝言をギルド長にお願いした。

 ギルド長がうなずいてくれたので、ついでに富士山登頂についても連絡をしておく。


「そうだ! 後、明日は富士山へ登頂する予定です」

「数え切れないほどのドラゴンがたくさんいるのだろう!? 行くのか!?」

「俺は戦いたいんですよ」


 ギルド長が何かを言おうとしている時に、俺は聞く気が無いのでワープホールを使った。

 帰宅偽装用で近所の公園にある死角の場所を登録しており、ワープしてから周りを見ても誰もいない。


 いつものように家に帰り、母親から真央さんとどこへ行っていたのか聞かれた。

 第2中学校を見に行ったとだけ伝えて部屋に戻り、明日に向けての準備を行う。


 夜、寝る前に荷物の最終確認をしていた時、スマホが震える。

 画面を見たら佐々木さんからだったので、なにかと思いすぐに電話に出た。


「こんばんは、佐々木さん」

「ああ、こんばんは……」


 佐々木さんは声に詰まり、何かを言いたそうにしている。

 ギルド長から富士山の聞いていると思い、佐々木さんへ先に話をした。


「富士山のことですか?」

「……そうだ。本気か?」

「当然です。そのためにキャンプも行ったので」

「わかった」


 佐々木さんは俺が富士山へ登頂するのを知っており、その件で連絡をしてきたようだった。

 息を飲み込む喉の音が聞こえた後、佐々木さんが覚悟を決めたように話を始める。


「連れていってもらってもいいだろうか?」

「俺の言うことを厳守するならいいですよ」

「本当か!?」

「ええ、明日の7時にうちに来てください」

「ありがとう!」


 佐々木さんがおやすみと言いながら電話を切った。

 スマホをベッドへ投げ捨てて、確認の続きを行う。


 寝る前にスマホを見たら、佐々木さんからメッセージが来ていた。


【明日はできればこの前の桜島で戦った格好をしてくれると記録をとりやすいんだが可能か?】


 佐々木さんは富士山で戦う様子を記録として残したいのが目的のようだ。

 俺は防具を着けるのが嫌だったが、俺の後に挑戦する人のことを考えて記録は残してあげたい。

 渋々佐々木さんの希望を了承するメッセージを送った。


(楽しい1日になるといいな……)


 俺はそう願い、いつもよりも良い気分で寝ることができた。



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 佐々木が佐藤との会話を終えて、一息ついている。

 俺はウィスキーの入っているグラスをカウンターへ置く。


「どうだった?」

「なんとか行けそうです」

「そうか……」


 佐々木は安堵して、カクテルを手にする。

 俺は昼間に佐藤と話していて感じてしまった胸の高鳴りを抑えることがまだできていない。


(俺が少しでも若ければあいつと一緒にモンスターと戦いたい)


 佐藤の胸に抱える純粋な闘争心に心を打たれ、あれから仕事が手に付かなくなってしまった。


 富士山の件を直接伝えるため、佐々木を馴染みのバーへ誘った。

 何度も佐藤の言っていたある言葉が自分の中を駆け巡る。


『戦う前に逃げていたら死んでいることと同じ』


 今、ほとんどの冒険者が逃げるという選択の前に、モンスターと戦おうともしない。

 俺が現役で冒険者として活動していた時には、まだ戦いの中で死ぬことを恐れない人はいた。


(今は情報ばかりを気にして、少しでも危険なら何もしない冒険者が多すぎる……)


 横に座る佐々木が、太田や谷屋へ連絡をしている。

 こいつは1度武器を置いたものの、合宿中に佐藤の熱量にあてられて再び武器を手にした。


(佐藤と同じ時を駆け抜けられる佐々木が羨ましい)


 佐々木が連絡を終えて、俺へ顔を向ける。

 俺は明日の無事を祈り、グラスを掲げた。


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