富士山攻略編③~第2中学校崩壊現場~

 俺たちが第2中学校の校門前へ近づくと、集団から出てきた金髪の男性が声をかけてきた。


「もしかして、太田か?」


 金髪の男性が真央さんへ近づいている。

 真央さんはその男性と少し言葉を交わした後、俺へ紹介してくれた。


「この人は騎乗部の先輩で、今は騎士大学校へ通っている人だよ」


 清水さんはその人のことを知っているのか、いつものギルドで見せるような笑顔で話を始める。

 俺は【騎士大学校】と【金髪】というキーワードを聞いて、何かが思い出せないので首をかしげてしまう。


 俺が頭を悩ましていたら、集団の中から数人の男女が俺の前へ走ってきた。

 その様子を金髪の男性や真央さんや清水さんが見てくる。

 見られているのを気にせず、その人たちは俺へ興奮しながら話しかけてきた。


「もしかして、この前のU-16の競技大会で優勝した佐藤一也さんですか!?」

「そうですけど……」


 その人たちが騒いでしまい、校門の前にいた大勢の人がこちらを見てくる。


(この流れはまずい!)


 俺はこの場から逃げる準備をしたが間に合わずに、笑顔で手を差し出された。


「握手をしてもらってもいいですか!? もしよければ、写真も撮ってくれると嬉しいです!」

「全然……大丈夫……ですよ……」


 佐々木さんから、【お前は県の代表なんだから絶対にこういうひとを邪険に扱うな】と言われていた。

 そのため、俺は全力で笑顔を作って、その人たちの対応を始める。


 俺が写真や握手の対応をしていたら、真央さんの近くにいた金髪の男性が大きな声で言葉を放ってきた。


「あーあ、やだね。こんな時に調子に乗ってるやつがここにいると!!」


 その声を聞いて、俺の周りにいた人はばつが悪そうに俺から離れ始める。

 俺は意味が分からないので、金髪の男性へ近づいて質問をすることにした。

 俺が近づくと、なぜか金髪の男性がにらんでくる。


「それってどういう意味ですか?」

「おい、一也。やめろって」


 真央さんが手で俺を金髪の男性から放そうとしてきた。

 すると、俺よりも身長の高い金髪の男性が近づいてきて俺を見下してきた。


「なんだよ。騎士大学校で金獅子の異名を持つ俺とやろうっていうのか?」

「面白いですね。あなた以外に金髪の人がいないだけでしょう」


 この人をそんな名前で呼ぶ人のことがおかしくなって、笑ってしまった。

 俺の態度に怒ってしまったのか、金髪の男性は俺の胸につかみかかってくる。


「こいつ!!」 

「先輩やめた方がいいですよ!」

「太田! 止めるんじゃねえ!」


 真央さんが金髪の男性に振り払われて地面へ倒れてしまった。

 俺はつかまれた腕を思いきり握り、手を離させる。


「ってえ!」


 金髪の男性から離れて、真央さんが怪我をしていないのか確認する。

 真央さんは俺が手を貸す前に自分で立ち上がり、俺へ大丈夫と声をかけてきた。

 俺は真央さんから目を離して、金髪の男性を殴りかかる。


(ぶん殴ってやる!!)


 金髪の男性の顔を全力で殴ろうとしたら、後ろから羽交い絞めにされた。


「一也、殴っちゃだめだ」

「こいつを殴らせてください! こんなにひどいことをするやつを守らなくてもいいじゃないですか!」

「お前がやりすぎるって思うから止めているんだよ!」


 真央さんは後ろから全力で俺を止めてきていた。

 金髪の男性は俺につかまれた腕をさすりながら、怯えるように俺を見る。


「お、俺になにかあったら、谷屋絵蓮さんが黙ってないぞ!」

「どういうことですか?」

「あの人は俺のことを命を張って守ってくれるんだ!」


 その言葉を聞いた真央さんから力が抜けたので、俺は金髪の男性に近づく。

 男性は素早くスマホを取り出して、俺を見る。


「すぐに呼ぶぞ!! 谷屋さんは全国大会で上位入賞するほど強いんだ!」


 スマホの画面をタップする直前でその男性が止まる。

 俺はその男性を見ながら、別のことを考え始めていた。


(絵蓮さん、騎士大学校、金髪……)


 最近、その単語を聞いて何か非常に憤りを覚えた記憶がある。

 どこで聞いた言葉なのか考えていたら、桜色のシャツを着た人を見て思い出す。


「あ、こいつか!!」


 急に声を出したので、周りにいた人が俺へ視線を集中させていた。

 真央さんも俺を見ていたので、金髪の男性を殺したい気持ちを抑えて説明をする。


「真央さん、絵蓮さんが死にかけた原因はこの人ですよ」

「どういうことだ?」


 真央さんがすぐに金髪の男性をにらみ始めた。

 俺はつっかかりが取れてすっきりしたので、金髪の男性を見ながらすべてを話す。


「この前の桜島の時にこいつは帰還石を忘れて、絵蓮さんの石を奪ったんですよ」

「う、奪ったんじゃない! 谷屋さんから譲られたんだ!!」

「ほら、本人も忘れたって言っているじゃないですか」


 金髪の男性は周囲にいた人からも軽蔑するような目で見られて、動揺していた。

 自分から忘れたことを白状したので、俺は容赦なく金髪の男性へ畳み掛けるように言葉をかける。


「絵蓮さんへお礼は言ったんですか? 言っていないなら、そのスマホをタップして電話してくださいよ」

「え、あ……」

「俺ならこんなところで油を売る前にすぐに行きますけど、あなたは今何をしているんですか?」

「う、うるさい! 谷屋さんにも用事があるかもしれないだろ!」

「だから、電話して聞いてほしいと言っているんですけど、話は通じていますか?」


 金髪の男性がもごもごと口を動かし始めて話にならない。

 その男性を見ていたら、騎士大学校でなにを学んでいたのかと思ってしまう。


 周りからの視線に耐えられなくなったのか、金髪の男性が逃げるように立ち去ろうとしていた。

 俺はその男性の背中に向かって、聞こえるように声を張る。


「これ以上被害を出さないために、金獅子さんは冒険者になるのをやめた方がいいですよ!!」


 俺は言いたいことを言ってすっきりしたので、改めて校門へ顔を向けようとする。

 真央さんはまだ金髪の男性の背中をにらみつけていた。


 前に来たときには気にならなかったが、この学校は敷地内を囲うように高い壁がそびえ立っている。

 そして、校門から中がみえないように木々が生えているため、ここからでは中の様子は見えない。


 見えないことを相談するために真央さんを見たら、気持ちが収まっていないのか真央さんはにらんだまま動いていなかった。

 いい加減気持ちを切り替えてほしいので、軽く真央さんの脇腹を指で突く。


「あんだよ!?」

「もういない人のことなんて忘れて、ここに来た目的を思い出しませんか?」

「あいつのせいで先輩が死にかけたんだぜ。絶対にゆるせない……」


 ため息をつきながら周りを見たら、晴美さんがいないことに気が付いた。

 周囲を見回しても姿が見えない。


(晴美さんはどこへいっちゃったんだろう……)


 真央さんをなだめながら晴美さんを探していたら、校門にいる人だかりの中から出てくるのが見えた。

 人だかりにもまれたのか、少し服と髪が乱れている。


「規制されていてこの中には入れないみたいだよ」

「なら、昼飯を食べてギルドへ向かおうか」


 真央さんが晴美さんの言葉を聞いて、校門を一目見てから車へ戻り始める。

 俺と晴美さんも真央さんの後を追うように車に戻った。


 車へ戻る時に、晴美さんは金髪の男性を怒っていないのか聞いたら、強い口調で俺に言葉を向けてくる。


「帰還石を忘れるとか信じられない! 一也くんの言う通り、あのままならいつかあの人のせいで誰か死んじゃうよ」


 晴美さんは不機嫌そうに顔をゆがませていた。

 俺はその顔を見て、これからは絶対に晴美さんを怒らせないようにしようと心に決める。


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