富士山攻略編②~清水晴美の願い~

 俺は観念して、夏美さんと海底洞窟でやったことの説明を始めた。


 話をしている途中から、清水さんの顔から血の気が引き、真央さんが声を失っていた。

 2人が俺の聞いているのか表情を見てもわからないが、話を止めずに口を動かし続ける。


「夏美さんに偽物の石を握らせてからワープホールを使って帰還を行い、石を回収するのを忘れたまま別れました」


 以上ですと言って話を終わらせたら、2人が同時にため息をつかれた。

 何を言われるのだろうと2人の反応をうかがっていたら、清水さんが改めて石を渡してくる。


「これ、佐藤くんに返しておくね」

「偽物なのにいいんですか?」


 こんなものを用意して清水さんに怒られると思っていたので、清水さんの表情を見ながら石を受け取った。

 清水さんは複雑そうな顔で後部座席に座る俺を見ている。

 赤信号で車が止まり、真央さんが清水さんを心配するような声をかけた。


「はるちゃん、どうしたんだ? 一也を叱るんじゃなかったのか?」

「うん……でも……」


 信号が青になったので、真央さんが慌てて車を発進させる。

 清水さんは俺の方へ顔を向けているが、視線が定まっていない。


 俺はこんな表情をしている女性へなんと声をかけるべきなのかわからず、清水さんの顔を見たまま固まってしまう。

 すると、清水さんが決意をしたように俺へ目を向ける。


「一也くん、なっちゃんのことをお願いしてもいいかな?」

「はるちゃん本気か!? こいつに任せたら夏美ちゃんがどうなるかわからないぞ!」

「わかってるよ。だけど……」


 清水さんが夏美さんを俺に任せたいと言ってから、清水さんを必死に止めようとしていた。

 しかし、清水さんの意思は固いようで、真央さんが何を言っても意見を変えようとしない。

 俺が2人のやり取りを聞いていると、清水さんがうつむきながら口を開く。


「私も本当はなっちゃんに危ないことをさせたくないの。でも、1人で弓を引き続ける寂しい思いはもっとさせたくないよ!」

「はるちゃん……」

「なっちゃんね、一也くんが弓道部に入ってくれてすごく喜んでいたの。私には一緒に弓を使ってくれる人はいなかったから……」


 清水さんが思い出すように中学や支援学校での話を始める。

 清水さんも中学校時代は弓道部に所属しており、自分以外の部員がいなかったらしい。

 支援学校では弓を使って冒険者になるのは無理だと感じたという。


「だから、なっちゃんが自ら望んで一也くんとダンジョンへ行くのなら私は止めないよ」


 真央さんはこれ以上何も言うことなく、運転を続けていた。

 清水さんがまっすぐに俺の瞳を見てくる。


「一也くん、なっちゃんが強くなるのに協力してもらってもいいかな?」

「任せてください。弓での戦い方を徹底的に教え込みます!」

「ありがとう。じゃあ、これから叱らせてもらうね」

「え……」


 この後、清水さんから帰還石の偽造やワープホールの多用、冒険者についての間違った知識などを夏美さんに伝えたことを注意された。


 偽帰還石については、清水さんの方から上手く夏美さんへ説明してくれているらしい。

 最後にと言いながら、清水さんがさらに話を続ける。


「なっちゃんとも友達になってくれたから、一也くんも私のことは名前で呼んでね」

「わかりました」


 言いたいことが言えて満足しているのか、清水さんは助手席へ座り直して真央さんと雑談を始めた。

 

(そういえば、この車はどこへむかっているんだ?)


 行先も知らず車に乗っていたため、今はどこへ向かっているのか気になる。

 俺を連れ出した理由もついでに聞こうと思い、晴美さんへ声をかけた。


「晴美さん。この車はどこへ向かっているんですか?」

「ギルドへ向かう予定だよ。ギルド長が学校に通っていない一也くんを連れてきてほしいって言っていたから、真央ちゃんに車を頼んだの」

「ギルド長が?」

「そう。話をしたいことがあるみたい」


 俺は特に目立っていないと思いながら、ギルド長へ呼び出された理由を考え始める。


(まさか、この前のことが漏れたのか?)


 口外したら重い罰があるのに、この前の交流戦について漏らしたやつがいるようだ。


 窓の外を見たら、車がギルドとは違うところへ向かっているように思えた。

 家からギルドまでの最短コースは何度も走っていて知っているため、この道がギルドへ向かっていないことがわかる。


「今はギルドへ向かっていないですよね?」

「お前が早く見つかったから、少し寄り道をしてから行くんだよ」

「寄り道ですか?」

「ああ……」


 真央さんは言葉を濁し、何も言わないまま運転を続けている。

 晴美さんがそんな真央さんを見て、深刻そうな顔をしていた。


「私たちの母校が無くなっちゃったみたいなの……」

「母校ですか?」

「一昨日くらいのニュースで、母校が完全に崩れてなくなったっていうニュースが放送されてね。一也くんが見つからなかったら、一度見に行こうってまおちゃんと話をしていたんだ」

「……もしかして、第2中学校ですか?」

「一也くんもニュースを見たの?」


 俺は晴美さんの言葉にうなずきながら、ニュースになるほどの事件になったことに頭を抱える。


(2人は第2地区の出身なんだ……これはやばいな……)


 海底洞窟にこもりっきりでテレビさえも見ていないため、2人の話に合わせるために情報収集を始めた。


 スマホを取り出して、【静岡 第2中学校】と検索を始める。

 スマホの画面にはすぐに【戦車の暴走で校舎崩壊か!?】と見出しのニュースページが表示された。


(戦車の暴走? 確かに戦車で破壊したけど、どうなっているんだろう?)


 ニュースページを見たら、休日に行われた第2中学校の演習中に戦車が暴走してしまい、校舎が破壊されたと書かれている。

 その暴走を止めようとした教員が全身に怪我を負い、数百人の生徒が巻き込まれて骨を折るなどの被害を受けたらしい。


(こういうことになったのか……よし、俺のことは載っていない)


 第2中学校崩壊についての文章の中に、俺についてのことが一文も書かれていない。

 安心した様子をバックミラーごしに真央さんに見られてしまった。


「一也、なにを笑っているんだよ」

「笑っていませんよ。それより、後どれくらいで着きますか?」

「もう見えてるけど、お前は関係ないから車に残っていたもいいぜ?」

「俺も気になっていたので見に行きます」


 俺は身を乗り出して前を見たら、平日だというのに第2中学校の前には多くの人がいる。

 真央さんが近くの駐車場に車を止めて、俺たち3人は校舎の方へ向かい始めた。


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