拳士中学校編⑨~清水夏美の杞憂~

 午後もひたすらヒトデに向かって矢を放ち、感じたことのないくらいの疲労が溜っている。

 一也くんはまだやることがあるからと言っていたので、一也くんの持っていた弓を渡されてから私は先に帰還石で帰ってきた。


 2張の弓の手入れが終わり、弓道場の汚れが気になったので掃除を始める。

 祖母の教えと自分の性格もあり、少しの汚れでも気になってしまう。


(ほこりがたくさんついてる……)


 一也くんが持ってきたリュックとバッグがだいぶ汚れていたため、綺麗にしたい欲求が生まれてくる。


(でも、人のだからな……)


 ほこりを払うだけにしようかと荷物へ手を伸ばそうとした時、急に目の前が暗くなった。


「え!?」

「あ、ごめん」


 思わず後ずさると、そこには服がボロボロになった一也くんがいる。

 その服をよく見たら血のようなものが付いていた。


「血が付いているけど大丈夫?」

「平気。着替えるために奥を使ってもいいかな?」

「うん……」


 一也くんはリュックから服を取り出して、平然と部室へ向かっていく。

 背中にも血が付いており、服のいたるところが血のようなもので赤く染まっていた。


(やることってなんだったんだろう……)


 私がここへ帰った後のあの洞窟で一也くんが何をしていたのか非常に気になる。

 部室へ向かう一也くんの背中を見送りながら、彼について考え始めた。


(学校で彼の噂を聞かない日はない)


 入学当初から彼について色々なうわさが飛び交い、この前の大会で優勝してからはさらに拍車がかかったように話が行われている。

 しかし、入学当初の競技大会でほとんどの生徒が負傷させられ、受けたくない授業は受けないなどのことがあり、誰も彼へ話しかけられないそうだ。


(変なことを聞いた生徒が病院送りにされたって誰かが言っていたけど、そんな人には見えない)


 弓道場にいる彼はすごくまじめに弓を引いてくれている。

 教えたこともしっかりやろうとしてくれているし、部室で話していても普通の男子だと思っていた。


 ただ、今日行った洞窟での練習を毎日のようにしていると彼から聞いて、普通じゃないことを実感した。

 彼は、今日は私がいるから放つ矢が半分になったと言っていたため、部活以外で放っている矢の本数が尋常ではない。

 普段弓を引きなれている私でも、今日の量はきつくかんじた。


(それを始めて間もない彼がやり続けているからあんなに上達が早いのかな……)


 彼は弓を始めて2週間ほどしか経っていないのに、矢を放つことだけはすごく上手になっている。

 弓道的にはそのほかの動作がまだまだできていないのに、矢を的に当てるのだけは毎日異常な早さで成長していた。


 それを毎日のように見せられて、興味本位でどんな練習をしているのか聞いたら、今日のような訓練に連れていってくれた。


(疲れたけど良い経験になった)


 ヒトデへ矢を放っていたら、徐々に自分の感覚が研ぎ澄まされていた。

 目では見えないようなところにいるヒトデの位置がわかり、自分でもなにが起こっているのかわからなかった。


 それを彼へ相談したら、スキルで気配がわかるようになったんだよと言われて、昼休みに彼の持っていたスキルシートで【気配察知】というスキルを自分が習得していることを知る。

 真さんからも聞いたことが無いスキルだったため、自分のスキルシートを思わず見つめてしまった。

 そのスキルシートは自分の鞄へ大切に保管してある。


 部室から一也くんが着替えを終えて戻ってきたので、一緒に弓道場を後にした。

 私が弓道場の鍵をかけている時に、一也くんが話しかけてくる。


「夏美さん、今日はこれから予定ある?」

「あるけど、なにかあった?」


 私はこれからお姉ちゃんと食事の約束をしているため、これから第2地区へ向かわなくてはならない。

 一也くんを見たら、少し残念そうな顔をしていた。

 どうかしたのかと聞こうとしたら、一也くんが口を開く。


「これからよく行く武器屋さんへ行こうと思ったんだけど、今度一緒に行かない?」

「武器屋さん? 弓を売っているの?」


 私は学校を出るために歩き始めて、一也くんは楽しそうに武器屋さんの話をしてくれる。

 なんでも、彼の使っている弓や矢はすべてその武器屋さんで用意してもらったようだった。


 私も彼の言っている武器屋さんへは行ったことがあるが、弓を見たことが無い。

 少なくとも弓は職人のような人が作っているだけなので、普通の武器屋さんでは置いていない。

 それを伝えたら、一也くんは考えるように腕を組みながら唸り始める。


 一也くんが黙ってしまったまま校門へ着いてしまう。

 私は駅へ向かうため、武器屋へ行くと言っていた彼とはここで別れる。


「それじゃあ、またね」

「気を付けて行ってらっしゃい」


 彼は私へ手を振ってから歩き始める。

 私はスマホを取り出して、今から第2地区へ向かうことを姉へ連絡する。


 メッセージを送り終わり、駅へ向かって足を進めた。

 電車に乗っている時に、姉から【もう駅にいるから】と返信がくる。

 

(お姉ちゃん、相変わらず早いな)


 私はスマホを見ながら少し笑ってしまい、駅までの残り時間をスマホで伝えた。

 

 駅へ着いてからお姉ちゃんと合流したら、満面の笑顔で迎えられる。


スキルシート


体力回復力向上Lv4

弓熟練度Lv9

気配察知Lv2

鷹の目Lv7


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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