拳士中学校編⑩~晴美お姉ちゃんからの忠告・清水夏美視点~
「なっちゃん久しぶりだね」
「お姉ちゃんこそ、体調は大丈夫?」
「うん。心配してくれてありがとう」
少し話をした後に、お姉ちゃんが予約をしてあるというお店へタクシーで向かう。
お店へ着いたら少し高そうな焼肉屋さんで、テレビが付いている個室へ通された。
私はお店へ入ってから落ち着かず、お姉ちゃんが笑顔で私の不安を取ろうとしてくれる。
「ここはお店の見かけの割には安いから、いくら食べても大丈夫だよ」
「そうなの? 高そうだけど……」
「上司から美味しくて安い穴場だっていうことを教えてもらって、一回来てみたかったんだ」
店員さんが来るとお姉ちゃんが適当に注文を始めて、私もメニュー表を見ながら食べたいものを選ぶ。
お姉ちゃんの言うとおり、メニュー表に書かれている料金は考えていたものよりも高くはない。
しかし、私からすれば1皿1000円を超えると安いと言えない。
「なっちゃんは他に食べたいものある?」
「とりあえず、お姉ちゃんの頼んだものを食べてから決めるよ」
お姉ちゃんが私に聞いてきてくれたが、料金を見て驚いていた私は何も頼めなかった。
最初に飲み物が届いたので、急にご飯へ行こうと誘ってくれたお姉ちゃんに理由を聞いてみる。
「お姉ちゃん、今日はどうしたの?」
お姉ちゃんは手に持っていた飲み物をテーブルに置いて、不安そうに私を見た。
「なっちゃん、佐藤くんと上手くやってる?」
「普通に良い人だよ?」
姉は深刻そうに一也くんのことを聞いてきていた。
私はこの数週間の間に感じたことをお姉ちゃんへ説明して、彼が噂とは違うことを説明する。
学校で特に噂されていた競技大会の時、私は風邪を引いて欠席していたため、本当に彼がそんなことをしたのか疑問を覚えていたほどだった。
私の話をお姉ちゃんが複雑そうな顔をしながら聞いているので、今度は私から質問をする。
「そんなに一也くんのことが気になるの?」
「真さんから色々聞いてね……」
お姉ちゃんは真さんから一也くんが弓道部に入ったことを聞いており、学校でなにか起こらないか気に病んでいるようだった。
お姉ちゃんが暗い顔をするので、私は今日一也くんが連れていってくれた特訓場についての話題に変えることにした。
「そういえば、冒険者ってすごいんだね」
「急にどうしたの?」
「これを使って、色々な場所へ行き来できるんでしょ?」
私は一也くんへ返し忘れた帰還石をテーブルに置いて姉に見せる。
それを見た姉の表情が強張り、顔に汗をかきながら帰還石を手に取った。
「なっちゃん、これどうしたの?」
「一也くんが貸してくれたよ。この石を1度握ると見たことが無い洞窟の前まで移動して、洞窟内で握ったら弓道場に戻ってこれるんだ」
「…………そうね」
なぜか、私の話を聞き終えたお姉ちゃんは頭をかかえてしまった。
(急にどうしたんだろう? 体調が悪いのかな?)
姉の体調が気になってしまい、お肉が運ばれてきても食べる気が起こらない。
そんな私の様子を見て、お姉ちゃんは私に向けて無理やり笑顔を作っている。
「お肉……食べようか」
「うん……」
姉がごまかすようにお肉を網に置いて焼き始めるので、私はテレビの電源ボタンを押す。
テレビではニュースが流れており、言葉が少なくなった私たちの良いBGMになってくれた。
お肉を焼きながら、お姉ちゃんがテレビを見つめているのに気が付く。
私もテレビを見たら、静岡県ギルドから生中継とテロップが出ている。
「お姉ちゃんこれ……」
「うん。今日は特別な発表があるの」
お姉ちゃんは焼かれているお肉に視線を戻し、お肉の状態を確認していた。
私は横目で姉を見て、再びテレビを注視する。
テレビでは前に見たことのある白い髭をたくわえた歳のとった男性と、スーツを着た若い人が座っていた。
お姉ちゃんにこの人たちがだれか聞いたら、白い髭の人がギルド長で、若い人は県庁の人だと教えてもらった。
一礼をした後に県庁の人が話を始める。
「今日は伊豆高原フィールドについての報告をさせていただきます」
県庁の人は隣に置いてあった大きな画面の横へ移動をした。
画面に赤い熊の画像が映し出されると、テレビの中からざわめきが聞こえて、カメラのフラッシュが光る。
「ねえ、お姉ちゃんこの赤い熊はなんなの?」
「グリズリーだと思うけど……私が知っているのはこの色じゃないんだよね……」
赤い熊の画像を見ながら、県庁の人がこのモンスターの名前が【レッドベア】ということを発表した。
レッドベアは伊豆高原フィールドで一定量のモンスターを討伐してから、奥の森へ入ろうとすると出現するらしい。
県庁の人はいくつかのPTでレッドベアの出現条件を検証したことも補足していた。
これにより、伊豆高原フィールドの入場規制がRank2相当から、Rank3に上げると言っている。
私は今の【Rank】についてよくわからないため、お姉ちゃんに聞いてみた。
「お姉ちゃんRankって学校で強さの指標って言っていたけど、Rank3ってどれくらいなの?」
「Rank3だと、県内でも特に強い人がもらうRankかな」
「今まではRank2相当って言っていたけど」
「それは、専門の高校を卒業するか、区内でも強いって評価をもらった人のことだよ」
「ふーん……」
次に県庁の人が画面へ映したものを見て、私は思わずつぶやいてしまった。
「あれ? 今日私ここに行ったよ……」
「嘘!? 行った場所ってこの洞窟なの!?」
「そうだけど……」
「詳しく聞かせて!」
「う、うん……」
見たことが無いお姉ちゃんの真剣な表情を見て、私は正直に今日この洞窟で行なったことを伝える。
洞窟に入ってからしばらく歩くとヒトデのようなモンスターが飛んできて、それを矢を放って倒したこと。
一也くんは私を帰した後、血まみれになって帰ってきたこと。
私の話を聞いてから、お姉ちゃんはテーブルに置いてあった帰還石を持つ。
「なっちゃん、よく聞いて」
「うん……」
私を見つめるお姉ちゃんの目は鋭く、私はうなずくことしかできなかった。
「これは私から一也くんに返すね」
「……ありがとう」
「あと、今日のことは誰にも言わないって約束してくれるかな?」
「…………うん」
私はゆっくりと顔を縦に振る。
それを見たお姉ちゃんは帰還石を持っていたバッグへしまっていた。
テレビでは伊豆高原フィールドの森へ入った奥地にある【新発見されたダンジョン】の話がされている。
網に乗っていたお肉は真っ黒に焦げてしまった。
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