拳士中学校編⑧~秘密の特訓~
結局、夏美さんへ俺の特訓についてうまく説明ができなかったため、実際に体験してもらうことにした。
今日は休日のため1日弓の練習を行える。
母親へは前日に1日部活があるから出かけると伝えたら、お弁当を押し付けられた。
ボストンバッグを両手に持ち、背中には弓やお弁当を入れたリュックを背負う。
荷物を持って玄関へ向かったら、両親に笑顔で送り出されたため、理解できない感情が自分の中に宿る。
その気持ちを感じた時から、なぜか学校へ向かう足が軽くなり、いつもと同じ道を通っているはずなのに楽しい。
弓道場の前で待っていると、弓の入った袋を持った夏美さんがやってくるのが見える。
夏美さんにはモンスターを相手に矢を放つとは伝えていたため、動きやすそうな服装をしていた。
軽く挨拶を交わしてから、夏美さんに準備を行うために弓道場の鍵を開けてもらう。
弓道場へ入ると、邪魔をされないように鍵を閉める。
鍵が閉まる音が聞こえると、夏美さんの顔が険しくなった。
「ごめん、夏美さん以外に知られたくないから、誰も来ないように鍵を閉めるよ」
「……わかった」
夏美さんは不本意そうに俺を気にしながら射場へ向かう。
不審がられているのを分かりつつ、俺も夏美さんの後に続く。
俺は両手の荷物をその場に置いて、中を確認した。
そこにはボストンバッグ一杯にアルミでできた矢が敷き詰められている。
杉山さんに安くて大量に矢が欲しいと注文したら、これを用意してくれた。
準備をするために背中の荷物を置いたら、夏美さんが俺の見たことのない弓を神妙な面持ちで持っている。
俺は夏美さんに近づいて、持っていた弓を見た。
いつもの大きな和弓とは違い、俺の持っている杉山さん作のショートボウに似ている大きさだった。
「この弓はいつものやつとは違うね」
夏美さんは俺が弓を見ていたのも気付かなかったのか、はっと顔を上げて俺を見る。
それから、また悲しそうな顔をしながら弓へ目を向けた。
「これは真さん……田中先生が冒険者を目指していた時に使っていた弓だよ」
「その言い方だと、辞めちゃったんだね」
「……!」
俺の言葉を聞いた夏美さんが唇を噛みしめて、俺をにらみつけてくる。
しかし、何も言ってこないので、俺もリュックから自分の弓を取り出し始めた。
俺がリュックを開けている時に、夏美さんが声を震わせながら独り言のようにつぶやく。
「だから、私が必ず弓でも冒険者として駆け上がれることを証明するの……」
「それはいいね」
弓を取り出してから、夏美さんを見たら悔しそうに弓を握っていた。
俺は夏美さんの目標を聞いて、今日誘えてよかったと思っている。
俺の反応が予想外なのか、夏美さんは目を丸くして俺を見ていた。
「笑わないの?」
「笑うところなんてあった?」
夏美さんの話に相槌を打ちながら、午前中はボストンバッグ1袋くらいでいいかと思いながらバッグを持つ。
バッグと弓を持って夏美さんの方を向いたら、俺の近くまで詰め寄ってきていた。
目に涙を浮かべながら、俺へ訴えるように言葉を投げつけてくる。
「今の話を聞いて笑わなかったのは誰もいなかったの! この学校に入学する時もそう! 真さんに言った時も真剣に聞いてくれていなかった! それに……」
「ちょっと落ち着いて」
夏美さんが話をしている時にボストンバッグを置いて、空いた手で口を塞ぐ。
まだ何かを言いたそうにしているので、俺が本気で笑っていないことを伝える。
「俺は人の夢を笑わない。夏美さんの前にいるのは、盾を2枚使って大会に出るようなやつなんだよ?」
俺の言葉を聞いた夏美さんは口を動かすのを止めたので、俺は口を塞いでいた手を離す。
また、夏美さんがこれ以上わめかないように優しく声をかける。
「落ち着いた?」
「……ありがとう。一也くんも色々言われたの?」
「だいぶ言われたね」
拳のことを隠しながら、俺は拳でモンスターを倒すことを目指した時に言われたことを夏美さんへ簡単に話をした。
夏美さんへそのことを盾を使っている時に言われたことと勘違いをさせる。
話を聞き終わった夏美さんは、黙って俺を見ていた。
俺はここに立っていても弓の熟練度を上げることができないので、リュックから帰還石のような物を取り出す。
この石はワープホールを怪しまれないように行うために、杉山さんが帰還石のように普通の石を加工して作ってくれたものだ。
「夏美さん、これをどうぞ」
「なにこれ?」
「特訓場へ行くための石」
夏美さんは冒険者ではないためあまり帰還石のような物を見ても、なんなのか分からないらしい。
都合が良いのでそれを黙ったまま、夏美さんへ石を思い切り握ってもらう。
「それを全力で握ると移動できるんだよ」
「……本当に?」
夏美さんが握ってくれるので、足元へワープホールを行い強制移動させる。
足元から白い光があふれてきたため、夏美さんは怖くなったようで俺へ助けを求めてきた。
「一也くんたすけ……」
何かを言う前にワープが完了したため、俺も自分の足元へワープホールを行う。
先ほどと同じように、足元から白い光が俺を包み始める。
光が消えると、目の前には海底神殿の入り口が現れていた。
先に移動していた夏美さんは周りを見回して、警戒をしている。
俺を見つけたら、すぐに俺へ近寄ってきた。
「一也くん、これはどうなっているの?」
夏美さんは持っていた石を俺へ見せつけるように差し出して質問をしてきている。
夏美さんを安心させるために、石を回収してから自信を持ってこの場所を案内した。
「俺はここで弓の練習をしているんだ。さあ、行こう!」
「ちょっと待ってよ!」
俺が進み始めたので、夏美さんは俺を止めるのを諦めるように俺の後を追ってきてくれた。
中に入ってから、夏美さんへぎっしりと矢を入れてある矢筒を渡してあげる。
「こんなに使うの?」
「それでも足りないから、この中にまだあるよ」
俺が手に持っているまだ矢が十分に入っているボストンバッグを夏美さんへ掲げるように見せる。
夏美さんは洞窟内をしきりに見回して、何がくるのかと怖がっているようだった。
「まだモンスターは出てこないから」
「そんなことわかるの!?」
「周囲に何があるか探るように意識を持っていけばわかる」
「私にはできないよ……」
「必ずできるから、やろうとしてみて」
弓熟練度Lv3で【気配察知】を習得することができる。
すでにLv5で習得できる【鷹の目】を夏美さんは持っているため、コツさえつかめば気配察知もできるはずだ。
俺もすでに気配察知を使用しており、Lv×10m分の範囲までなにがいるのか分かるようになっていた。
これに遠くにいる対象が良く見える【鷹の目】のスキルが使えれば、簡単に先制攻撃を行える。
夏美さんに周りを意識してもらいながら進むと、何かを発見したようだった。
「佐藤くん、何かいる……」
「モンスターですね。星形のやつがいるのは見える?」
「んー……」
夏美さんは目を凝らして、何かがいると言った壁を見ている。
俺はいつでもスターフィッシュが飛んできてもいいように弓を構えていた。
しばらく壁を見ていた夏美さんが、急に弓を構える。
「いた! 矢で攻撃してもいいんだよね?」
「どうぞ。後、次々とくるから連射して」
「それは聞いてないよ……」
夏美さんが泣き言を口に出そうとしていた。
俺は少し頭に来たので、彼女へ辛い一言を投げかける。
「こんなことで引いていたら冒険者になることさえ無理だね」
夏美さんは無言で矢を放ち、次々に現れるスターフィッシュに怯まずに弓を引き続ける。
「私とこの弓をなめないで」
少しずつ進みながらスターフィッシュへ的確に矢を放つ夏美さんを追いかけるように、俺も矢を放ち始める。
2人で弓を引き続けて、ボストンバッグの中身がなくなる頃には螺旋洞窟を抜けることができた。
最後に今までの成果を確認するべく自分のスキルを確認した。
◆
スキル
体力回復力向上Lv24
(Lv5) ┣[+剣熟練度Lv5]攻撃速度向上Lv24
(Lv10)┗キュアーLv20
剣熟練度Lv20
(Lv3) ┣挑発Lv20━[上級]宣言Lv1
(Lv5) ┣バッシュLv20
(Lv10)┗ブレイクアタックLv20
メイス熟練度Lv20
(Lv3) ┣[+ヒールLv3]身体能力向上Lv20
(Lv10)┗魔力回復力向上Lv20
ヒールLv30
(Lv10)┗移動速度向上Lv30
杖熟練度Lv20
(Lv3) ┣ファイヤーアローLv20
(Lv5) ┣ライトニングボルトLv20
┃(Lv10)┗[上級]ライトニングストームLv5
(Lv10)┗テレポートLv20━[上級]ワープホールLv1
短剣熟練度Lv20
(Lv3) ┣鑑定Lv5
(Lv5) ┣スキル鑑定Lv20
(Lv7) ┗急所突きLv20
盾熟練度Lv20
(Lv5) ┣[上級]パリィLv4
(Lv10)┗シールドバッシュLv20
拳熟練度Lv30[上級]
(Lv3) ┣アースネイルLv5
(Lv5) ┣[+ファイヤーアローLv5]
┃ バーニングフィストLv15
(Lv5) ┗旋風脚Lv7
弓熟練度Lv9
(Lv3) ┣気配察知Lv9
(Lv5) ┗鷹の目Lv9
銃熟練度Lv1
[シークレットスキル]
守護神の加護
海王の祝福
◆
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