拳士中学校編④~部活動選択~
職員室へ入室して、田中先生から1枚の紙が渡される。
【入部届】
俺が不思議そうに紙を眺めるので、田中先生は補足するように説明をしてくれた。
「部活動は全員加入することになっているから、これを見て今週中に希望の部活を決めてくれる?」
「……わかりました」
田中先生は入部届と一緒に、部活動の案内というパンフレットを渡してくれた。
俺は2枚の紙を受け取り、田中先生へお礼を言う。
職員室を出るために足を動かそうとした時、田中先生が心配そうに俺へ声をかけてきた。
「佐藤くん、本当にしばらく学校に通うの?」
「そのつもりですけど」
「大丈夫?」
今日1日学校で過ごしていて特に嫌なことを感じなかったため、自信を持って田中先生へ返事をする。
「はい。なんの問題もありません」
「そう……ならいいけど……」
「それでは、失礼します」
俺は田中先生へ向けて頭を下げてから職員室を出た。
荷物を背負い、とりあえずパンフレットを見ながら部活を巡るために歩き始める。
(まずは校内の部活を見てみよう)
校内では、吹奏楽部や美術部、料理研究部など見たことがあるような部活が活動していた。
名前を見て特に興味を持ったのは【魔法研究部】だったが、活動内容を聞いたらファイヤーアローのスキル書をひたすら解読しているだけの部活だった。
部室には俺が見たことが無いオリジナルの杖などが飾っており、期待していただけに余計残念に感じた。
次に校外で行われている部活を見るために下駄箱へ向かう。
パンフレットを片手に校外で部活の見学を始める。
野球やサッカー、テニスなど普通の運動をしている部活があり、普通だなと思っていたら、急に馬が走っているのが見える。
(馬?)
すぐにパンフレットを見たら、騎乗部という部活があるらしい。
馬に乗っている部活はおそらくこれだろうと思って、見学へ向かう途中で足が止まった。
(人が多すぎる……)
学校の敷地内に厩舎があり、そこで騎乗部が活動していると書いてあったのでそこへ向かったら、グラウンドより少し小さい広場で馬や大きめの鳥などに乗っている人が見える。
その広場を囲うように人がおり、これが全部部員かと考えたら見学する気さえ失せた。
俺は厩舎に背を向けて歩き出し、別の部活はないか探す。
剣道部に少し心がひかれ、体育館の1階で活動している剣道部の見学へ向かったら普通の竹刀で部活をしていたため、防具を着けるのが嫌なので見るだけで終わった。
一通り部活を巡り、パンフレットを見ていても興味のない部活ばかりで適当な部活の名前を書いて部活へ行かないという手段をとろうか悩み始める。
(帰ろうかな……)
パンフレットを丸めて捨てようと考えた時、まだ見に行っていない部活があることに気が付いた。
学校案内図の片隅に小さく弓道場と書かれた場所があり、弓道部と記載されている。
(弓道部を見てから帰ろう)
弓道場へ向かい始めた時に、弓について杉山さんから教えてもらったことを思い出す。
弓は完全に途絶えようとしている武器の筆頭らしい。
杉山さんの武器屋さんにも弓は販売すらしておらず、弓が欲しい場合は完全にオーダーメイドということだ。
弓を作る人も年々減っているため、海外に注文する場合もあるという。
俺が弓で取得できるスキルが欲しいと思って注文したものの、いつ手に入るかわからないと杉山さんに言われている。
弓を1度使ってみたいので、杉山さんに作れるように腕を鍛えるように催促をしたこともあった。
(学校で練習できるならやりたいな……)
弓なんて触ったこともなく、俺にとっては未知の武器のため、弓道部で練習できるのならやってみたい。
弓道場へ向かう足が軽くなり、意気揚々と弓道場へ向かい始める。
弓道場の近くまで着いたら、目の前にあるのが弓道場なのかと疑ってしまう。
全体的にさびれており、壁には苔が付いている。
しかも、弓道場の近くだけやけに木が多い。
場所も学校から追いやられたたように離れたところにあり、ここで部活をやっているのか疑ってしまった。
木の扉があるため、開けようとしたら立て付けが悪くて扉が開きにくい。
「ふん!」
あまりにも開けにくいため、力任せに勢いよく扉を開けてしまった。
大きめの木が打ちつけられる音がしてしまい、中にいる人に心の中で謝りながら靴を脱いでから入る。
弓道場の中を見たら、言葉を失う。
外観とは違い、手入れがされていて光っている木の床や、部屋の隅にほこりさえ見えないほど掃除がされている。
(どうなっているんだ……)
中へ入っていったら、1人の少女が体操服の上から胸当てを着けており、弓と矢を持って的へ向かって構えようとしていた。
緊張感を持って弓を引いているその子の姿を見たら、固唾を飲む。
(弓ってこんなに緊張するのか?)
その少女の動作1つ1つが流れるように行われていた。
なぜか俺は見入ってしまい、矢が的に当たった瞬間に思わず拍手をしてしまった。
「誰!?」
「あ……」
俺は拍手していた手を止めて、ゆっくりとその少女へ近づく。
いきなり俺が現れて困惑しているのか、その少女はいきなり頭を下げた。
「ごめんなさい! ここには何もないです!」
「いやいや、物取りじゃないから……」
いきなり犯罪者と間違えられて、俺はどうしたものかと頭をかいてしまう。
少女が一向に頭を上げてくれないので、自己紹介をすることにした。
「えっと……初めまして、1年の佐藤一也です。今日は見学にきたんですけど……」
「え!? 佐藤一也!? 盾を2枚持って戦う、頭がいかれているけど意味不明なほど強い人!?」
俺は学校で頭がいかれている人と思われているようだ。
(……それを本人に言うか?)
悪口を目の前で言われた経験は俺でも数回しかない。
目の前の少女は俺が佐藤一也だとわかり、さらに慌ててしまっているようだった。
「あ……」
驚いた拍子に手に持っていた弓を手放してしまい、床に落ちようとしていた。
慌てていた少女も弓を手放したことに気付いて、手を伸ばすが間に合いそうにない。
弓は貴重な物のはずなので、全力で走り出して床に落ちる直前に弓をつかむ。
「え……さっきまであそこにいたのに……」
少女を見たら目を丸くして俺を見ている。
俺はつかんだ弓を心配しながら少女へ渡す。
「これ、大切な物ですよね?」
「ありがとう……ございます……」
俺は少女から少し離れて、改めて少女の姿をよく見る。
運動着の上から胸当てをしており、右手には手袋のようなものを着けていた。
髪はショートボブという名前の髪型をしている。
少女は俺から弓を受け取ったまま固まってしまっていた。
(どうしよう……)
俺もこれからどうすればいいのか悩み始めて動けない。
制服に入っている入部届のことを思い出した。
「あ!」
俺の声を聞いて、少女は体を震わせてから俺へ顔を向けてくる。
(興味のない部活に入るくらいなら、やってみたかった弓を練習させてもらおう)
少女は俺へ怪獣でも見ているかのような目を向けてくるので、俺はゆっくりと入部届を取り出した。
「ここに入部ってできるのかな?」
「入部するんですか!?」
入部すると聞いた途端、少女は目を輝かせてから素早く弓などの道具を片付け始める。
少女を眺めていたら側道のようなところを通って、矢を取りに行こうとしていた。
「あの……」
「もうちょっとで終わるので、待っていてください!」
俺が声をかけようとしたら、すごい勢いで的のところまで走っていってしまった。
少女が何をしたいのかわからないため、俺は言われた通りに待っていることにする。
少女は矢を回収してきて、矢を立てるような箱へ入れ始めた。
胸当てと手袋もしまい、走って俺のところまで来る。
「こ、こちらへどうぞ!」
少女は俺をどこかへ案内しようとしていた。
案内してくれた場所は、少女が弓を放っていたところの奥にある部屋のようなところだった。
先に入っていた少女が、扉を開ける前に少し恥ずかしそうに俺を見る。
「ここが部室になります。少し汚れていますが……どうぞお入りください」
少女は散らかっていると言っていた部室は、俺の部屋よりもはるかに綺麗だった。
中に一歩入って感動をしていたら、後ろから少女は苦笑いをしながら話しかけてくる。
「汚くてすみません……」
「まったく汚くないけど、どこが汚れているの?」
俺の言葉を聞いて、少女は窓の下枠のそばを指でなでる。
恥ずかしそうに下を向きながら、なでた指を俺へ見せてきた。
「こんなにちりが付いています……」
「俺には見えない」
こんなにという指先を見ても、俺にはちりが付いているかわからない。
少女はなぜか俺へお礼を言いながら、椅子を引いた。
「そう言っていただきありがとうございます。こちらへどうぞ」
「……ありがとうございます」
お礼を言いながら椅子に座ると、少女はすぐにテーブルへお菓子を用意する。
いきなり目の前には茶碗が置かれて、少女が緑茶を入れ始めた。
椅子に座りながら、少女が無駄な動きをせずにお茶を入れるのを眺めている。
(なぜかもてなしを受けている!)
俺は他人からこんなに歓迎された記憶がない。
お茶を入れ終わった少女が俺の正面に座って期待するような目で俺を見た時、どうしていいのかわからずお茶を一気に飲み干す。
(熱い! 喉が焼ける!!)
俺は入れたてのお茶の温度をなめており、喉が焼けるような痛みを感じる。
体の中から焼けるような感覚がするので全力でヒールを行い、自分の体を治す。
俺が一気にお茶を飲んで、少女は心配するように俺を見ている。
「熱くないですか?」
「美味しいです……」
「よかった! また入れますね」
笑顔でお茶を入れる少女を見ながら、すごく無駄なヒールの使い方だなと思ってしまった。
少女は座りなおして、何かを気付いたようにまた立ち上がる。
俺へ手を出しながら、はじけるような笑顔を向けてくれた。
「私は1年Dクラスの
「こちらこそよろしくお願いします」
こんなにしっかりしている子が同学年だという衝撃を受けて、俺は反射的に出された手を握り返してしまう。
俺はとっさにスキルを鑑定してしまい、握り返した手から清水さんのスキルが俺へ伝わってくる。
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体力回復力向上Lv2
弓熟練度Lv8
(Lv5)┗鷹の目Lv5
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ご覧いただきありがとうございました。
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