拳士中学校編③~谷屋花蓮の苦悩~
俺は花蓮さんの質問へ答える前に盾を両手に持ち、足で自分を中心に円を書いた。
「質問には花蓮さんが俺をこの円から出せたら答えてあげますよ」
「私、今そんな気分じゃないんだけど……」
花蓮さんはやる気になってくれそうにないが、盾を構えて花蓮さんを待つ。
やがて、花蓮さんは諦めたようにため息をついてから剣を構えてくれた。
「そこから動いたら必ず答えなさいよ……」
「約束は守ります」
「そう……なら行くわ!」
花蓮さんは思い切り剣を俺に向けて振ってくる。
剣の軌道を読み、盾を構えた瞬間に花蓮さんが俺の目の前から消えた。
(フェイントか!)
地面のこすれる音が聞こえた方に盾を向けたら、花蓮さんが剣を振り上げている。
かろうじて花蓮さんの剣を盾で弾いた時、グラウンド中に金属が叩かれた音が鳴り響く。
以前よりもはるかに重い花蓮さんの攻撃を受けながら、スキル鑑定を行う。
【バッシュLv10 身体能力向上Lv10 攻撃速度増加Lv10 移動速度向上Lv3】
俺は空いている方の盾で花蓮さんへ盾を振るっても、すでにそこに花蓮さんはいない。
花蓮さんは俺に盾で弾かれた衝撃を利用して、俺から距離を取っていたようだった。
花蓮さんは俺の死角から攻撃を行なってくる。
先ほどのフェイントや、弾かれるときの衝撃の利用など、自分にできることを限界まで行なっていた。
しばらく、金属が叩かれる音が鳴り続ける。
(花蓮さん……何を迷っていたんだろう……)
俺へ話しかけてきた花蓮さんは、何か迷っているような顔をしているように見えた。
ただ、今俺に対して攻撃をしている花蓮さんにその面影はまったく見受けられない。
グラウンド中へ鳴り響いていた音が止まると同時に、花蓮さんが急にその場へ座り込んでしまった。
花蓮さんを見たら、肩を上下に動かすように荒く呼吸をしている。
(魔力切れかな?)
花蓮さんがその場から動かないため、俺は持っていた盾を置く。
すると、花蓮さんはすぐに立ち上がって俺へ突進してくる。
俺は剣を持って全力でこちらへ走ってくる花蓮さんを受け流して、地面へ放り投げた。
地面へ倒れた花蓮さんは悔しそうに剣を地面に叩き付ける。
「どうしてそんなに強いのよ……」
花蓮さんは両手で顔を覆いながらつぶやいていた。
倒れている花蓮さんの近くに座り、花蓮さんの努力に免じて質問へ答えることにする。
「俺は世界最強を目指しています」
「なにそれ……適当に答えているでしょ」
花蓮さんは上半身を起こして、赤くした目で俺を見てきた。
俺の答えは自分の目指していることをそのまま言っただけなので、花蓮さんに分かりやすく補足の説明をすることにした。
「この世界に存在するすべてのモンスターを狩りつくします。俺はその力が欲しいんです」
「すべてって……なんでそこまでモンスターを倒すことにこだわるの?」
俺は拳を天に掲げるように上げながら、自分の思いを言葉にする。
「この拳と共に戦いたいんです。どんな敵とも……」
「……」
花蓮さんがなにも言わずに俺を見るので、俺は自分の特訓に戻ることにした。
立ち上がって、盾を拾いながら花蓮さんから離れる。
「それじゃあ、俺はあっちで続きをしています」
「待って! 私の話を聞いてくれない?」
「いいですよ」
俺は花蓮さんの横へ座り、花蓮さんの言葉を待った。
花蓮さんはうつむきながら漏らすように話を始める。
「私ね……ずっとお姉ちゃんに憧れていたの」
「そうだったんですね」
「ええ、だからあなたと会う前まではお姉ちゃんを追い越そうと、お姉ちゃんと同じことばかりしていたわ……」
「……」
それから花蓮さんは今まで自分が思っていたことを話し始めた。
生徒会長をやっているのも絵蓮さんがやっていたから、自分もやらなければと思いやっているそうだ。
部活や、使っている剣、髪型までも同じようにしているらしい。
話を聞いていたら、少しあきれてしまった。
「そこまで真似をします?」
「……私も今は馬鹿だったなって思っているから」
「それならいいじゃないですか」
花蓮さんは腰まである長い髪をなでながら俺に返事をしていた。
しかし、また下を向いてしまう。
俺は花蓮さんの考えていることがわからず、うろたえてしまいそうになる。
(こんなときなんて声をかけるのが正解なんだ?)
なぜか弱ってしまっている人へかける言葉が俺からは出てこない。
俺がかける言葉について悩んでいたら、花蓮さんが重い口を開いてくれた。
「最近はね、自分の努力さえ認められなくなっているの……」
「……どういうことですか?」
「この前の大会は、あなたに媚を売ったから私は全国大会に進めるって言われているわ……」
「誰にそんなことを? 花蓮さんは強くなっているじゃないですか」
花蓮さんは首を左右に振って、悪口を言っている人の名前を言わない。
それなら、俺は強硬手段に出ることにした。
「花蓮さんが言わないなら、俺は今からこの中学校すべての人を殴って吐かせてきます」
俺はまず始めにグラウンドへいる全員を殴るために歩き始めようとした。
しかし、花蓮さんに腕をつかまれてしまう。
「違うの……誰かわからないの……」
「悪口を言っている人が分からないって、どういうことですか?」
「SNSで言われ続けているから……」
「……それは無視すればいいじゃないですか」
直接言われていないなら無視すればいいのに、花蓮さんはよくわからない人から言われていることを気にしているようだった。
(俺もゲームの時に、SNSで化け物とか頭がおかしいとか色々書かれたけど、まったく気にならなかった)
俺の言葉を聞いて、花蓮さんは涙ぐんでいる顔を俺へ向ける。
「これだけ武器を振って、そんなことを言われたらムカついて仕方ないの!」
「花蓮さんは悪口を言っている連中を見返したいんですね?」
「……それができればね」
「わかりました」
俺は花蓮さんの悩みを解決できる手段を思いついたため、自分の練習へ戻ることにする。
最後に1つだけ花蓮さんへ約束をしてもらう。
「花蓮さん、これから逃げるって選択をしないようにしてもらえますか?」
「どういうこと?」
「気持ちが逃げたら何も起こりません。とりあえず、気持ちは逃げないでください」
「……よくわからないけど、そうするわ」
俺は花蓮さんから離れるように歩き始めるが、1つ聞いておきたいことを思い出した。
「ちなみに、花蓮さんって何クラスですか?」
「Aだけど……」
「ありがとうございます」
俺は長い間花蓮さんと話をしていたようで、花蓮さんのクラスを聞いた時に授業の終了を報せるチャイムが鳴ってしまった。
(練習できる時間が終わっちゃった……)
肩を落としながら教室に戻った俺は、俺が来るのを待つように揃っていたクラスメイトと田中先生に見られる。
田中先生から早く席に座るように言われ、俺が座ると帰りの連絡が行われた。
連絡の最後に、田中先生が俺へこの後職員室に来るように伝えてくる。
俺がわかりましたと返事をすると、帰りの挨拶が行われた。
田中先生が教室を出た後、クラスメイトが帰る支度を始めた。
それを見た俺は教壇に立って、クラスメイトに注目をしてもらう。
「ちょっと帰るのを待ってもらってもいいかな!」
俺の声を聞いたクラスメイトが硬直するように動かなくなり、俺を見てくれた。
クラスメイトが待ってくれたので、俺は黒板へ大きく字を書き始める。
俺が字を書いている間、固唾をのんで見られているような気がするくらい他の音が聞こえない。
俺は文章を書き終わり、クラスメイトへ黒板を叩きながら笑顔を向ける。
「ちょっと困っているので、これをSNSで拡散してください」
俺はそう言い放ち、荷物を持って職員室へ向かうために教室を出る。
さっきまで俺のいた1年Cクラスの黒板に書いたのは、花蓮さんの悩みを解決する内容だった。
俺が出た後の教室からスマホで写真を撮影するような音が聞こえたので、安心して職員室へ向かい始める。
○
緊急募集!!
全国大会に出るPTメンバーが8名足りません
希望者は剣士中学校3年Aクラスの谷屋花蓮と勝負を行なってください
勝負の内容でPTメンバーへの追加を検討します
※参加資格は静岡県に住むU-16の方なら誰でも構いません
負けた時の怪我等は自己責任でお願いします
PTリーダー 佐藤一也
○
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ご覧いただきありがとうございました。
現在カクヨムコン9に以下の作品で参戦しております。
ぜひ、応援よろしくお願いします。
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