拳士中学校編②~総合の時間~

 体格の良い先生が号令をかけると、複数クラスがいると思われる人数が整列をした。

 俺がどこに並べばいいのかわからないため、グラウンドの入り口に盾を持って立っている。


 防具を着けた女性の先生が声をかけてきてくれて、クラスを伝えたら並ぶ列を教えてくれた。

 お礼を言ってから列の一番後ろに並ぶ。


 すると俺を待っていてくれたのか、すぐに体格の良い先生が準備体操をするように声を出す。

 それを聞いた瞬間、俺以外の防具を着けた生徒が走り始めるため、俺も慌てて周りに合わせて走る。


(カシャカシャうるさいな……)


 走りながら防具がこすれる音にうっとうしさを感じた。

 100人ほどの人数が出す金属のこすれるようなこの音が耳に障る。


(全員防具が使えなくしてやろうか……)


 俺は自分の頭に浮かんだことを忘れるように頭を振り、周りと同じように準備体操を行う。

 周りに合わせるために他の生徒を見ていたらあることに気付いてしまう。


(あれ? みんな武器を持っていない)


 両手に何かを持っているのは俺だけに思えた。

 最初は見間違いかと思ったが、俺以外の全員が防具以外何も持っていない。


 そんなことを考えているうちに準備体操が終わり、先生が号令をかけると今度は集まるように走り始める。

 

 全員が集まるのを確認した先生は、大きな声で言葉を出してくる。


「それでは、今から銃の練習を行う! 全員射撃場へ向かえ!」

「ええ……」


 俺の声をかき消すように周りが返事をして、射撃場へ向かうように歩き始める。

 俺は銃を使わないため、号令をかけた先生のところへ駆け寄った。


「すみません」

「なんだ!? お前か……」


 俺の声を聞いて体格の良い先生が立ち止まり、顔を見て唸りながら腕を組む。

 その先生へ銃を使わないことを伝えたら、困りながら俺へ話をする。


「それなら、お前はこの時間どうするんだ?」

「ここで自主錬をしたいです」

「……わかった」


 返事をしてくれた後、その先生が他の先生へ声をかけている。

 俺はその様子を見守っていると、最初に俺へ声をかけてくれた女性の先生が射撃場へ向かう。

 その女性の先生へ何かを話をした後、体格の良い先生と俺だけがグラウンドへ残る。


 残ってくれた先生は腰に手を当てて、俺へ困りながら見てくる。


「それで、佐藤はなにをするんだ?」

「えっと……スキルを上達させます」

「は?」

「たぶん、見ていてもつまらないので、先生も射撃場へ向かっても大丈夫ですよ」

「おい……」


 時間をくれるというのなら、俺はやらなければいけないことがある。

 俺へ声をかけてくれた体格の良い先生は俺へ手を伸ばすものの、手を止めて俺を見守ってくれていた。


 グラウンドの中央に着くと、盾を足元に置いて立ったまま目を閉じて自分の体へ意識を向ける。


 俺がやらなければならないことは、拳熟練度Lv10で習得できる【錬気オーラ】というスキルの確認だった。


(拳Lvは10を超えている。でも、錬気が習得できる気配がない)


 桜龍と戦っている時にも発動するように意識していたが、習得できていない。

 そのため、習得のために根本的な何かが足りないと考えた。


(錬気とは、俺から発生する戦うためのエネルギー……)


 ゲーム内での俺はモンスターと戦う時には常に錬気を身にまとい、攻撃力、防御力などの身体能力を底上げしていた。

 錬気を身にまとっている間は体力と魔力を消費し続ける。


 深呼吸をして、自分の体に存在していると思われる魔力へ意識を向けた。

 魔法を唱える時などに使いたい武器へ込める力が魔力だと認識している。


 俺は自分の体のどこに魔力があるのかを探すために、手に魔力を込めてから弱めるという行動をした。


(なんだ……この流れは……)


 弱まった魔力が体のどこに流れるのかと注意を向けたところ、俺の全身を巡るように魔力が循環している。

 俺の心臓で消費された魔力が補填されており、今は体中が魔力で満たされていた。


(これが魔力か!)


 魔力の存在がわかり、錬気を習得するための一歩目が踏み出せた。


 遠くからパンパン始めるような乾いた音が永続的に聞こえ始める。

 耳に魔力を送り、意識を集中したら、そよ風が俺の体操服をはためかせる音や、俺以外の人が息を飲む音が聞こえた。


 目を開けて息を飲む音が聞こえた方を見たら、俺から10mほど離れたところにいる先生が座っている。

 耳に魔力をまとわせることで聴覚が強化されて、普通の人が聞こえないような小さい音も聞こえるようになっていた。


(耳でできたことを全身で行えば、全身の能力が強化されるはずだ)


 俺が感覚を覚えているうち体へ魔力をまとわせようとした時、チャイムが鳴ってしまう。

 すると、座ってみていた先生が俺へ近づいてくる。


「佐藤、この時間はもう終わりだ。次は教室で座学がある」

「それはどんな座学ですか?」

「2、3年で行う剣や魔法などのスキル書についての基礎知識を勉強する」

「俺には必要ないので、このままやらせていただけませんか?」


 今さらスキル書の勉強をする時間を俺が行っても意味がない。

 俺はもう少しで錬気の習得ができそうなので、先生へ続けさせてもらえるように願う。


 俺を見てくれていた先生は困ってしまい、頭をかきながらうーんとうなってしまった。


「さっきの時間にしていたことが本当にスキル習得のための時間なんだな?」

「そうです。ようやくきっかけがつかめそうです」

「……わかった。続けなさい」


 困ってしまった先生は少し悩んだ後に、俺へ続けるように言ってくれた。

 そんな先生の後ろから花蓮さんが剣を持って走ってきている。


 花蓮さんは息を乱しながら焦るように俺へ近づいてきていた。

 先生の近くで止まり、先生へ挨拶をしてから上半身を倒して膝に手を当てて息を整えている。

 ようやく息の整った花蓮さんは、苦しそうな顔で俺を見た。


「ちょっと!? 一也くん、何をしているの!?」


 花蓮さんが息を乱しながら、俺へ声をかけてきた。

 俺が答える前に、グラウンドへ入ってくる生徒を見た先生は、俺と花蓮さんへグラウンドの端を指し示す。


「すまない、2人ともあっちへ行ってもらってもいいか?」

「わかりました」

「……はい」


 花蓮さんはかろうじて先生の言葉に返事をしてから歩き始める。

 俺もグラウンドの中央から端の方へ歩き始め、息が整った花蓮さんが話をしてきた。


「初日からいきなり目立つとか何を考えているの?」

「目立っていましたか?」


 息が整ったはずの花蓮さんは、片手で頭をかかえながらため息をついてしまう。

 その様子を横目で見ていたら、あきれながら花蓮さんが口を開く。


「グラウンドで先生と2人きりになっている生徒がいて、その人が目立っていないと思うのなら頭がおかしいわね」

「……確かに」

 

 錬気の習得に集中してしまい、自分を客観的に見ることができていなかった。

 花蓮さんの言うとおり、誰もいないグラウンドに2人だけいたら目立っていたのだろう。


(まさか、花蓮さんはそれを伝えるためだけに来てくれたのか?)


 俺の前を歩く花蓮さんはグラウンドの端に着くと、剣を鞘から抜いている。


(まさか、これから俺のことを剣で反省させようとしているのか……)


 俺が剣を抜いた花蓮さんを見て動かないでいたら、花蓮さんは首をかしげて俺を見てきた。


「一也くんもやることがあるんじゃないの?」

「ええ……あります……」

「私はブレイクアタックの練習をしているから、邪魔しないでね」


 そう言って、花蓮さんは剣を思いっきり振り始めた。

 剣を振り始めた花蓮さんに1つだけ質問があるため、試行錯誤している花蓮さんへ声をかける。


「花蓮さんは授業どうしたんですか?」

「私のクラスはこの時間スキル書の勉強をしているから、私はさっきの鈴木すずき先生に頼んでグラウンドの隅で自主練をさせてもらっているの」


 先ほどの先生が鈴木という名前であることを初めて知った。


 しかし、花蓮さんも1人で練習しているんじゃないかということを言おうとして、止めた。

 花蓮さんの顔には鬼気迫るものがあり、邪魔をしないようにする。


 花蓮さんから少し離れて、錬気習得のために自分の体へ意識を向ける。


(自分の体に流れる魔力を全身にまとわせるには、魔力を体中から放出させる必要がある)


 今まで、武器に込めることは簡単にできていた。

 俺は自分の体に力が込めやすいように重心を落として、拳を戦う前のように構える。


(自分の全身から魔力を放出させる!)


 俺は魔力が体中を加速しながら体中を巡るイメージを持って、体に力を込めて一気に魔力を体の外へ出す。

 しかし、俺の体から何かが弾けたように魔力が飛散してしまい、魔力をまとえない。


「なんでだ!?」


 錬気ができないことで苛立ってしまう。

 驚いた花蓮さんが怒りに身を任せて地面を蹴っている俺へ近づいてきた。


「ねえ、一也くんはどうしてそんなに強くなろうとするの?」

「どういうことですか?」

「私には立っていただけのように見えたけど、今の一也くんはそれを本気でやっているから、強くなる手段なんでしょ?」

「……そうですよ」

「そこまでして強くなる理由を知りたいの」


 俺が声を出した理由を聞かれると思ったが、花蓮さんは俺へ予想外の質問をしてくる。

 俺へ質問をしてくる花蓮さんは、それを興味本位で聞いているのではなく、なにかを訴えてくるような顔で聞いてきていた。


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