拳士中学校編①~中学の異変~
俺は桜島へ行った次の日の朝から、制服を着て時間通りに登校をしている。
歩きながら昨日のことを思い出す。
昨日はあの話し合いの後、真央さんの車に積んであった防具を杉山さんへ返そうとしたら、そのままくれるというのでもらうことにした。
ポセイドンからもらった槍は部屋に飾ってある。
特に気になったことと言えば、なぜか帰る時に花蓮さんが真央さんや佐々木さんから頑張れと言われていた。
(なんだったんだろうな)
通学途中、約束通り花蓮さんが立っていたので声をかける。
「花蓮さん、おはようございます」
「……おはよう。本当に行くの?」
花蓮さんとは前日の夜に登校をすることの相談をしていた。
その時に何度も学校へ行くのを花蓮さんから止められる。
しかし、俺が学校へ行かないと、他に行くのはモンスターを倒すくらいですよと伝えたところ、悩むようにとりあえず一緒に登校することを提案されていた。
俺と花蓮さんはあいさつを交わした後、学校へ向けて歩き出す。
花蓮さんは俺の荷物を気にするように俺の背中を見ている。
「なんですか?」
「今日はなんの武器を持ってきたの?」
「盾を持ってきましたけど……」
「それなら大丈夫ね」
花蓮さんから一番安全な武器を持ってくるように言われていたため、盾を2枚持って登校している。
その時、絶対に素手で人を殴らないように何度も注意された。
俺は安心をしている花蓮さんを見ながら、複雑な心境になる。
(盾が攻撃の手段として認識されている……)
俺からしたら盾はどう使っても盾なので、攻撃のために使おうとは思わない。
(盾は戦いに使うものだから武器と言えば武器だけど、攻撃するものかどうか聞かれたら答えに困る)
盾について悩んでいたら、妙に周りの視線が気になった。
俺と同じ制服を着た生徒がわざとゆっくりと歩き、間違いなく俺と花蓮さんを見ている。
花蓮さんへそれを伝えようとしたところ、ため息をつきながら俺を見てきた。
「学校ではもっとすごいから……」
花蓮さんは俺の言いたかったことがわかったのか、俺が言う前に答えてくる。
うんざりしながら花蓮さんが周りを見ながら言うので、俺は何も言わないことにした。
視線に晒されながら学校へ着き、下駄箱で花蓮さんと分かれる。
担任の田中先生へ登校することの連絡を忘れていたので、授業が始まる前に職員室へ行かなければならない。
職員室へ入室したら、登校時と同じような視線を先生たちからも感じる。
気にせずに田中先生の机まで向かったら、目を点にした田中先生が椅子に座っていた。
「田中先生、おはようございます」
「佐藤くん? おはよう……」
「突然申し訳ありません、本日より1月程登校したいと思います」
「えっと……」
俺が田中先生と話を始めようとした時にチャイムが鳴り、田中先生は焦るように俺へ職員室を出るように背中を押してきた。
「佐藤くん、ごめん。これから打ち合わせだから、少し外で待っていて」
「わかりました」
俺は言われた通り、職員室の外で待つことにした。
職員室の中から少しざわめきのようなものが聞こえてくる。
職員室の外で待っていたら、俺の前を通る生徒のほとんどが俺を見てきた。
(学校に来ていない俺がいきなりきたらこうなるのか)
花蓮さんが通学中に言っていたことの理解ができてきた。
俺を見る生徒の目を眺めていたら面白いことに気が付く。
その中には驚いて立ち止まる人や、目を見開く人、いきなり目をそらす人など様々な反応をしている。
(立っているだけで面白いな!)
俺が人間観察に熱中していたら、職員室の中から先生のような人が出始めてきた。
その人たちも俺のことを珍しそうに見てくる人がいる。
すぐに田中先生も職員室から出てきて、俺を見るなり不思議そうに声をかけてきた。
「佐藤くん、どうかしたの?」
「いいえ、なんでもありません」
声をかけられたので人間観察を止めて、田中先生の方を向く。
田中先生は特に俺のやっていたことを気にする様子はなく、軽くため息をついた後に付いてきなさいと言いながら俺へ背中を向けて歩き始めた。
田中先生と一緒に歩きながら教室へ向かっている時にも、学校にいる俺が珍しいのか、俺を見てくる視線が多い。
なんとなく歩く姿勢を意識して、少しでも印象を良くしようと心がける。
すぐに教室まで着いてしまい、田中先生は教室の中から俺が見えない位置で立ち止まった。
「ここで待っていてくれる?」
俺へ言葉をかけてから田中先生が教室へ入り、何かを話をした後、ざわめきのようなものが教室から聞こえてくる。
(俺がくるのがそんなに驚くことなのか……)
入学式から1ヶ月ほどしか休んでいないだけで大げさだと思いながら、待っていたら教室の中にいた田中先生が扉から顔を出してきた。
「佐藤くん、入ってもいいわよ」
「……わかりました」
俺が入室した瞬間、クラス中の視線を受けることになる。
(ええ……)
見間違うことなく、クラスメイト全員が俺を見ていた。
俺は驚きを表情に出すようなことをせずに、廊下側の一番後ろにある自分の席まで向かう。
荷物を床に置いてから座り、教壇に立つ田中先生を見る。
俺が座り終わったのを確認した田中先生は、今日の連絡事項などをクラスに向けて伝え始めた。
なつかしい気持ちを抱きながら、視線を感じて横を見たら横に座る男子生徒が俺を横目で見ている。
その男子生徒は俺と目が合うと目をそらすようにすぐ下を向いてしまう。
田中先生は連絡事項を伝えてからクラスを見回して、軽くため息をついて挨拶を行なった。
田中先生が教室を出ると教室が静まってしまう。
周りを見たら、数学の教科書を出している人がいたので、俺も鞄から新品の教科書を取り出して机に置く。
教科書の中身が気になり、教科書を開くとすぐに授業を行う先生が来てしまう。
俺は教科書から顔を上げて、久しぶりに体験する授業を楽しみにしていた。
数学の後は、国語や理科など普通の授業を受けた。
一番驚いたのは午前中最後の英語の授業を受けている時に、英語で聞いているはずの言葉が日本語として伝わってきたことだった。
しかも、教科書の英語で書かれている文章も俺がわかるように日本語に見えてしまう。
その時はレべ天にありがとうと伝えていたが、すぐにやっぱりダメ天かと思ってしまった。
(読めたり聞けたりするのに、書くのができない!)
俺はレべ天へ他の国の言葉を使えるようにしてほしいと頼んだのに、書けないとは聞いていない。
(今度会ったら苦情を言ってやろう)
俺がレべ天へ不満を募らせていたら英語の授業が終わり、昼休みになったようだ。
クラスメイトが食堂へ向かって歩いているので、俺も食堂へ向かう。
休み時間の教室ではクラスメイトが遠目で俺を見るものの、誰も話しかけてくれなかった。
食堂へ向かう時にも、他のクラスや学年の人が俺を見ていても誰も来ない。
(つまらん……)
授業以外になにも起こらないので、半日いただけでつまらなくなってきた。
食堂に入ってから、プレートへ載るかぎりぎりの大量の食べ物を置いて、不自然に開いた椅子に座る。
(午後はなにをするんだろう)
教室に掲示してある予定表には、今日の午後の時間に【総合】と書かれた授業が2つ並んでいた。
(田中先生も、今日の午後は総合の時間だから早めに着替えをしてグラウンドへ行くように言っていたな……)
俺はこの時間が剣士中学校独特の授業だと考えた。
手を合わせてから、いただきますを心の中で唱えて昼食へ手を付け始める。
「ここ、いいかしら?」
俺が午後の授業について考えていたら、俺の横から声が聞こえてきた。
食事をしながら声の聞こえた方角を見たら、花蓮さんがプレートを持って立っている。
口に食べ物が入っているため、声を出さずに空いている手でどうぞと手を出す。
「……ありがとう」
花蓮さんは大量の食事をしている俺をあきれながら見て椅子へ座る。
椅子に座った花蓮さんが俺のプレートの上を興味深そうにのぞいてきた。
「一也くんってそんなに大食いだっけ?」
俺は食べるのを止めて、口の中の物を飲みこんだ後に口を開く。
「バイキング方式って取りすぎちゃいませんか?」
俺の言葉を聞いた花蓮さんが下を向いてフフっと笑ってしまった。
俺が首をかしげたら、花蓮さんは笑みをこぼしながらごめんなさいと言って言葉を続ける。
「あなたも人間らしいところがあるのね」
「……それ、どういう意味ですか?」
「しーらない」
花蓮さんが笑顔で食事を始めるので、俺も自分の大量にある食べ物を食べる作業を再開する。
俺が食べている時に花蓮さんが一方的に話しかけてくるので、それにうなずいたり首を横に振ったりして、なんとか会話を成立させていた。
俺の食事が終わるまで花蓮さんは待ってくれていた。
席を立つと、花蓮さんが思い出したように俺へ言葉をかけてくる。
「そういえば、一也くんのクラスは午後に総合の授業だよね?」
「そうですよ」
「……あんまりやりすぎないようにね」
花蓮さんは俺へそれだけ言うとプレートを片付けに行ってしまった。
周りを見たらほとんど人が残っておらず、俺は食べるのに時間がかかってしまったことを察する。
食堂から出る時に花蓮さんへ時間がかかったことを謝ったら、気にしないでと言われた。
花蓮さんにお礼を言ってから教室に戻ったら、クラスメイトが全身に防具を着けてグラウンドへ出ようとしている。
俺は体を守る防具を持っていないので、体操服に着替えて盾を2枚持ってグラウンドへ出た。
グラウンドには総合の時間を担当するのか、見たことのある体格の良い男性の教員を含めた複数の教員がいる。
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