桜島攻略編④~桜島からの帰還~
車のドアが強く閉められる音がした後、車が移動するように椅子へ軽く体が押さえ付けられる。
俺は眠い目をこすりながら運転席を見たら、真央さんが座っていた。
俺が起きたのを確認したのか、真央さんが運転をしながらバックミラーに映る俺を見る。
「悪い。起こしたか?」
「大丈夫ですよ。真央さんこそ疲れていませんか?」
俺は後部座席から助手席へ移動しようとした時、真央さんが慌てながら俺の体を押さえてきた。
「ばか! まだゲートを出ていないから、隠れてろ!」
「あ、すみません」
俺は後部座席へ寝転び、窓の外を見ながら真央さんへ話しかける。
「真央さん、今何時ですか?」
「えーっと、もうすぐ18時になるな」
「もうそんな時間なんですね……」
俺は真央さんから時間を聞いて、帰るのが遅くなることを母親へ連絡をする。
母親は佐々木さんからも帰るのが遅れるかもしれないという電話がきたと言っていた。
母親との通話が終わった時に、車がゲートを通過する。
「真央さん、助手席へ行ってもいいですか」
「ああ、もういいよ」
俺が助手席へ座ると、真央さんが複雑そうな顔で俺へ向ける。
真央さんの目を見たら、軽くため息をついて運転を続けた。
「お前がすごいのはわかっていたつもりだけど、全然わかってなかったわ……」
「どういうことですか?」
「それ、見ててみ」
真央さんがそれと言いながら、車のナビにはニュースが映っていた。
ニュースでは桜島が映されており、ワイバーンが海上から黒い防具を着けた人物によって次々と海へ落とされている。
黒い防具の人物はワイバーンを足場のように踏みつけながら、桜島へ近づいていた。
「これ撮影されていたんですね」
「そうだよ……まだ続きがあるから見てろ……」
真央さんはこれから何が映るのか知っているのか、興味深そうに見ている俺を横目で見てきた。
黒い防具の人物が桜島に降り立つと、海上にいたワイバーンもそれを追うように島へ集まり出す。
それから映像が少し早送りされた後、急に火口付近から雷のようなものが何回も落とされている。
「遠くから見るとこんな風に映るんですね」
「……この魔法がなんなのか誰もわからないらしいから、ばれないように誰かがいるときには使うなよ」
「誰も知らないんですか?」
「伊豆へ向かっている時のテレビで、専門家が何人か集まってお前の戦いを検証していたけど、訳が分からないって言っていたからな」
「こんなに多くの雷が降ってきたら驚きますよね」
真央さんは俺の言葉を聞いてから、遠い目をしながら運転をしていた。
映像の続きでは、桜龍が火口から現れている。
遠くから撮影していると思われる映像でも、この龍がはっきりと見えるほど大きいのがわかる。
「こんなに大きかったんですね」
「……」
真央さんはなにか気になることでもあるのか、何も言わずに俺の様子をうかがっている。
画面から桜色と赤い光が映されて、花火のように弾け飛んでいた。
「おお! すごい綺麗」
「お前さ!! 黙って聞いていたけど、全部お前がやったことだからな!!」
車が路肩に急停止して、真央さんが俺のおでこに指を突き付けてくる。
まだ言い足りないのか、俺が話す前に真央さんはわめき散らし始めた。
「先輩を救ってくれたのは本当に嬉しい! けど、こんなにでかい龍がいるなんて聞いてねぇし!! テレビの中継で見ながら心配していた私がばかみたいじゃないか!!」
真央さんは肩を上下させて、途中から涙を流しながら叫んでいた。
叫んで苦しそうな真央さんの背中をさすって、落ち着かせようとする。
俺が背中をなで始めたら、真央さんは体を震わせながら嗚咽を漏らしていた。
「龍が見えなくなってからなんの連絡もないから死んだと思っちゃったんだよ……」
「俺はそんな簡単に死にませんよ」
真央さんが泣き止まないので、しばらく背中をなで続けてあげた。
しばらくしたら、涙をぬぐってハンドルを持ち始める。
まだ赤い目で俺を見てから運転を始めた。
「とりあえず……みんなが心配をしていたから、ギルドに帰って顔を見せてやれよ」
「そうですね」
真央さんは車を発進させてからつぶやくように口を動かす。
「生きていてよかった……」
それから俺は真央さんの車に揺られながらギルドへ帰った。
テレビでは、俺の戦闘について的外れな意見を真剣に言っている解説者の人がいたので、今回使用したスキルはあまり人前で使わないように注意することを心に誓う。
ギルドでは佐々木さんや花蓮さん、杉山さんなど俺を見送ってくれた人たちが俺のことを待っていてくれた。
佐々木さんはすぐに俺から詳しい話が聞きたいと言ってきたので、ギルドの一室へ入る。
ギルド長が後から来たので、それから5人へ桜島の戦闘についての話をすべてした。
話を聞き終わった5人は何も口にせず、俺を見つめて動こうとしない。
そんな中、ギルド長は深刻そうに俺へ向かって頭を下げた。
「佐藤、すまん!! しばらく目立つような行動は避けてくれ!」
「どういうことですか?」
「今回の件が予想以上に反響があって、ギルドの電話が鳴りっぱなしなんだ」
ギルド長がうなだれるように俺へ訴えてくるので、なにが起こっているのだろうと余計に気になる。
俺が口を開こうとしたときに、佐々木さんが腕を組みながらギルド長を見る。
「ギルド長がすごい乗り気味に、テレビで佐藤くんが桜島を救うと断言するようなことを言ってしまったんだ」
佐々木さんは思い出すようにギルド長を見ながら話をしていた。
それを聞いたギルド長は反省をするように頭を抱えて、他の3人もうなずいている。
ギルド長は顔を上げて絞り出すように声を出す。
「あんな龍が出るなんて知らなかった……こんなことになるなんて思わないだろう……」
弱っているギルド長を助けるために、俺はギルド長の意見を尊重しようと思う。
ギルド長へ向かって声をかけると、その場の全員が俺を見てきた。
「具体的にはどれくらい大人しくしていればいいですか?」
ギルド長と佐々木さんは少し安心をしたように胸をなで下ろす。
ギルド長が安心したのか笑顔になり、俺へ期間を伝えてくれた。
「ひと月ほど、何も事件を起こさないでくれると助かる」
「わかりました」
俺は快くお世話になっているギルド長の言葉にうなずいて、目立たないようにしようと決意した。
(ひと月くらいなら気をつければ大丈夫だろう)
俺へ顔を向けている真央さんと花蓮さんが不安そうな顔をしていた。
花蓮さんを見てひらめいたことがあり、俺が大人しく学校に通えばひと月くらい何も起こさないと思う。
俺は花蓮さんを見ながら、思いついたことを口に出す。
「明日からちゃんと学校に通いたいと思います」
「はぁ!?」
俺の思いとは裏腹に、花蓮さんが信じられないようなものを見る目で俺を見ながら声を上げた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ご覧いただきありがとうございました。
現在カクヨムコン9に以下の作品で参戦しております。
ぜひ、応援よろしくお願いします。
【最強の無能力者】追放された隠し職業「レベル0」はシステム外のチート機能で破滅世界を無双する
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます