桜島攻略編②~未知との戦い~

 俺は勇んで桜色をした龍へ向けて走り出す。


 龍が俺を噛み砕こうと、大きな口を開けながら俺へ飛んでくる。

 俺へ迫ってくる龍に対して、テレポートして頭上へ移動した。


「でかい口を閉じてろ!」


 俺は龍の口を閉じるように、口をめがけて足を振り下ろした。

 龍が俺の蹴った衝撃で少し顔が地面に近づくが、ダメージはほとんど受けていないように感じる。


 そのまま長い胴体へ着地して、龍の体を走り出す。

 龍の体がうねり、俺を振り落とそうとしている。

 落ちないようにその場から飛び上がり、足元に広がる龍の胴体に向かって拳を全力で振り下ろす。


 俺の拳を受けた龍の体が大きくうねり、頭が俺へ向かってきていた。

 龍は俺の攻撃をものともせずに、口から桜色の炎を噴射してくる。

 俺も拳に魔力を込めて、龍のブレスを迎え撃つ。


「バーニングフィスト!!」


 俺の炎の拳は桜色のブレスを相殺し、その場に赤と桜の火の粉が広範囲に飛散する。

 今できる最大火力の攻撃を無力化されて、俺は次にこの龍にどんな攻撃をすればいいのか考え始めた。


「ハハっ!」


 この見たことがない龍と戦っている最中でも、俺の口からは自然と笑い声が漏れてしまう。


(未知の敵と戦うこの感覚が懐かしい)


 知っている敵でも、武器を使って戦うのと素手ではまったく攻略法が違う。

 さらに、まったく戦ったことが無い敵に対して、自分がどうやって攻略するのか考えることで、戦闘をしているんだということを実感できる。


「お前はどうやって倒せばいいんだ!? 殴り続ければいいのか!? 鱗をひきちぎればいいのか!? 俺に教えてくれよ!!」


 俺は考えうるすべての方法を自分の能力でできる限りのことを試しながら龍と戦う。

 たとえ、その結果自分が負けて死んだとしてもなんの後悔もない。


「俺に戦う喜びを思い出させてくれてありがとう」


 龍の体全体を全力で殴っても、龍が平然と空を飛んでいるように見える。

 自分の攻撃がまったく効いていないように思えて、俺はさらに打ち込むべく拳を握りしめた。

 再び、龍へ向かって全力で走り出す。


「殴って倒せないなら、倒せるまで殴り続けてやる!!」


 この世界に来てから簡単に倒せる敵と戦い続けていて、この感覚を忘れていた。


(俺は一瞬一瞬に自分のすべてをかけてモンスターと戦いたいから拳という手段を選んだ)


 拳に自分の全力を込めて、龍へ振り下ろし続ける。

 そんな時、龍を覆っていた一部の鱗が割れた。

 俺はその場所に自分の両拳を交互に打ち付け始める。


「ギャオオオオオオ!!!」


 鱗がはがれた部分から血しぶきが上がり、龍が痛みで叫ぶように鳴き声を上げた。

 血しぶきが上がった部分へ両手を突っ込み、龍の体を引き裂くように傷口を広げる。

 さらに右腕を振り上げて、魔力を込めた。


「バーニングフィスト!!」


 俺は龍の体の中へ炎の拳を打ち込む。

 龍の体が大きく膨れ上がり、俺の広げた傷口から裂けるように胴体が分断された。

 分断された龍は浮力を失い、地面へ落下し始める。


 龍の胴体に乗っていた俺はテレポートを行い、龍が地面へ追突するまえに地面へ戻った。

 すぐに俺の近くへ龍が落ちてきたので、体を半分にされた龍が動かないのか注視する。


 龍は体を引き裂かれてもまだ生きているため、胴体のちぎれた部分へ魔法を放つ。


「ライトニングボルト!」


 俺の両手から放たれた雷の束が龍に当たり、全身を震わせた。

 魔法が終わると、龍はそのまま動かなくなる。


(終わっちゃったか……)


 俺は桜色の龍に触りながら、俺に戦う理由を思い出させてくれた敵へ感謝をした。

 桜色の鱗を1枚ちぎり、記念で持っておくことにする。

 それから、この龍の名前を付ける。


「んー、桜龍オウリュウだな!」


 俺は桜龍の体を桜島の火口へ落として火葬することにした。

 なんとか桜龍の体を押して火口へ落とすことができた。


「よし! 帰るか!」


 さらに火口からモンスターが現れることも期待したが、まったく現れないので俺は帰ることにした。

 普通に帰還石で帰還をすると、ギルドで誰かにこの姿を見られる可能性がある。


 レべ天は帰る手段までは用意してくれていないようだったので、俺は目的地を思い浮かべながら魔法を唱える。


「ワープホール」


 俺の足元から俺の体を包み込むように白い光が現れて、俺の全身を包み込むと強く光り出した。

 あまりにもまぶしいので、目をつぶり、光が収まるのを待つ。


 光が収まってから目を開けて、周りを確認したら槍を刺した海底洞窟の入り口へ移動していた。


【ワープホール】はテレポートの上級スキル。

 Lv分の数だけ任意の場所を登録することができ、その場所まで移動することができる。


(このスキルのすごいところは、俺以外の人を対象にしてもその場所まで送れるので非常に便利な魔法だ)


 俺は海底洞窟の入り口の前に残しておいたポセイドンからもらった槍とスマホを回収した。


 スマホで電話をかけようと思ったら圏外だったので、伊豆高原フィールドの方向へ移動しながらスマホを眺める。

 森を歩いているのにまったくモンスターの気配がしない。

 俺は気になって周りを眺めたら、いたるところでモンスターが倒れている。


(俺こんなに暴れていたのか……)


 拳を振るうことに夢中しており、こんな惨劇になっているとは思わなかった。

 スネイクが縦に裂かれ、グリズリーの頭だけが無い状態で倒れているものが見られる。


(なんにも知らない人がこれを見たらどうなるんだろう……)


 俺は頭に巻かれた布を取りながら森を見回して、やりすぎたことを反省していた。

 倒れているモンスターがいない場所がないくらいモンスターがいたるところで倒されている。


 頭の布を取り終わった頃、ようやくスマホが圏内に入ることができたようだ。

 アンテナのアイコンを見ていたら、急にいくつもの通知がスマホに表示されてくる。


(壊れたか!?)


 スマホを呆然と眺めていたら通知が鳴り終わったので、通知の内容を確認する。

 主に父親や母親からメッセージや電話が来ていることの通知だった。


 俺は母親から送られていたメッセージへ、【無事にキャンプを終えそう】とだけ返信しておく。

 

 伊豆高原フィールドに近づくにつれて、血の匂いが濃くなっている気がする。


(フィールドで何を倒したかな?)


 倒したモンスターについてあまり覚えていないため、首をかしげながらフィールドへ向かう。

 フィールドに到着した俺は、その場に放置されているモンスターを見て唖然とした。


(こんなに倒していたのか……)


 グリズリーとワイルドボアの山がいくつかあり、フィールド上にはマンドラゴラやウォーウルフが倒れているのも見える。

 確実に俺が盾でマンドラゴラを倒した時以上のモンスターがここに倒れていると思われた。


(これどうしようかな……)


 とりあえず、帰るための手配をしてもらうために佐々木さんへ連絡をする。

 俺が電話をしたら、1コールも鳴り終らないうちに佐々木さんが電話に出てくれた。

 スマホから佐々木さんの慌てるような声が聞こえてくる。


「佐藤くんか? 今どこにいる!?」

「今は伊豆高原フィールドにいるんですけど……」

「さっきまで桜島にいたのに、なんでそんなところにいるんだ!?」


 俺は佐々木さんへワープホールのことや伊豆高原フィールドの状況を説明する。

 俺の話を聞き終わった佐々木さんは、ちょっと待つようにと言ってから誰かと話を始めた。


 俺が佐々木さんを待っている時に、目の前からウォーウルフが走ってくるのが見える。

 ウォーウルフは倒れているモンスターで走りにくそうにしながら、俺へ近づいてきていた。


 ウォーウルフが俺へ飛びこんでくるように牙を向けながら跳んでくる。

 俺は足を地面に打ちつけて【アースネイル】を放ち、躍りかかってきたウォーウルフの腹を地面から突き出された槍で貫いた。


 アースネイルは拳か足を地面へ打ち付けると、地面から土の槍が撃ち出されるように隆起する。

 ウォーウルフが土の槍に突き刺さったまま動かなくなると、佐々木さんからの声も聞こえ始めた。


「佐藤くん、今からモンスター回収チームがそっちへ向かうことになった」

「俺はどうすればいいですか?」

「太田さんの車を回収チームに紛れ込ませるから、それにまぎれ込んでほしい」

「わかりました。真央さんにできるだけ森へ近づいて止めるように伝えておいてください」

「ああ、伝えておく」

「それじゃあ……」

「待ってくれ」


 俺が電話を切ろうとした時にまだ何か言いたいのか、佐々木さんが俺を止める声を出してきた。

 スマホを切ろうとしていた手を止めて、佐々木さんへ何かあったのか聞く。


「どうかしましたか?」

「……桜島のモンスターを倒してくれてありがとう」

「気にしないでください」


 佐々木さんはしばらく黙ってから、俺へ感謝を伝えてくれた。

 桜龍と素敵な時間を過ごすことができたので、俺がお礼を言いたいくらいだ。


 俺はフィールドを後にして、入り口の近くの森へ身を隠して真央さんが来るのを待つ。

 地面へ寝転びながら、これからのことについて思いをはせる。


(これからあまり人がモンスターを倒していないフィールドやダンジョンには、俺が知らない未知のモンスターがあらわれるのかな……)


 横になった俺はすぐに寝てしまい、真央さんからの電話で起こされることとなった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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