第3章 ~拳士覚醒~

第3章導入編①~桜島最前線~

第3章の始まりの話になります。

よろしくお願いいたします。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺は桜島を防衛するために戦っている船を、待機室で指をくわえて眺めてしまっている。

 自分の船が整備中で、それが終わるまではここで待っているように指示をされた。


 なにもできない苛立ちをパイプ椅子へぶつけるように蹴ってしまう。

 そんな俺を乗組員の1人がのんきにテレビを見ながら注意してきた。


「船長、物にぶつかっても船は直りませんよ」

「そんなことわかってる!」


 俺を船長と呼んだのは、俺が一番信頼している部下だ。


(こいつがワイバーンの侵攻に気づかなかったら、俺たちは海の藻屑になっていただろう……)


 俺の船はワイバーンの出現と同時に基地を発進して、桜島を海から警戒をしていた。

 ワイバーンは毎年のように、大量に山からあふれ出てくる時期がある。


 桜島にいるワイバーンは桜色をしており、それが急に桜島の火口から現れる。

 理由は判明しておらず、俺はワイバーンが街を襲わないように海上で警戒を行う任務についていた。


(昔からワイバーンが島にあふれ出てきている風景が観光名所になっている)


 桜色のワイバーンが花、桜島が木と例えて、大きな桜の木を表現しているそうだ。


 今回の出撃も毎年のように、島を見ているだけで終わるだけだと思いながら出航していた。

 しかし、目の前にいる部下がいつもよりもワイバーンが島を離れているのに気が付いて、俺へすぐに後退するように進言してきた。


 部下は自分がこの後どうなってもいいから船を後退しろと俺へ言うので、俺はワイバーンを銃で迎撃しながら後退した。


 実際、他にも出撃していた船はその場に留まってしまい、数千のワイバーンに襲われて破壊されていた。


 今は待機していた船や戦闘機が出撃して、まだワイバーンが街へ上陸するのを防いでいる。


(これもいつまで持つのかわからない……)


 船からの迎撃はまだワイバーンに対して効果が見えた。

 だが、戦闘機からミサイルを撃っても数十匹のワイバーンを倒すだけで、その後すぐにワイバーンの波に飲まれて落とされていた。


 俺の船は後退したが、ワイバーンからの火のブレスをいくつも受けて損傷してしまった。

 俺はその修理が終わるのを今か今かと思いながら待つことしかできない。


(今、目の前ではワイバーンと数十隻の船が海上で戦っている)


 俺が窓から海を眺めているときに、テレビを見ていた部下が俺にテレビを見るように言ってきた。


「今、テレビを見ているような余裕があるのか!?」


 俺へテレビを見るように伝えてきた部下は、焦るように否定しながら言葉を続ける。


「船長! 静岡県ギルドからの緊急会見があるようです!」

「なんだと!?」


 静岡県ギルドといえばグリーンドラゴン討伐や富士山への接近の発表を行なった、今話題のギルドだ。

 そんな静岡県ギルドから発表が行われるというので、部下は俺へテレビを見るように言っているのだろう。


 俺は海から聞こえる戦闘音を気にしつつも、テレビの前に座る。

 テレビに映る静岡県ギルドのギルド長という人物が何を言うのか聞いてやることにした。


 テレビには白い髭をたくわえた初老の男性が映り、会見を行なっている。


「まずは、この放送が桜島を防衛している人たちへ届くことを祈ります」

「おう! 聞いてやってるぞ!」


 俺が怒りながら声を出すので、周りの部下はテレビから視線を外さない。

 俺はフンっと鼻を鳴らして、テレビを見直す。

 テレビの男性は最初の言葉を言ってから、少し間を空けて話を始める。


「今、鹿児島県のすべての県民がワイバーンの侵略に対して、驚き、戸惑っていることだろう」

「なんだ! 俺たちが頼りないとでもいうのか!?」


 テレビの男性は俺たちがワイバーンを倒せないから、県民を不安にしていると言っている。


(俺が戦いたい気持ちを抑えているというのに、こいつはなんにもわかっていない!!)


 俺は座っていた椅子を蹴り、テレビから離れようとした。

 その時に、テレビから信じられないような言葉が聞こえてくる。


「なので、私が最も信頼し、一番強いと思っている冒険者を1人派遣することにした」

 

 その言葉を聞いて、俺は自分の怒りを抑えることができなかった。


「お前は馬鹿なのかよ!? この状況で1人の冒険者だけを派遣!? 頭おかしいのか!?」


 テレビに向かいながら頭を叩いて言葉を放つ。

 その意見には同意の者もいるようで、会見の内容に落胆しているようだった。


(こいつはこの現場を見ていないから、こんなことを平然と言えるんだ!)


 俺は我慢ができなくなり、待機室から出て、迎撃用として用意されていた機関銃を持って港へ向かう。


 港へ出た俺が見た光景は、ほとんどの船が沈没してわずか数隻しか残っていなかった現状だった。

 まさに今、船のいない海上をワイバーンが鹿児島の街に向けて飛んで来ようとしている。


 俺は持っていた機関銃を一番先頭で飛んでいるワイバーンに向けて発射した。

 すぐに大量のワイバーンが俺へ向けて飛び込んでこようとしている。


「船長!! 逃げてください!!」

「俺はここを離れるわけにはいかない!! 俺が逃げたら誰が街を守るんだ!!」


 俺は残っているすべての弾をワイバーンへ向けて打ち続ける。

 俺が銃を撃ち尽くしても、先頭の1匹も倒せない。

 目の前から数百はいると思われるワイバーンの群れが俺へ押し寄せようとしていた。


 ワイバーンが近づいてきて、俺が死を覚悟して目をつぶる。

 しかし、いつまで経ってもワイバーンが俺を襲ってこない。


 俺がゆっくりと目を開けると、いきなり目の前へワイバーンの頭がつぶされた状態で落ちてくる。

 周りを見たら、ワイバーンの群れがいなくなっていた。


(なにが……起こっているんだ……)


 頭を粉砕されて目の前に落ちているワイバーンを見つめていたら、急に横から話しかけられる。


「あなたがワイバーンを引きつけてくれたおかげで、この街を救うことができます」


 声の聞こえた方向には、黒い防具を全身に着けて頭を覆うように巻いた赤い布をはためかせながら立っている人がいた。


「あんたは……」

「静岡県ギルドから桜島を制圧するために派遣されたものです」


 そう言いながらその人物は港の縁に立ち、桜島に向けて叫び始めた。


「ドラゴンもどきのトカゲども!! 今からぶっ殺してやる!!」


 右腕を突き上げるように上げながら叫んでおり、俺はその行動から目を離すことができない。

 そんな時、後ろから部下が俺のところまで来ていた。


「船長! 無事でよかったです!」

「お、おう……」


 俺は部下の言葉に返事をしながらも、目を黒い防具を着けた人を見続けた。


 すると、海上にいたワイバーンがすべてこちらへ向かってきているような感覚を覚える。

 船を攻撃していたワイバーンや、遠くから街を襲撃しようとしていたワイバーンがすべてこちらへ向かって飛び始めていた。


 すぐに今まで見たことがないような量のワイバーンが束となって飛んでくる。


「お、おい。あんた逃げないと死ぬぞ!」


 俺には目の前の人物にワイバーンが向かってきているような気がしたので、慌てて逃げるように声をかけた。

 しかし、俺の前に立っている人の布で隠された表情を見ることができないが、笑っているように言葉を放つ。


「大丈夫ですよ。あとは任せてください」


 すでに俺へ話しかけた人の真後ろへワイバーンの束が迫っており、俺は動くことができなかった。


「ごちゃごちゃとうっとうしいんだよ!!」


 目の前の人物が黒い拳を思い切り突き出すと、一直線に放たれた炎の塊がワイバーンを焼き尽くす。


(なんだ……今の攻撃は……)


 俺は見たことがない攻撃に目を奪われた。


(助けてもらった礼を言いたい!)


 礼を言うために、俺は拳を振り上げた人物へ名前を聞く。


「あ、あんたの名は?」


 目の前の人物がこちらを向いて、一言答えてきた。


「申し訳ありません。名乗る名がありません」


 俺へそう言い放ち、その人物は新たに現れていたワイバーンへ向かって跳んでいく。

 俺はその姿を見て、こう思ってしまう。


(あれが救世主か……)


 俺の横では、部下が同じようにその人物に目を奪われていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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