海底神殿攻略編⑦~海神ポセイドン~

 俺は歩きながら、巨大化してしまったポセイドンを見上げる。

 ポセイドンは嬉しそうに俺へ声をかけてきた。


「一也よ!! クラーケンを倒してくれてありがとう!!」

「ごめんなさい。声が大きいです……」


 大きくなったことで声まで大きくなり、凄まじい声量でポセイドンが俺を褒めてくる。

 耳をふさぎながらポセイドンへ声を小さくしてもらうように伝えた。


 ポセイドンは俺へ謝りながら、最初に会った時の大きさまで小さくなる。

 小さくなったポセイドンが、俺へ横に座るように笑顔で椅子を叩いていた。


 俺はポセイドンの嬉しそうな笑顔を見て、倒してよかったと思いながら椅子へ座る。

 武器を置いて椅子へ座った時、ポセイドンが驚くように俺を見ていた。


「お前、まさか守護神と会ったのか?」

「わかるんですか?」

「わずかだが、お前から守護神の力を感じるぞ……」


 ポセイドンは観察するように俺の体を見てくるので、先ほどのやりとりを思い出すように話す。


「クラーケンを倒したら格が上がったので、その時に祝福をしてもらいましたよ」

「守護神の加護を受けたのか!?」


 俺がレべ天から受けたのは祝福だと思ったけれど、ポセイドンはそれを加護だと言っていた。

 意味の違いがよくわからないので、驚きながら俺を見ているポセイドンに聞いてみる。


「加護ですか?」

「私たちのような存在が人へ力を渡すことで、その人は加護を受けるんだ」

「これがあってもなんにもできないって言われましたけど」

「そんなことはない!」


 ポセイドンが急に声を大きくして俺の言葉を否定してきた。

 しかし、すぐにポセイドンはそうかとつぶやきながら俺へ謝ってくる。


「すまない。おそらく今はなにもできないだろう」

「……担当する主が倒されていないからですか?」


 ポセイドンは深くうなずいて俺の言葉を肯定した。


「私の力もお前に与えよう」

「いいんですか?」

「お前にはその資格がある」


 そう言ってから、ポセイドンは俺へ自分の前でひざまずくように伝えてくる。


(まさか、ポセイドンともさっきと同じようなことをするのか……)


 俺はポセイドンがいつでも目の前に来てもいいように目を思いっきり閉じた。

 しかし、いつまで経ってもポセイドンが近寄ってこないので、うっすらと目を開け始める。


 ポセイドンは立ち上がって、俺の前で持っている金色の槍へなにかをつぶやいていた。

 ポセイドンと槍がわずかに光り、その光がすべて槍の先端へ集まる。


 その槍を俺の肩に乗せて、ポセイドンが俺を見てきた。


「佐藤一也へ私の力を授ける」

「ありがとうございます」


 槍に集まった光が俺を包む。

 俺は自分の体が光りに包まれる不思議な感覚を味わった。

 すぐに光が収まり、ポセイドンが疲れたと言いながら椅子へ座る。


 俺もポセイドンの横へ座り、何ができるようになったのか聞く。


「これで俺はなにができるようになったんですか?」

「水の中で自由に動くことができる」

「そんなことができるようになるんですか!?」


 ポセイドンは自分の力が褒められて嬉しいのか、照れながら俺を見る。


「私は一応海の神だから、それくらいできて当たり前だ」

「ポセイドンって神だったんですね……」


 俺の目の前にいる魚人が神だと聞いても誰も信じられないだろう。


(ポセイドンの力を受けて、直接説明を聞いた俺でも少し怪しんでしまった……)


 ポセイドンに心の中で謝ってから話を聞くために耳を向ける。

 ポセイドンは俺の様子を気にすることなく話を続けていた。


「そうだ。その力がお前に馴染んで、私が力を取り戻せばもっとできることが増えるぞ」

「水中を動き回れる以上のことですか?」

「できるようになったら教えてやろう」

「……よろしくお願いします」


 それから花蓮さんと真央さんが巨体化した姿を見て驚いていたことを説明したら、ポセイドンが少し悲しそうな顔をする。

 ポセイドンは直接謝ることができないからと、俺へ謝っておいてほしいと言っていた。


 話が終わったので、神殿を出ることをポセイドンへ伝える。


「それでは、俺はこれでここを出たいと思います」

「そうか……これを持っていけ」


 ポセイドンは持っていた三又の槍を俺へ渡そうとしてきた。

 俺は槍を見ながら、本当にもらってもいいのか確認する。


「さっきも大切そうに使っていましたけど、いいんですか?」

「お前のおかげで本来の槍を持てるようになったから、それはもう使わない。お前が使うなら丁度良いサイズだろう?」


 ポセイドンは後ろに置いてある大きな槍を見ながら俺へ語りかけていた。

 俺は両手でポセイドンから槍を受け取る。


「ありがとうございます」

「お前の力になることができてよかった」


 俺は置いてあった武器を手に取り、3人がいるところへ戻る。


 3人はずっと入り口のところでこちらの様子をうかがっていた。

 俺が近づくと、佐々木さんが恐る恐る俺へ話しかけてくる。


「やはり……きみは、あれと話ができるのか?」

「できますよ。みなさんももっと強くなれば話せるかもしれないです」


 それを聞いた3人はあっけにとられながら俺を見ていた。

 俺が話し終わってからすぐに神殿の奥を見ながら3人が悲鳴のような声を出す。


 俺も顔を向けたら、ポセイドンが再び巨大化していた。

 怯える3人とは逆に、ポセイドンは大きな声で俺へ笑顔で話しかけてくる。


「おーい! 入り口へ戻るなら送ってやるぞ!」

「お願いします! ありがとうございます!」


 俺がポセイドンに対して声を出すと、真央さんが戸惑いながら俺を見ていた。


「お前、何をお願いしたんだ?」

「あの方が入り口まで送ってくれるらしいです」

「はあ!?」


 俺は3人へ行きましょうと言ってからポセイドンの方へ歩き出す。

 3人は俺に付いていくのか相談を始めた。

 そんな中、佐々木さんが真央さんと花蓮さんを見て、決意したように宣言する。


「2人とも、佐藤くんを信じてみよう」


 真央さんと花蓮さんは顔を見合わせてから、強くうなずいて佐々木さんを見る。


「そうしよう」

「そうしましょう」


 ポセイドンのところへ近づくだけなのに、なぜか3人は覚悟を決めて歩き始めた。

 俺は歩きながらポセイドンを見て、少しだけポセイドンに同情する。


(見た目で損をしている……)


 俺がポセイドンの座っている椅子へ近づき、3人は隠れるように俺の後ろにいた。


(全然信じていない)


 ポセイドンが不思議そうに俺の後ろにいる3人を見ていたので、気にしないように声をかける。


「ちょっとまだ怖いみたいなので、早めに入り口へ送ってください」

「そ、そうか……送るぞ!」


 ポセイドンは後ろに置いてあった巨大な槍を俺たちへ突き付けた。

 それを見て、3人の顔から血の気が引いてしまう。


 巨大な槍を突き付けられた恐怖で3人は腰を抜かしてしまった。

 俺はポセイドンに再度気にしないように謝ってから声をかける。


「ごめんなさい。怖いみたいなので、お願いします……」

「お、おう……」


 ポセイドンの槍が光り、俺たちを包む。

 俺たちの体に光りが当たったら、すぐに洞窟の入り口へ飛ばされた。


 俺は3人を見て、ポセイドンが悲しそうにしていたことを伝える。

 入り口にいるのが信じられないように、3人は口を開けながら周りを見回していた。


「3人とも姿だけで判断しすぎです。優しい方でしたよ」


 俺の言葉を聞いて、花蓮さんが俺を見ながら静かに口を開く。


「やっぱり、一也くんはおかしいよ……」

「普通です。帰る準備をしましょう」


 俺は花蓮さんから言われたことを気にせずに、洞窟の近くに置いてあったリヤカーへ武器を入れる。

 ポセイドンからもらった槍だけがどうしても入らなかったので、持って歩くことにした。


 俺が片付けを始めてからようやく3人も動き始めて、帰る支度を始める。

 佐々木さんが俺の持っている槍を見ながら近づいてきた。


「佐藤くん、その槍は?」

「さっき送ってくれた人からもらいました」


 俺の言葉を聞いて、花蓮さんと真央さんが作業の手を止めて俺の持っている金色の槍を見る。

 3人とも興味がありそうだったので、俺は笑顔で声をかけた。


「これ、持ってみますか?」


 花蓮さんと真央さんは全力で顔を左右に振って、佐々木さんも遠慮するとつぶやいている。


 そんなやりとりをしながらも片付けが終わったので、伊豆高原フィールドへ戻るために移動を始めた。


 3人は精神的に疲れたのか、一言も話さずに歩き続けている。

 そんな時、佐々木さんのスマホへ着信が入った。

 進むのを止めて、佐々木さんが電話に出られるように周囲の警戒を行う。


「どうぞ」


 俺が佐々木さんへ声をかけて、ようやく佐々木さんが電話に出る。


 スマホで誰かと話を始めた佐々木さんは、すぐにスマホを持っていない方の手で口を覆いながら俺を見てきた。


「佐藤くん、来てくれ!」

「はい」


 俺は真央さんと花蓮さんに警戒を任せて、佐々木さんの近くへ行く。

 佐々木さんは2人が聞こえないような小さな声で、俺へ話しかける。


「今、ギルド長から連絡があって、鹿児島県の桜島にいるモンスターが境界線を越えて街を襲おうとしているらしい」

「代わってください」


 俺は佐々木さんから奪い取るようにスマホを取り、ギルド長と話をする。


「ギルド長ですか? 詳しいことは聞きません。あなたが悲観的に見てどれくらい持ちそうですか!?」

「佐藤か!? 悲観的に!? どういうことだ!?」


 ギルド長はいきなり俺から質問を受けて混乱しているようだった。

 しかし、今は1秒たりとも無駄にはできない。


「ギルド長!! あなたの目で見てどれくらいもちそうなのか教えてください!!」


 俺は電話の相手がギルド長であることを知りつつも、怒鳴るように聞いてしまった。

 真央さんと花蓮さんは俺が急に怒鳴ったので、何事かと思ったようでこちらへ来ている。

 しばらくの沈黙の後、ギルド長は絞り出すような声で答える。


「……もって2時間。早くて1時間半で大多数のモンスターが防衛線を越えて街を破壊し始めるだろう」

「それだけ聞ければ十分です。これから佐々木さんへ相談するので、後で聞いてください」

「おいどういう……」


 俺は通話を終了させて、佐々木さんの顔を見る。

 佐々木さんは困惑しながらも俺の顔をしっかりと見てくれていた。


「佐々木さん、これからすぐに帰還して俺の言う通りのことをしてください」

「わかった。何をすればいいんだ?」


(事前にこういうことが起こるかもしれないと佐々木さんへ話しておいてよかった)


 俺はこれから佐々木さんに準備してほしいことの説明を始める。


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