海底神殿攻略編⑥~全力魔法詠唱~

「怒れ雷!! ライトニングボルト!!」

「砕け雷!! ライトニングボルト!!」

「踊れ雷!! ライトニングボルト!!」

「裁け雷!! ライトニングボルト!!」


 祈りを込めながら全力で魔法を唱え続け、ようやくクラーケンの体から緑色の光が消えてくる。


(後1割!)


 確実にクラーケンに対してダメージを与えられていた。

 クラーケンの目が血走り、本来なら巨体を振り回しながら暴れまわる発狂状態に変わっている。


 俺は最後まで確実に魔法を唱え続けた。


「倒せ雷!! ライトニングボルト!!」


 俺の魔法を受け続けた、クラーケンが水の泡となって消えてゆく。

 この場所には俺と佐々木さんだけとなり、俺はその場に崩れ落ちる。


(ようやく終わった……)


 俺がそう思った瞬間、頭の上から光が見えた。

 俺の頭上から、レべ天が表れて俺の前へゆっくりと降りてくる。


 全身が光に包まれているので、レべ天を知っていても神々しく思えてしまう。


(レべ天ってやっぱり綺麗だな)


 俺が感動しているのに、レべ天は俺を見るなりいきなり口を開く。


「格が上がるのが早すぎますよ!!」

「……だめなの?」

「だめじゃないけど、あなたモンスターキラーすぎよ!!」


 レべ天は前と同じように頭を抱えながら取り乱している。

 それよりも、レべ天がポセイドンから守護神と呼ばれていることを疑問に思っていた。


「レべ天ってさ、守護神って呼ばれてるの?」


 守護神と聞いた瞬間、レべ天は急に咳払いをして姿勢を正した。


「佐藤一也よ。ここまでよく頑張りましたね」

「いやいや、今さら無理だから……」


 俺が真顔で否定したので、レべ天の顔から冷や汗のようなものが出てきてしまう。

 我慢ができなかったのか、レべ天が俺へ泣くようにすがりついてくる。


「私はどうするのが正解なのよ!?」


 俺の胸に飛び込んできたレべ天が顔を上に向けて、涙目になって俺へ聞いてきていた。

 俺にはレべ天が美人すぎて直視できないので、顔をそらしながら話をする。


「普通にすればいいよ。普通に」

「普通が分からないからこうなっているんでしょ!」


 その時に、佐々木さんがこちらへ歩いてきている。

 佐々木さんはレべ天を目を白黒させながら見ていた。


「佐藤くん……その子は……」

「あ!? えい!」


 レべ天が俺から離れて、何かを佐々木さんへ投げつける。

 それに当たった佐々木さんがその場で固まってしまった。


「ごめんなさい。もう世界を止める力は残っていないの」

「いや、いいんだけど……死んでいないよね?」

「ええ。私を見たことを忘れて、固まってもらっているだけよ」


 そんなことを簡単に行うレべ天がすごいと思いつつ、富士山のことが気になる。


「富士山は大丈夫なの?」

「今は私の分霊が見ているから大丈夫。それよりも聞いてほしいことがあるの!」


 レべ天は焦るように俺の顔を見てきて、何かを伝えようとしてくれていた。

 俺は少しでもレべ天を落ち着かせるように、目を見て話をする。


「落ち着いて教えてくれる?」

「ここから西の方で諦めかけている人がいるの!」

「諦めかけている人?」

「ええっと、私みたいな存在のことよ」


 レべ天の話では、この場所のようにダンジョンなどでモンスターを倒してくれなくて、モンスターを抑える力が弱くなってきているポセイドンのような存在がいるようだった。

 

「わかった。場所と時間はわかるか?」

「ごめんなさい。詳しいところまでは……」


 申し訳なさそうにレべ天が俺へ謝ってくる。

 しかし、一刻を争うのなら、移動するのにも時間がかかるし、場所もわからないなら行動できない。

 レべ天は俺の存在をこの世界へ連れてくるくらいなので、俺のいる場所くらいなら簡単に移動できると考えた。


「レべ天、場所が分かったら俺を飛ばすことってできる?」


 祈るように両手を合わせてから、レべ天は俺を見る。


「今の私なら1度だけできます」

「なら、場所が分かったら飛ばしてもらいたい。どうすればいい?」

「この高さまで屈んでくれますか?」


 レべ天は手で高さを示して言ってきたので、俺はその高さまで言われた通りに屈んだ。

 すぐにレべ天が俺の頭を優しく両手で持ち、額を密着させてくる。

 俺はレべ天の顔を呼吸が聞こえるような距離で見てしまい、恥ずかしくなりすぐに目を閉じた。


 それからすぐにレべ天が俺から手を離す。

 俺はゆっくり目を開けて、目の前のレべ天を見上げた。

 レべ天は微笑みながら俺を見ている。


「あなたへ私の祝福をお渡ししました」

「祝福?」

「はい。私の力の一部をあなたへお渡ししたんです」


 またもレべ天から何かをもらったようだが、前と同じように俺の体に変化はない。

 俺が不思議そうに体を眺めているのを見て、レべ天が焦るように話す。


「すいません。今は意思の疎通ができるくらいで、他のことはできないです……」

「それだけできればいいよ。ありがとう」


 俺はレべ天へお礼を言って、笑いかける。

 俺へ答えるようにレべ天もほほ笑んでくれた。


 その後、すぐにレべ天が懇願するように俺を見てくる。


「私にはこれくらいしかできません……どうかよろしくお願いします」


 レべ天が最後は涙目になりながら、言葉をかろうじて続けて俺へ頭を下げる。

 俺はレべ天へ一言だけ口に出す。


「任せろ」

「はい!」


 レべ天は安心したような表情になり、消えようとしていた。

 俺はすでに消えようとしているレべ天へ焦りながら聞かなければいけないことがある。


「ちょっと、待って。佐々木さんは元に戻るの?」

「安心してください。私が消えたらすぐに元に戻ります」

「じゃあ、またな」


 俺はレべ天へ手を振って消えるのを見送る。

 レべ天は消える寸前まで俺へ笑顔を向けてくれていた。


 レべ天が消えてから、地面に倒れている佐々木さんへ近づいて持っていたカメラを確認してみる。


(やっぱりドジ天だったか……)


 カメラにはしっかりと俺とレべ天が話している様子が写されていた。

 俺は苦笑いをしながらその写真を消去して、佐々木さんへ返す。


 俺がカメラを返して立ち上がった瞬間に佐々木さんが声を上げる。


「え!?」


 佐々木さんはすぐに上半身を起こして、周りの状況を確認しているようだった。

 混乱している佐々木さんへ、俺は何事もなかったように話しかける。


「佐々木さん、すいません。最後にクラーケンの足が佐々木さんへ届いてしまいました……」

「そう……だったのか……?」


 俺はごまかすように頭を下げて佐々木さんへ謝罪を行う。

 佐々木さんは俺へ頭を上げるように言った後、油断していた俺が悪いと反省させてしまった。


「それでは、戻りましょうか」

「そうしよう……」


 佐々木さんは何度か自分の体を見回して、自分の状態を確認してから歩き始める。

 俺は心の中で佐々木さんへ謝りながらこの場所を後にした。


 神殿に戻ろうと中へ入ろうとした時、神殿の内側から花蓮さんと真央さんが叫んでくる。


「一也!! 助けてくれ!!」

「一也くん!! ここから出られないの!!」


 俺と佐々木さんはすぐに神殿の入り口へ近づいた。

 入り口では、真央さんと花蓮さんが透明な壁に遮られているようにこちらへ来ることができていない。

 2人は何もない空間を必死で叩いて出ようとしている。


「ちょっと2人とも落ち着いてください」


 必死に俺と佐々木さんへ訴えてくる2人を落ち着かせようと声をかけても、うろたえており話にならない。


 俺は何が2人をこんなに追い詰めているのだろうと、2人の隙間から奥を覗いたら理由がわかってしまった。


 花蓮さんと真央さんが必死で俺を神殿に入らないようにしてくれていた。

 2人に謝りながら押しのけるように神殿へ入り、神殿の奥に向けて足を進める。


 神殿の奥には、この大きな神殿が似合うように巨大化したポセイドンが鎮座するように座っていた。


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