冒険者入門編⑦〜まさかの約束〜
受付へ戻ってから、清水さんからギルド証を見せることでダンジョンやフィールドに入れるようになる話や、そこへ向かうバスの定期便の話をされた。
俺が話の内容を確認するようにうなずいていると、清水さんに最後にと言われて石を渡される。
なんだろうと思いながら石を見ていたら、清水さんが説明をしてくれた。
「その石は
「ワープ……」
「ギルド入会時に必ず渡しているもので、ひとつ100万円するから注意してね」
「100万も……」
俺がそう呟くと、清水さんは俺の石を持っている手を両手で包みながらこちらを真剣にみつめてくる。
(清水さんに見つめられると少し恥ずかしい)
清水さんが一向に手を放してくれないので、清水さんを見ると俺を心配そうに見ていた。
「この石はね最後の希望なの」
「希望?」
「これがあれば絶対にここへ帰ってこれるの。だから、必ず持つようにしてね」
「はい」
「約束よ」
清水さんは俺のことを心から心配してくれているようだった。
そんな感じたことのないような感情を俺は初めて持つ。
清水さんは帰還石の詳しい説明をしてくれた。
○
帰還石を使うとどこにいてもここへ戻ってこられる。
帰還石は使ったらお金を払って新しい物と交換しなければならない。
使った場合は必ず帰還石を買ったところへ報告をすること。
なくすと1000万円の賠償金が必要になる。
○
「以上になるけど、何か質問はありますか?」
「いいえ、特にありません」
俺がそう伝えると、清水さんは一息ついて俺へ笑顔を見せてくれる。
「今日はお疲れ様でした! またよろしくお願いします!」
「こちらこそ、ありがとうございました」
清水さんへお礼を言いながらギルドを出ると、近くのベンチに太田さんが座っていた。
太田さんは俺の姿を確認して、手を振りながらこちらへ近づいてくる。
「説明終わったか?」
「終わりました。待っていてくれたんですか?」
「ああ、ちょっと伝えたいことがあってさ……」
なんだろうと思いながら太田さんを見ていると、いきなり頭を下げた。
俺は何が起こったのかわからず、太田さんへ近づき説明を求める。
「どうしたんですか!?」
「ごめん! もう1度名前を教えてくれ!」
「え?」
太田さんがまったく頭を上げてくれないので、先ほどまで座っていたベンチへ移動して話を聞くことにした。
すると、太田さんは謝りながら、清水さんから紹介された時に俺の名前を聞いていなかったことを説明してくれた。
こんなことを直接俺に言わなくても後で清水さんへ確認すればいいだけのことなのに、太田さんは俺へ謝って直接聞いてくれている。
(こういうことをしてくれる人は信用してもいい)
俺はもう1度自己紹介をするために、太田さんへ握手を求めながら名前を名乗った。
「佐藤一也です。これからよろしくおねがいします」
「っと……太田真央。よろしく」
太田さんは躊躇しながら握手を返してくれる。
その後、連絡先を教えてもらえた。
(俺のスマホに初めて家族以外の人の情報が入った)
少し嬉しくなり、太田さんへ挨拶をして帰ろうとしたら、太田さんがちょっと待ってほしいと言ってきた。
「なんですか?」
「紹介したい人がいるんだ」
「俺にですか?」
「そう。明日は時間の都合とれるか?」
先ほどの集団の件もあり、太田さんから急に紹介したい人がいると言われて少しどうしようかと迷った。
でも、太田さんが俺にそういう風な人を紹介するとは思えない。
俺は快く返事をして、太田さんが紹介する人と会うことにした。
「いつでも大丈夫ですよ」
「わかった。場所はどこがいい?」
「俺は第1地区の区役所付近に住んでいるので、できればそこらへんがいいです」
「わかった。それなら第1区役所で待ち合わせにしよう」
「お願いします」
太田さんはそれじゃあと帰ろうとしていたので、1つ聞きたいことがあったので今度は俺が呼び止める。
「太田さん!」
「なんだよ」
「太田さんって、普段は清水さんからまおちゃんって呼ばれているんですか?」
「うるせえ……」
俺のその言葉を聞いた太田さんは、少し恥ずかしそうに軽く俺の額を指で弾いて俺の質問に答えることなく去っていった。
(俺も帰るか……)
もうすっかり日が暮れて、夜になってしまった。
帰りの電車に乗るために駅のホームで待っていると、電話がかかってくる。
電話に出ると区役所からだった。
話の内容は、この前伊豆で引き取った物のオークションが終わったから代金を取りに来てほしいとのことだった。
(明日は丁度区役所に行くし、タイミングがいいな)
俺は電話で明日行きますと返事をして、通話を終了した。
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