冒険者入門編⑤〜たかり撃退〜

「どうしてそんなことが言えるんですか?」

「どうしてって?」

「だから、なんで太田さんよりあなたたちと一緒に行った方がいいのか教えてください」


 俺の言葉に集団は動揺しているようだ。

 たしかに普通の12歳だったら、自分よりも大きい人に自分が囲まれたら素直にうなずくだろう。

 ただ、目の前の集団からはなにも脅威は感じられない。

 存在感で例えるなら、一角ウサギのほうがまだましなレベルだ。

 別の男性は、カウンターに置かれたトサカの山をちらりと見てから話し始める。


「俺たちと行けばこんな量の解体もパパッとすませちゃうぜ」

「本当ですか?」

「ああ、全員が解体のプロだからな」


 その男性はゆらゆらゆれて、にやけながらそう言っている。

 そんな話し方をされると全然一緒に行く気にならない。

 ただ、自分の感覚が鈍っているかもしれないことも考慮する。


(本当に解体のプロなのだろうか?)


 それを確認したいため、俺はその中の女性が解体ナイフを持っていることに気付いた。


「すみません、あなたの解体ナイフを見せてください」


 急に指名された女性は動揺しながら、俺へ解体ナイフを渡してくれた。

 俺は受け取った解体ナイフをよく見ると、刃先に欠けている部分がある。

 こんな手入れもしていないような解体ナイフでモンスターの解体なんてできるはずがない。


(なんだ、やっぱり俺の勘は間違っていなかったな)


 目の前の集団が俺を利用しようとしている集団だと確信した。

 そして、俺は持っていたナイフで思いっきり自分の左腕をかき切る。


「は?」


 集団は目の前で起きていることが理解できない。

 俺は切った左腕とナイフを見せつけながら、集団へ脅すように訴える。


「こんなナイフでモンスターが解体できるとは到底思えない!」

「え? え?」

「俺は人間の腕も満足に切れないようなナイフを持つ人がいる集団なんて、まったく信用しない!」

「それよりもお前腕が!」


 俺の腕をみると血が勢いよく地面へ落ちていた。

 俺は自分の腕にヒールをかけて、傷を治す。

 その様子をみて、さらに集団は困惑する。


「あなたたちは俺の傷を見て、誰も治そうとしてくれませんでした」

「……」

「ナイフもダメ、支援もできない。そんな集団に太田さんが劣るなんてありえない!」


 俺の言葉を聞いて、集団は逃げるように去っていく。

 俺はその中の1人を呼び止めて、解体ナイフを押しつけるように返す。

 床を見ると大量の血で汚れており、俺はどうやって片付けようか考え始める。

 そんな時、横から太田さんが駆け寄ってきた。


「お前、大丈夫か?」

「大丈夫ですよ」

「これ、使えよ」


 太田さんは心配してくれて、タオルを貸してくれた。

 俺はそのタオルで床を拭こうとしたら、太田さんに止められる。


「違うって、お前の腕を綺麗にするんだよ」

「そっちでしたか」


 腕についていた血は特に気にしていなかったため、綺麗にする気なんてなかった。

 そもそも、着ている服がコカトリスの返り血で汚れている。

 それならタオルを使わせてもらっても申し訳ないので、腕を服で拭き、タオルを太田さんへ返す。

 しかし、俺がタオルを返そうとしたものの、太田さんは強引に俺の腕を拭く。


「なんでこんなことするんだよ……」


 太田さんはそう呟きながら俺の腕を拭いてくれる。

 俺は先ほどまでのやり取りが太田さんには関係ないと思い、何も言わないでいる。

 そんなやり取りをしている時に奥から清水さんが戻ってきた。


「お待たせしました。ってあれ? なんでまおちゃん泣いているの!?」


 清水さんは慌てながら太田さんへ駆け寄り、背中をなでている。

 清水さんの言葉を聞いて、太田さんの顔を見たらなぜか泣いている。


「わかんね!」


 怒っているのかわからないような声で太田さんは言っていた。

 俺の腕を拭き終わり、太田さんはどこかへ行こうとしている。

 俺はまだお礼を言っていないので、太田さんを呼び止める。


「太田さん待ってください」

「なんだよ」

「今日はありがとうございました。またよろしくお願いします」


 俺は深々と太田さんへ向かってお辞儀をする。

 お辞儀を終えて太田さんの顔を見たら、顔を真っ赤にしていた。

 そんな時、清水さんは思い出したように俺と太田さんへ言葉をかける。


「太田さんも帰るのはちょっとまってください。奥で佐藤くんと一緒に来るようにと、ギルド長が呼んでいます」

「わかったよ……」


 太田さんはそう言いながら、ギルド長の部屋へ向かっていった。

 俺も太田さんの後に続き、その後ろでは清水さんがトサカを抱えて歩いていた。

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