海底神殿攻略編④~海底神殿の守護者~
俺はすぐに神殿の奥で腰を抜かしている魚人に近づく。
(俺が見たことがないモンスターなどいない! それなら、さっきの言葉からこの人? はこのダンジョンからモンスターが出ないようにしてくれているはずだ)
魚人は俺を見たまま目を見開いており、まったく動かない。
俺は魚人を起こすために手を差し伸べる。
「驚かせてすみません」
「あ、ああ……」
魚人は俺の手を握り返して、ゆっくりと立ち上がった。
(少し俺よりも大きいくらいか)
魚人が立ち上がった後に、先ほどまで座っていた椅子へ座りなおす。
立ち上がってから座るまでずっと俺から目を離さずに見てきていた。
今までモンスターを抑えてくれていた魚人へ敬意を示すために、俺は魚人に対して改めてあいさつを行う。
「先ほどは驚かせてしまい申し訳ありません。俺は佐藤一也です。今日はこのダンジョンの攻略に来ました」
俺が言い終わってからお辞儀をして、魚人の目をまっすぐ見返す。
魚人は泣きそうな顔で口を開く。
「お前が……守護神が言っていた我らの希望なのか……」
魚人は泣きながら、座っている大きな椅子の空いているスペースを叩いて俺へ座るように言ってきた。
椅子に座ってから、魚人の言っていた言葉について質問をする。
「守護神って誰ですか?」
「知らないのか!?」
「すみません、俺をここへ連れてきたのはレべルアップ天使だと思います」
俺は魚人に言われたことを思っている通りに答えたのに、魚人は考え込むように黙ってしまう。
(俺をここへ連れてきたのはレべ天だろ? あいつが守護神なんて呼ばれるような感じかな……)
そんなことを考えていたら、魚人の名前を知りたくなる。
「申し訳ないのですが、あなたのことはなんとお呼びすればいいですか?」
「ああ、私のことはポセイドンと呼んでくれ」
「わかりました」
目の前のポセイドンは、俺の持っていたポセイドンのイメージとは全く違う。
(もっと大きくてかっこいいと思っていたのに……)
俺が勝手に落胆しているのを見たポセイドンは、レべ天について聞いてくる。
「お前の言っている天使はどんな特徴がある?」
「美人でドジそうです。後、あなたの言葉が分かるようにしてくれました」
「それができるのなら……その方が守護神だ……」
ポセイドンは俺の言葉を聞いて、なぜか悲しそうな表情をする。
(やっぱりあいつは残念天使なのか?)
ポセイドンの反応を見て、やはりレべ天には少し抜けているところがあることを察する。
話を変えるために、この先の主について聞くことにした。
「この先には、【クラーケン】がいるんですよね?」
「ああ、そうだ。私はあいつを遠い過去からずっとおさえて続けている」
ポセイドンは抑えるために力を使いすぎたせいで体が縮んでしまったと言っていた。
俺は主の正体がわかったので、倒すためにクラーケンの場所へ向かおうとする。
「それでは、クラーケンを倒してきます」
「待て。今クラーケンと戦えるのは2人だけだ」
「どういうことですか?」
「クラーケンを抑えるために結界を張った。その結界を通れるようにできる力が2人分だけしか残っていない」
ポセイドンは離れている3人に目を向けて、俺へ話をしている。
俺は1人だけでもよかったけれど、記録のために佐々木さんを指定して結界を通れるようにしてもらう。
「それなら、俺とあの男性を通れるようにしてください」
「わかった」
ポセイドンは俺と佐々木さんへ手を向けて、目を閉じた。
すぐにポセイドンの手から白い光が俺と佐々木さんへ向かってくる。
「佐々木さん! その光は避けないでください!」
佐々木さんが避けてしまわないように注意をしてから、ポセイドンへ顔を向ける。
「これで通れるようになった」
「ありがとうございます。それでは行ってきます」
俺は椅子に置いていたダガーを手に取り、椅子から立ち上がろうとする。
しかし、クラーケンに向かう俺を止めるようにポセイドンが腕をつかんできた。
「ま、待ってくれ!」
「……今度はなんですか?」
「お前、さっきからさっさと行こうとしすぎじゃないか?」
「早く倒してほしいんですよね?」
「そうだ。だから、協力できることはないか?」
「それなら、あの2人のことをお願いします」
俺は真央さんと花蓮さんをポセイドンに守ってもらいたいことを伝えた。
ポセイドンは笑顔でそれくらいなら任せろと俺へ胸を張る。
「この神殿を出たら左側にクラーケンを閉じ込めている空間がある」
「わかりました。ありがとうございます」
ポセイドンに進む方向を教えてもらったので、一礼をしてから離れる。
ポセイドンの近くから帰ってきた俺を、3人は絶句しながら見ていた。
そんな様子を気にすることなく、俺はこの後のことを連絡する。
「ここから先は俺と佐々木さんだけで向かいます」
すぐに花蓮さんが我に返って俺へ反論をしてきた。
「私たちは役立たずってこと?」
花蓮さんの言葉で真央さんもにらんできてしまう。
俺はポセイドンに言われたことをそのまま説明することにした。
「あの人が言うにはこの先に結界があって、さっきの光で俺と佐々木さんだけ通れるようになったんです」
「……それって本当なの?」
花蓮さんはポセイドンを疑うような目で見ながら俺へ聞いてきた。
3人にはポセイドンの言葉がわからないらしいので、俺が説得をするしかない。
「本当です。戦う俺とそれを記録する佐々木さんだけが進めます」
さらに何かを言いかけていた花蓮さんを真央さんが止める。
真央さんは俺の目を見てきた。
「私はお前を信じる。どうすればいいんだ?」
「モンスターが来ないようにあの人が守ってくれるので、ここで待っていてください」
「わかった」
真央さんは花蓮さんを抑えたまま少し離れてくれる。
花蓮さんが真央さんへまだ言いたいことがあったと抗議していた。
俺は佐々木さんを見て、杖を渡すように声をかける。
「佐々木さん、何度も申し訳ないんですが、杖を貸してもらってもいいですか?」
「ああ、別に構わない……」
代わりに俺の持っていたダガーを佐々木さんへ渡す。
受け取ったダガーを戸惑いながら佐々木さんが見ていた。
「無いとは思いますが、万が一、近くに何かがきたらそれで切ってください」
「なにかがくるのか?」
「おそらく……なので、記録をするのに集中しすぎないようにしてくださいね」
「わかった……」
佐々木さんへ注意喚起をしてから、俺は神殿を出るために歩き始める。
佐々木さんは俺の言葉を理解するのに数秒かかってから、ようやく俺を追いかけてくれた。
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