拳士式ブートキャンプ編⑩~ダンジョン発見~

(レッドベアを早く倒してダンジョンを見つけたい!)


 期待を胸にふくらませながら、レッドベアの周りにいるグリズリーを掃討する。

 

「ファイヤーアロー!」


 俺は両手のダガーに魔力を込めて、魔法を唱えた。

 魔法によりレッドベアの周辺からグリズリーがいなくなる。


 俺はすぐにレッドベアの頭上へ向かってテレポートを行い、両目へダガーを突き刺す。


 突き刺したダガーをレッドベアの頭をえぐるように深く差し込み、ダガーへライトニングボルトを行うための魔力を込めた。


 レッドベアが全身を激しく震わせて、その場で崩れ落ちそうになる。

 俺はダガーを引き抜いて、後ろへテレポートを行った。


 レッドベアが倒れ、その場に残っていたグリズリーは逃げるように離れ始める。

 俺はグリズリーを見ながら、まったく別のことを考えていた。


(魔法って、名前を叫ばなくても発動するよな……)


 テレポートを行う時や、レッドベアへ突き刺してから魔法を使う時に魔法の名前を言っていない。


 俺はグリズリーを追撃するように、ダガーを向けてライトニングボルトをイメージしながら魔力をダガーに込めた。

 ダガーからはグリズリーを追いかけるようにライトニングボルトが放たれる。

 次に、魔力を込めた状態で魔法を唱えてみた。


「ライトニングボルト!」


 先ほどよりも少しだけ太い稲妻がグリズリーを追撃していた。

 魔法の名前を言った時の方が魔法の威力が上がっている。


(この効果は適用されているのか……)


 スキルなどの名前を叫んだり、魔法の詠唱を行うと威力が上昇する。

 魔法の詠唱にいたっては、祈りを込めながら行うことで最大1.5倍の威力が出る。


(魔法主体で戦っていた人たちの中で、思いが込めやすいオリジナルの詠唱が流行っていたな……)


 詠唱は言葉だけではなく、どれだけ思いを込められるかで威力が変化するためスライムを相手にして、様々な詠唱を試していた人のことを思い出してしまった。


(懐かしいな……)


 逃げるグリズリーを眺めながら感傷にひたっている時に、いきなり後ろから殴られたような衝撃に襲われる。

 モンスターかと思い、すぐにモンスターのいない前方へ向かってテレポートを行う。


 頭を押さえながらすぐに後ろを見たら、そこには真央さんが怒るような顔をしていた。

 俺は歩いて近づきながら、真央さんへ苦情を言う。


「すごく痛いんですけど……」

「思いっきり殴ったからな!」

「えー……」


 俺が抗議の視線を真央さんに送っていたら、佐々木さんが俺へ近づいてくる。


「一也くん、邪魔ってはっきり言わなくてもいいだろう……」


 佐々木さんは落胆したように俺へ言葉をかけてきた。


(2人はレッドベアと戦いたかったのか!?)


 俺が困惑している様子が分かったのか、佐々木さんはため息をつきながら俺を見る。

 真央さんが激高しながら俺の胸ぐらをつかんできた。


「1人でなんでもしようとするんじゃねえよ!」


 2人から話を聞いていたら、俺が1人でレッドベアを対処しようとしたことに怒っているらしい。

 2人の後ろから花蓮さんが俺の様子をうかがっているのが見えた。


 俺は真央さんの手を振り払ってリヤカーへ戻るために足を動かす。

 真央さんが俺を止めるように声をかけてきた。


「まだ話が終わってないぞ」

「レッドベアに対して、何かできたんですか?」


 冷たく言い放つ俺の言葉を聞いて、佐々木さんと真央さんが黙り、花蓮さんが頭を押さえている。

 言いたいことを言ってきた2人へ、俺の意見を突き付けた。


「実際、赤いグリズリーが近づいているのに気付いていなかったですよね?」


 2人が黙ったままなので、俺はリヤカーのところへ戻ろうとする。

 その時に、花蓮さんが俺へ言葉をかけてきた。


「一也くん、それだと言い方が悪すぎ」

「そうですか?」


 花蓮さんは頭を抱えながら、俺の目を見る。


「あなたは、私たちが安全に強くなれるように行動してくれているんでしょ?」

「そうですけど」

「私たちも必死で強くなろうとしているの、あなたに邪魔呼ばわりされたら傷つくわ」

「でも……」


 花蓮さんは強く俺の口を指で押さえつけてきた。

 花蓮さんが俺の目を見つめて言葉を続ける。


「確かに今の私たちはあなたの足手まといかもしれない。だけど、私たちにできることは精一杯やりたいの」


 花蓮さんが俺の目を見て、真剣に俺へ伝えようとしてくれていた。


 不安そうに見つめる花蓮さんの目を見て、俺はうなずいた。

 そんな様子を佐々木さんと真央さんも見ている。


「早く強くなるためにもっとモンスターと戦いましょう」


 それを聞いた3人が同じように苦笑いをしながら俺を見ていた。


 俺はすぐにリヤカーへ戻って3人へ森を進むことを提案する。

 佐々木さんがスマホを見て、時間を確認していた。


「進むとしても、後2時間程度だ」

「わかりました」


 俺は3人へ方角を示して、先に進んでもらう。

 3人は俺が迷わずに方向を言ったことに疑問を持ちつつも、慎重に進み始めてくれた。


 俺もリヤカーを引きながら、この先にあるものへ思いをはせる。


(フィールドの入り口で強いモンスターが現れるのと、フィールド内で現れるのでは意味が違う)


 比較的強いモンスターは門番のような役割で配置されている。

 

(フィールドの出口はすぐ近くにあるはずだ。そして、その先にはダンジョンがある!)


 歩き始めてすぐに、先行していた3人が森の中で足を止めている。

 俺は3人に近づいて、自分の考えが合っていたことを確認した。


 そこには地中へ続いているように開いている大きな洞窟の入り口がある。


 3人がその入り口に近づくことなく、眺めるように立っている。

 リヤカーを3人の近くで止めて、ダガーを取り出した。


「この中がどうなっているのか見てきます。みなさんはここでキャンプの準備をしてください」


 俺はレッドベアの件もあるので、再度確認のためにいいですよねと聞いた。

 少ししてから、ゆっくりと佐々木さんがうなずいたため、洞窟へ向けて歩き出す。


 洞窟の中はひんやりとした空気が肌に触ってくる。

 走って先へ進んでいくと、大きな螺旋をえがきながら下へ降りていくように感じた。


 洞窟を進んでいる俺の顔の横を手裏剣のようなものが通過する。

 すぐに立ち止まり、俺へ向かってきたものを見た。


(スターフィッシュか!)


 ヒトデのモンスターであるスターフィッシュ。

 俺の顔よりも大きな星の形をしており、とがっている部分が鋭利になっている。


 少し先の壁を見たら、いたるところにスターフィッシュが張り付いていた。

 俺はダガーを両脇の壁に向けて、魔法の準備を行う。


「走れ雷! ライトニングボルト!」


 通常よりも威力の増したライトニングボルトが洞窟の壁を走る。

 スターフィッシュが壁から落ちるのを見て、俺はさらに先へ進む。


(あんまりしっくりこなかったな……)


 螺旋の出口について洞窟を抜けた先には、海中の中にいるような感覚になる空間が広がっていた。


(このダンジョンは海底神殿だ)


 洞窟を抜けた先に海中があり、おそらくこの先には神殿があると予想できる。

 ここにいるモンスターについても見当がついたため、俺は洞窟へ足を向けて入り口に帰ることにした。


(明日はダンジョンアタックを行う!)


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