拳士式ブートキャンプ編⑨~伊豆の森の先にあるもの~
「佐々木さん、本気で言っていますか?」
「ああ、俺も上を目指したい」
真央さんと花蓮さんは佐々木さんの言葉で驚いたような声を出している。
俺は佐々木さんの持っているスキルが知りたいため、佐々木さんに手を出すように言う。
佐々木さんは戸惑いながらも、手を出してくる。
佐々木さんの手を握り、スキル鑑定を行う。
すると、手から受け取った佐々木さんのスキル情報が頭に浮かんでくる。
◆
体力回復力向上Lv8
銃熟練度Lv8
短剣熟練度Lv4
剣熟練度Lv2
精密射撃Lv8
鑑定Lv4
◆
俺は佐々木さんへ確かめるように鑑定したスキルを口にすると、佐々木さんは顔に冷や汗をかき始める。
横にいた真央さんが目を疑うように俺へ顔を向けていた。
佐々木さんが一向に口を開かないので、間違っているのかと思いながら佐々木さんの手を離してから顔を見る。
そんな中、花蓮さんが疑いながら俺へ言葉をかける。
「一也くん、本当にスキル鑑定なんて使えるの?」
「使えると思います……他の人にやったことないけど」
初めて他人に対してスキル鑑定を行ったため、自分の判定結果に自信が持てない。
そんなことを考えていたら、佐々木さんが重い口を開いた。
「……合っている」
「本当ですか!?」
「ああ……」
俺の合っていて嬉しかった気持ちとは逆に、佐々木さんの表情がひきつる。
真央さんが佐々木さんへ本当かどうか確かめるように聞いていた。
「本当に合っているのか?」
「そうだ」
「マジかよ……」
真央さんは言葉を失ったように俺を見たまま話さなくなる。
佐々木さんは俺へ確かめるように言ってきた。
「佐藤くんは、スキル鑑定の講習を受けたのか?」
「そんな講習があるんですか?」
俺はそんな講習を聞いたことが無いので、質問をしてきた佐々木さんへ質問を返してしまった。
花蓮さんも興味深そうに佐々木さんを見ている。
佐々木さんはため息をついてから、分かるように説明を始めた。
「スキル鑑定は、スキルについての知識を深めて、あらゆるスキルについて知っていなければ習得できない」
横目で俺を見ながら佐々木さんが話を続ける。
真央さんも疑うような視線で俺を見ていた。
「そのための講習を受けても、スキルを習得できる確率は1割以下だ」
「そんな感じなんですね」
俺には関係ないことなので、少し興味が薄れてきた。
佐々木さんが急に俺の両肩をつかんで、顔を覗き込んでくる。
「それを受けてないのに、なぜきみはスキル鑑定が使えるんだ!?」
「使えるもんは使えるので……」
拳を最大限使えるようにあらゆることを調べつくしたため、スキルに関する知識なら俺は誰にも負けない自信がある。
(前に勉強しましたって理由を言うわけにはいかないしな……)
佐々木さんの圧力に負けそうになったため、話を強引に変えることにした。
俺は佐々木さんの両手を強引に振り払って、佐々木さんに使ってもらう武器を探そうとする。
手を振り払われた佐々木さんは何があったのか分からないように俺を見た。
他の2人も俺がどのように動いたのか見えなかったようだ。
俺は気にせずに、リヤカーの荷物をあさり始める。
そんな俺を心配するように佐々木さんが声をかけてきた。
「目立つから、あまりスキル鑑定が使えることも言わない方がいい」
「わかりました」
佐々木さんが真剣に俺へ伝えてくるので、一応心に留めておくようにする。
(スキル鑑定でも目立つなんて不思議な世界だ)
荷物からようやく佐々木さんに使ってほしい物を取り出して、佐々木さんへ渡す。
「佐々木さんはこれを使ってください」
「これを……私が……?」
俺は佐々木さんへミスリルの杖を渡した。
佐々木さんはなぜか少し手を震わせながらミスリルの杖を受け取る。
佐々木さんの反応が気になったので、杖を眺めている佐々木さんへ言葉をかけた。
「佐々木さん、どうかしたんですか?」
「いや、これを使わせてもらってもいいんだな?」
「? ええ、それでモンスターを殴ってください」
佐々木さんはわかったとうなずきながら、ミスリルの杖を持つ。
(どうみても金属バットだ……)
杉山さんには悪いと思いつつも、大人がこの杖を持つと金属バットにしか見えなかった。
佐々木さんがミスリルの杖を持っているのを、真央さんと花蓮さんが羨ましそうに見ている。
(どうも佐々木さんに杖を渡してから雰囲気がおかしい)
俺はリヤカーの荷物を整理しながら、3人へ話しかける。
「そんなにその杖が珍しいですか?」
佐々木さんははっと気づいたように俺を見てきた。
その反応もおかしいだろうと思っている時に、息を整えた花蓮さんが佐々木さんの持っている杖を触る。
「これが羊の化け物やグリーンドラゴンを倒した杖なんだ……」
花蓮さんが触ったのをきっかけに、真央さんまで杖を触り始めた。
佐々木さんが2人へ持ってみるかと聞いていて、花蓮さんが恐る恐る杖を持つ。
真央さんも見慣れているもののはずなのに、感動するように杖を持っていた。
(なにが起こっているんだ……ただの杖だぞ……)
杖を囲む3人を見て、少し恐怖を覚え始めた。
俺の表情を読み取った佐々木さんが謝りながら理由を言ってくれる。
「この武器に憧れていたんだ」
「その杖にですか!?」
佐々木さんの言葉が信じられないので、他の2人に聞いたら佐々木さんと同じ気持ちだという。
俺は愕然としながら、森を進むために声をかけた。
「それなら、佐々木さんは思いっきりその杖でモンスターを殴ってください」
「任せてくれ!」
佐々木さんは意気込みながら森を進み始める。
俺がリヤカーを引こうとした時に、花蓮さんが近づいてきた。
何かと思って花蓮さんを見たら、俺にしか聞こえないような声で話してくる。
「私も杖を使う時ってくる?」
「……ブレイクアタックができるようになったら」
花蓮さんはそう聞いて、小さくガッツポーズをしてから先へ進んでいった。
真央さんも花蓮さんの後でいいから使わせてほしいと言ってくる。
俺はそれを聞きながら、杉山さんに頼んで杖を新しくするための相談することを決めた。
3人が進み始めてから、スネイクやワイルドボアなどが数回現れた。
すべてのモンスターを3人で対応してくれたので、俺は本当に見ているだけの時間を過ごす。
(日が傾き始めたからこの辺で進むのを止めようか……)
警戒しながら進んでいる3人へ声をかけようとした時、横から4本の足で走ってくる数体のグリズリーが見えた。
俺が声をグリズリーのことを伝えようとした瞬間、真央さんが大きな声を出す。
「グリズリー2体が右から来ている!」
それを聞いた瞬間、すぐに佐々木さんと花蓮さんは散開して、グリズリーを待ち受ける。
真央さんがグリズリーを見ながら2人へ指示を出していた。
「私が1体を引き付け続けます! その間に2人はもう1体を頼みます!」
真央さんの言葉に佐々木さんと花蓮さんがうなずいてから動き出す。
真央さんは先に走ってきていたグリズリーの爪を避けながら、脇腹へメイスで攻撃を行う。
2体目のグリズリーも真央さんに向かって走っていた。
しかし、走っている最中に佐々木さんの杖をフルスイングした一撃を顔に受けて、真央さんから目を離す。
俺は3人の戦っている姿を見ながら、リヤカーから手を離して荷物からダガーを取り出した。
(おそらくこのグリズリー2体は大丈夫だろう)
真央さんもグリズリーの攻撃をうまくかわしながら攻撃を行い、もうすぐ2人はグリズリーを倒しそうだった。
しかし、その後ろからレッドベアが来ていることには気づいていない。
(この2体は俺たちの足止めのためだったか……)
レッドベアが統制を取っていることに驚きつつも、3人の邪魔をしないように俺は素早く移動する。
「レッドベアが来ています! そっちは任せます!」
俺は3人へ声をかけてからレッドベアと戦闘を開始した。
真央さんの引き付けていた2体目と戦いながら、佐々木さんが俺へ声をかけてくる。
「こっちが終わったら援護へ向かう!」
「邪魔なのでこないでください!」
木々が邪魔をして前回有効だった上空からの奇襲が使えないので、何十体倒したのかわからないほどグリズリーを倒しながら、レッドベアへ攻撃を試みている。
視界の端に3人が心配そうに俺を見ていたので、その場で見ているように声を出す。
「こっちは大丈夫です。そっちへ数体行くかもしれないので、注意しておいてください!」
俺は再びレッドベアが現れたことで、この先にダンジョンがあることを確信した。
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