拳士式ブートキャンプ編⑧~伊豆の森進行~

 翌日の朝、朝食を食べてからすぐに出発するための準備を始めた。


 今日も真央さんと花蓮さんに前を任せて、俺と佐々木さんその後ろでリヤカーを押す。

 前日の夜、この森にいるモンスターについて説明をしたため、2人は周りを気にしながら足を進める。


 花蓮さんは剣と盾を持ち、真央さんはメイスと盾を持っている。

 2人がどうしても盾を使いたいと言うので持たせてあげた。


 俺はリヤカーを引きながら、この森について考え始めた。


(入り口にレッドベア、森の中にはグリズリー、スネイク、ワイルドボア……んー)


 この森がどんなフィールドだったのか思い出しそうなときに、前から花蓮さんの声が聞こえてきた。


「イノシシが出たわ!」


 花蓮さんの前方には3匹のワイルドボアが現れている。

 3匹は花蓮さんか真央さんを見ているようだった。

 俺は後ろから、昨日の夜と同じ内容のことを2人へ伝える。


「ワイルドボアは突進しかしてこないので、よく見れば倒せますよ!」


 俺と佐々木さんは邪魔にならないように離れて2人の戦いを見ることにした。

 俺たちが離れている時にワイルドボアが3匹同時に動き出す。


「花蓮ちゃん、右!」

「はい!」


 真央さんの声で花蓮さんは右に避けて、真央さんが左に避けていた。

 それからすぐに2人はワイルドボアを追いかけるように後ろから攻撃を行う。


(これならワイルドボアは2人の敵じゃないな)


 真央さんが花蓮さんへ指示をしながら冷静に攻撃を行っているため、2人がワイルドボアを倒すのを安心して見ていられる。

 そんな時、2人の背後からスネイクが近づいているのが見えた。

 俺が迎撃へ行こうと動こうとして、佐々木さんがライフルを構える。


「スネイクは撃ってもいいだろう?」

「ええ。お願いします」


 佐々木さんへ返事をした直後に弾ける音が森に響いて、スネイクが動かなくなった。

 俺は2人が動揺しないように、声をかける。


「後ろからモンスターが来ていただけです! 2人はワイルドボアをお願いします!」


 2人が同時に返事をして、ワイルドボアの動きを見ていた。

 他にも来ていないか周りを見回してから佐々木さんと話をする。


「佐々木さん、銃って便利ですか?」


 佐々木さんは俺に聞かれていることにどう答えればいいのか迷うように口を開いた。


「まあ、扱いやすいからな……」

「そうですか」

「そんなに銃を使いたくないのか?」

「まあ……スキルも精密射撃とか2丁拳銃とかしかないですよね?」

「精密射撃はともかく、2丁拳銃のスキルを知っているのか!?」


 精密射撃は銃の熟練度Lv5で取得できて、両手でスムーズに銃を取り扱えるようになる2丁拳銃のスキルはLv10で取得できる。

 そのLv10で使用できるようになるスキルを知っていることに佐々木さんは驚いているようだった。


「佐々木さんは2丁拳銃を使えるんですか?」

「いや……銃の熟練度Lvが8だから無理だ」


 佐々木さんはそれから銃の熟練度Lvがあるレベルを境に上がりにくくなることを相談してくる。

 俺は答えを知っているけれど、今教えていいものかどうか悩む。


(佐々木さんならいいか)


 佐々木さんだけに教えようと声をかけた時、佐々木さんが2人の方向を見たまま固まっている。


 俺も2人が戦っている方へ顔を向けたら、ワイルドボアは倒していた。

 しかし、新たに森の奥からグリズリーが現れている。


 佐々木さんが援護をするために銃を構えるのを止めた。

 2人もグリズリーを見ていたため、そのまま声をかける。


「俺と佐々木さんは援護をしないので、そのままグリズリーも倒してください!」


 佐々木さんが馬鹿な!と言いながら再度銃を構えようとする。


「佐々木さんは2人が諦めたら援護をお願いします!」

「しかし……」


 真央さんにはどうしてもグリズリーを倒してほしい。

 俺は2人が動くのを信じて待つ。


 真央さんは深呼吸をした後、花蓮さんへ顔を向ける。


「花蓮ちゃん、行こう!」

「行きましょう!」


 2人は覚悟を決めてグリズリーへ向かって走り始めた。

 そんな俺へ佐々木さんが心配するように顔を向けてくる。


 2人が離れたので、佐々木さんへ追いかけましょうと言ってからリヤカーを引き始めた。

 歩きながら佐々木さんへ銃の熟練度の話を含めて話をする。


「佐々木さんはどれだけ銃のことを考えながら銃を使いましたか?」

「……すまない、きみの言っている意味が分からない」

「2人が戦っているのを見てください」


 2人は真央さんがグリズリーの攻撃を避けて、そのすきに花蓮さんがグリズリーへ攻撃をしている。


 今、真央さんがグリズリーから腕で薙ぎ払われたのを盾で防ぎながら吹き飛ばされていた。

 真央さんが飛ばされたので、花蓮さんへ目を向けたグリズリーへ、すぐに戻ってきた真央さんがメイスで腹を叩き付ける。

 攻撃を受けたグリズリーはふたたび真央さんに向かって攻撃を始めた。


 その光景を見て、佐々木さんが信じられないようなものを見るような顔をしている。

 俺は2人から目を離さない佐々木さんへ話を続けた。


「あの2人は一生懸命、自分に今何ができるのかと考えながら戦っています」

「……」

「銃のトリガーを引くだけでは、熟練度のLvは上がらないと思います」

「どうしてだ?」

「銃について考えていないからですよ」


 先ほどの言葉に戻り、佐々木さんは黙ってしまう。

 俺は自分のやってきたことを佐々木さんへ伝える。


「俺は持っているものを最大限使えるように考えています」

「それはどういうことだ」


 佐々木さんが理解できないような目で俺を見てくる。

 俺は具体的な例で説明をすることにした。


「たとえば盾ですが、盾は攻撃を防ぐためだけのものではありません」

「それはお前だけだろう……」

「他の人もできますよ。真剣にやろうとしないだけです」

「……」

「銃があるから、誰もそんなことを考えようともしませんからね」


 佐々木さんはそれから黙って、2人の戦いを眺め始める。

 俺はグリズリーから顔をそらさずに話をしていたので、2人がグリズリーを倒しかけているのを知っていた。

 すでにグリズリーの動きは鈍り、真央さんには攻撃が当たりそうにない。


「銃でなにができるのか全力で考えれば熟練度は上がります」


 俺の言葉と同時にグリズリーが倒れて、2人はグリズリーが動かないことを確かめてから戻ってきた。

 こちらへきた2人の目には自信が宿り始めている。


 俺は拍手をして迎えても、2人はまったく嬉しそうにしない。

 2人へ飲み物を渡した時にようやく花蓮さんが口を開く。


「やっと1体よ」

「どういうことですか?」


 花蓮さんは飲み物を飲んでから、悔しそうに俺の言葉に答える。


「あなたが一瞬でやれることを、私たちは2人でようやくできるの。1体倒したくらいで満足してられないわ」


 花蓮さんの言葉を聞いて、真央さんも同じようなことを言う。


「お前に付いていくって決めたからな。熊1体に退いていられないさ」


 そう言った真央さんの表情は明るく、何かが吹っ切れたような顔をしていた。

 それを見た佐々木さんが俺を向いて口を開く。


「佐藤くん、相談がある」

「なんですか?」

「俺も2人と同じように戦わせてくれ」


 俺へ言う佐々木さんの目には、俺が何を言っても退かないという意思が見られた。


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