拳士式ブートキャンプ編⑦~キャンプ初日夜~
佐々木さんはすぐにリヤカーから荷物を取り出し始める。
佐々木さんと花蓮さんの2人でテントを張るらしい。
俺と真央さんは乾いた小枝を拾ってくるように佐々木さんから指示をされた。
小枝を拾いながら、近くにいる真央さんへ声をかける。
「佐々木さんってこういうことに慣れているんですかね?」
「わからないけど、冒険者学校の授業でもこういうことやるから慣れているんじゃないか?」
「なら、真央さんもわかります?」
「私は苦手なんだよ……」
真央さんはそう言いながら枝を拾い続けている。
具体的にどのくらいの量とは言われていないので、真央さんと合わせて両手で抱えるくらいの量を拾った。
枝を抱えてテントを張っている場所へ向かっている時に、変な香りがしてくる。
真央さんを見ても特に気にしていないようだ。
「真央さん、なにか変な香りがしませんか?」
「ん? ああ、これはモンスター避けの香を焚いているんじゃないか」
「そんなものあるんですね……」
「なかったらどうする気だったんだよ……」
「見張るつもりでした」
モンスター避けの香なんてものがあるのかと驚きながら、佐々木さんたちのいる場所へ戻る。
そこには2つのテントが張り終わっており、石をいくつか持ってきており、たき火を行う準備をしているようだった。
佐々木さんは俺と真央さんが持っている小枝を受け取り、木を組み始める。
妙に佐々木さんが手慣れているので、作業をしている佐々木さんへ話しかけた。
「佐々木さんって、こういう作業は得意なんですか?」
「趣味がキャンプなんだ」
俺と話しながらも、佐々木さんは手を止めることなく楽しそうに作業を進めている。
佐々木さんが用意してくれた簡易的な椅子に座り、俺を含めた3人が佐々木さんの作業を見守ってしまった。
それから滞ることなく作業が進み、佐々木さんの作業が終わる頃には日が暮れた。
佐々木さんから指示を受けながら夕食の準備を行う。
夕食は手の込んだものではなく、温めるだけやお湯を入れるだけなど簡易的なものだった。
今は夕食が終わり、4人でたき火を囲んでいる。
俺はレッドベアについて詳しく知るために、真央さんへ顔を向けた。
「真央さん、思い出させるのも申し訳ないんですが、前に赤いグリズリーが出た時にもフィールドでモンスターを倒していましたか?」
佐々木さんが入れてくれたコーヒーを飲んでいた真央さんが俺の言葉でうつむいてしまう。
真央さんの様子を見た佐々木さんが代わりに口を開く。
「直後に聞き取りを行った報告書には、クラスでフィールドのモンスターを倒していたと書かれていた」
「なるほど……」
「なにかわかるのか?」
俺が考えた素振りをしたので、佐々木さんが俺へ聞いてくる。
前に両親と来たときにグリズリーが現れたこともふまえて、俺の予想を話す。
「おそらく、フィールドでモンスターを倒しすぎると森から赤いグリズリーがフィールドへ下りてきます」
俺の予想を聞いて、佐々木さんは腕を組んで考える。
隣にいた花蓮さんが腑に落ちなさそうに俺を向く。
「でも、今日は私と真央さんで数体のモンスターしか倒してないけど、どうしてあいつが出たの?」
「ああ、それなら……」
「前に一也くんが大量にマンドラゴラを倒したからだろう」
俺の言葉をさえぎるように佐々木さんが、最後にそうだろ?と言いながら言葉を放ってきた。
俺はうなずいて、佐々木さんの言葉を肯定する。
「なので、今後赤いグリズリーの被害が出ないように、フィールドでモンスターを倒した後には森へ近づかないように注意をお願いします」
「ああ、ようやく原因が判明してよかった」
真央さんが佐々木さんの言葉に失望しながら、口を開いた。
「あんなことがあったのに分かっていなかったのかよ……」
「本当にすまない。何度か冒険者を森へ派遣しても、まったく赤いグリズリーが現れなかったんだ」
「……」
それから全員が黙ってしまったので、俺は立ち上がって荷物からダガーを2本取り出す。
誰かになにかを言われる前に、佐々木さんへこの香りについて話を聞く。
「佐々木さん、この香りが届く範囲にはモンスターがいないんですよね?」
「あ、ああ……そのはずだ」
「わかりました」
それを聞いた俺は、3人から離れるように森を歩き始める。
急に俺が暗い森へ歩き始めたので、止めるために佐々木さんが声をかけてきた。
「佐藤くん、どこへ行くんだ!?」
「自分の目で見ないと信じられないので、本当に来ていないのか確かめてきます」
3人から止められるような声をかけられたが、俺は無視して夜の森へ入るように歩き始めた。
佐々木さんからどうしても行くというのならヘッドライトを着けるようにと言われたため、頭にライトを着ける。
3人から離れてからすぐに妙な香りがしなくなったので、まずはこの範囲内にモンスターがいないことを確かめたい。
近くの木をダガーで切りつけてから、香りが漂っている境目を確かめるように歩く。
佐々木さんに言われた通り、夜の森はまったく先が見えない。
ライトの光を頼りに歩きながら、お香について考える。
(どんなモンスターにも効くとは思えない)
未だにお香の効果を信用することができなかったので、注意深く森を探索している。
鼻を頼りに境目を歩いていたら、自分が印をつけた木が見えてきた。
(本当にいないのか……)
目印をつけた木のそばに立ち、お香の効果に感心してしまう。
(それなら逆に、ここから離れればモンスターはいるということだな!)
俺は森に入ってからモンスターを見ていないので、何がいるのか調べるために香りから離れるように走り始めた。
走り始めてからすぐに目の前に大きな岩のような影が見える。
俺が飛び越えるために近づいた時、岩のようなものが音を立てながら動く。
走るのを止めて動いたものへライトの光を当てたら、大きなイノシシが牙を見せながら俺を見ていた。
(ワイルドボアか、でかいな……)
俺の目の前では、牙を見せつけるように口を開けながら呼吸をしているワイルドボアがいる。
トサカのように生えている髭と、たくましい牙が特徴の2mほどあるイノシシのモンスター。
(こいつはにおいに敏感だから近づかないのか……)
ワイルドボアは俺へ突進するように、土を蹴り上げながら突っ込んできた。
(こいつの攻撃は突進のみ。俺の相手じゃないな)
ただ、この突進はワイルドボアよりも大きな岩石を頭で砕くほど強烈な攻撃のため、避けながら全力で胴体を蹴って地面へ転がす。
ワイルドボアがもがいている間にその場を離れて、別のモンスターを探すために探索を続行する。
ワイルドボアに会ってから30分ほど走っても、モンスターに出会うことはなった。
俺がその場に立ち止まり、帰ろうとしたときに地面からこすれるような音が聞こえてくる。
音が聞こえた方角へライトを向けたら、長くて薄い緑色のものが自分へ向かってきていた。
すぐに持っていたダガーを構えて、ライトで見える範囲に注目する。
俺の近くまで来たときに、そいつが俺へ飛びかかってきた。
弾くようにダガーで切り払い、自分へ向かってきたものへ光を当てる。
(スネイクだ)
ポイズンスネイクとは違い、毒を持たない蛇のモンスター。
体長も2mには届かない程度であまり長くない。
ただ、口の中の歯が発達しているため、噛みつかれたときはポイズンスネイクよりも厄介な敵。
(蛇も確か嗅覚が発達していたな)
俺は森にいるモンスターを確認したため、スネイクを切り払ってテントへ戻ることにした。
テントへ向かう途中でグリズリーに出会ってしまったため、ダガーで処理を行う。
3人がキャンプをしている場所に戻り、森で見かけたモンスターについて説明した。
それを聞いた真央さんと花蓮さんは頭を抱えて、佐々木さんは顔に青筋を立てている。
俺の話が終わってからすぐに寝る準備をして、男女別のテントへ分かれた。
テントの中には人数分の寝袋が用意してある。
それに入ってから、俺はしばらく横にいる佐々木さんから夜に長い間単独行動をしたことを叱られていた。
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