拳士式ブートキャンプ編⑤~フィールド行進~

 俺の言葉を聞いて、真央さんがメイスかと言いながら俺からメイスを受けとる。

 花蓮さんは自分の剣と、俺から借りているミスリルの盾を取り出したので、盾を取り上げた。


「今日は使わなくていいですよ」

「……わかったわ」


 花蓮さんは眉をひそめるが、不満を口にせずに俺の言葉に従ってくれる。

 佐々木さんも持ってきた銃を取り出していた。


 今日、俺は積極的に狩りへ参加しないため支援を行う。

 荷物を真央さんが持ってきた大きなリヤカーへ積み込み、俺がリヤカーを引き始めた。

 佐々木さんには俺の横から、2人が危なくなったら援護をしてもらうように頼む。

 

 荷物を出し終わったので、マイクロバスを見送る。

 そして、準備を終わった2人を見た。


「それでは、行きましょうか」


 花蓮さんと真央さんに俺の前へ出るように言い、2人に先行してもらう。


「花蓮ちゃん、行こうか」

「はい!」


 真央さんが花蓮さんに声をかけながら歩き出す。

 花蓮さんは剣を握り締めて、真央さんに続いていた。


(心の準備はできているようでよかった)


 2人がここで行かないようだったらプランを変更するつもりだったので、ひとまず安心する。


 フィールドに出たら、一見何もいないように思えてしまう。

 しかし、2人は油断することなく、入り口からフィールドを見回してから足を進める。


 その時、前方からウォーウルフが走ってくるのが見えた。


(ここへ入ったら毎回あいつ来ていないか?)


 俺は今まで3回ここへ入り、毎回ウォーウルフがすぐにくるので待っているのではないかと考え始める。


 先行している2人もウォーウルフに気付き、相談を始めた。

 花蓮さんが先に声を出して、焦るように真央さんへ声をかける。


「真央さん、前から来ています! 私、行きます!」

「あ、ああ……」


 花蓮さんが走り出し、ウォーウルフへ向かっていく。

 しかし、真央さんはメイスを持っている手が震え、その場から動かない。

 佐々木さんが真央さんへ声をかけようとしていたので、俺は佐々木さんを止める。


 今、俺から真央さんへかける言葉は1つしかない。


「俺に真央さんの覚悟を見せてください!」


 真央さんは一瞬俺を見た後、震える体を両手で押さえる。

 その奥では、花蓮さんがウォーウルフと戦いを始めていた。

 花蓮さんの姿を見た真央さんは、すぐに花蓮さんに向けて走り始める。


 俺は声をかけようとしていた佐々木さんへ真央さんのことを聞く。


「佐々木さん、真央さんの震えている理由を知っているんですか?」

「ああ……」


 佐々木さんは戦い始めた真央さんを見ながら、話を始める。


「太田さんが冒険者学校へ通っていた時、最後の演習がこの場所で行われた」

「その時に強いモンスターが現れて、同級生が殺されたんですよね?」


 俺は真央さんから聞いたことを佐々木さんに伝える。

 佐々木さんはそうだと肯定しながら、俺の知らないことを教えてくれる。


「40人ほどいた同級生がほとんど殺されたんだ。引率者が身を挺して、生き残ることができたのが太田さんともう1人だけだった……」

「そんなことがあったのに、なんで真央さんは冒険者になったんですか?」


 佐々木さんは俺を見つめて、目をつぶって深呼吸をした。

 最初に、聞いたことは話さないようにと言いながら話を続ける。


「太田さんの両親はいない。祖母に育てられたらしい」

「いないんですか……」

「ああ、記録では行方不明となっている。そのため、冒険者学校の卒業後にはすぐに働く必要があったそうだ」


 そんな時に断末魔の悲鳴のようなものが聞こえて、声のした方に顔を向ける。

 花蓮さんと真央さんは、ウォーウルフを倒した後にマンドラゴラと戦っていた。

 断末魔の悲鳴を叫ばせてしまったため、周辺の土が盛り上がっている。


 そんな風に戦う真央さんを見てから、佐々木さんが俺へ顔を向ける。


「太田さんは、谷屋絵蓮という存在が無かったらどうなっていたのかわからない」

「どういうことですか?」

「同級生を失ったショックから救ったのが彼女だ」

「そうだったんですか」


 真央さんは懸命にメイスを振るって、マンドラゴラを倒している。

 花蓮さんも次々にくるマンドラゴラを確実に処理していた。

 2人の様子を見て、まだ大丈夫と判断して、佐々木さんへ質問をする。


「真央さんたちを襲ったモンスターはわかりますか?」

「真っ赤で非常に大きなグリズリーだそうだ」

「真っ赤なグリズリー……」


 それを聞いて、俺にはすぐにそのモンスターの正体がわかった。


(そいつは【レッドベア】。グリズリーのボスで、大量のグリズリーと共に現れるやつか)


 ここでレッドベアに襲われたことがあるのに、よく真央さんはここで戦えると思う。

 真央さんを眺めながらそんなことを考えていたら、佐々木さんから声をかけられる。


「太田さんにモンスターと戦う勇気を与えたのがお前だ」


 佐々木さんにそう言われて、俺はそんなことをしていないと否定した。

 佐々木さんはあの時と言いながら言葉を続ける。

 

「お前が富士山から帰ってくるまでの間に、本人から直接聞いた」

「……」

「小さな体でどんなモンスターに対しても勇敢に戦うお前の姿を見ていたら、バフォメットと戦うために体が勝手に動いたそうだ」


 俺が黙ってしまうので、佐々木さんは俺の背中をぽんと優しく押す。


「太田さんから見たお前は英雄ヒーローなんだ」

「そんな……」


 フィールドでは、花蓮さんと真央さんの戦いが終わってこちらへ戻ってきていた。

 佐々木さんから労ってあげるように言われたので、戦いが終わった2人を笑顔でほめる。


「よく倒せましたね。これで一歩前進です」


 2人は肩で息をしており、俺の言葉を聞いて少しだけ笑みを浮かべる。

 真央さんには余裕があるのか、俺へ皮肉を言う元気があるらしい。


「これで一歩かよ……」

「大きな一歩じゃないですか?」


 俺はお疲れ様ですと言いながら2人へ飲み物を渡した。

 飲み物を受け取った2人は、すぐに飲んで体を落ちつけようとしている。


「佐々木さん、倒したモンスターはどうしますか?」

「荷物になるから処理だけを行い、帰る時に回収しよう」

「わかりました」


 俺は今日のために買った解体ナイフを取り出す。

 それを見た真央さんが座りながら俺を見て、意外そうな顔をしていた。


「一也、解体はしないんじゃなかったのか?」

「今日はあまり戦いませんからね。これくらいやらないと」

「やり方、教えてやるよ」

「本当ですか!?」


 真央さんは疲れているのに、俺へ解体の方法を教えてくれると言ってくれた。

 俺は解体が苦手なので、喜んで真央さんの提案を受け入れて、一緒にモンスターの場所まで向かう。

 花蓮さんも見学がしたいと言うので、結局4人で向かうことになった。


 予想以上に真央さんの教え方が上手で、ほとんど解体をやったことがない俺がウォーウルフの処理を行うことができた。

 真央さんの指示で2人が倒したモンスターの処理が終わったので、素材をまとめておく。


 俺たちがフィールドから伊豆高原フィールドの森へ進もうとした時に、佐々木さんが本当に向かうのかと聞いてきた。

 俺がそれを目的にしてきたんですと言ったところ、俺へ1枚の写真を見せて説明をしてくる。


「衛星で撮影してもこの先には森しかない。それでも行くのか?」

「ええ、直接確かめられていないんですよね? 何もないか自分の目で確かめます」

「わかった。それなら行こう」


 佐々木さんも納得をして伊豆の森へ進行しようとしたところ、森へ入る直前に森の中からこちらへ向かってくる影がある。


「止まって!!」


 俺はすぐに号令をかけてその陰の正体を見極めようとした。

 その前に真央さんがその場に崩れ落ちてしまう。


「あ、あ……」


 花蓮さんが真央さんへどうしたのかと声をかけて、真央さんは影へ指を向けてつぶやいた。


「あのときのモンスターだ……」


 その言葉と同時に、森からグリズリーよりも大きく赤い熊が現れた。


(レッドベア、まさかこの森の門番か……)


 俺がレッドベアを確認したら、周囲からグリズリーの群れが森から出てくる。

 真央さんは動くことができないので、佐々木さんに真央さんを頼んで3人には少し離れてもらう。


「佐々木さん、真央さんをお願いします。その後、花蓮さんと一緒に後退してください」

「佐藤くんは?」


 俺はリヤカーからダガーを2本取り出して、レッドベアを見すえて佐々木さんへ言葉を放つ。


「あいつを倒して真央さんの英雄ヒーローになってきます」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

現在カクヨムコン9に以下の作品で参戦しております。

ぜひ、応援よろしくお願いします。


【最強の無能力者】追放された隠し職業「レベル0」はシステム外のチート機能で破滅世界を無双する

https://kakuyomu.jp/works/16817330666662865599

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る