拳士式ブートキャンプ編①~短剣練習~

 俺は誰にも迷惑をかけることなく短剣熟練度を上げる方法を探した。


 事情により、近所の修練所は使うことができない。

 スライムはダガーで少し力を入れて切ると崩れてしまうので、あまり練習にならなかった。


 今、俺は両手にミスリルのダガーを2本持ってバフォメットの前にいる。


(他に効率の良い方法を思いつかなかった……)


 樹海にはこの前買ったマウンテンバイクに乗ってきた。

 俺の予想通り、バフォメットは再出現しており、この先へ進ませないように立っている。


(さあ、やろうか!)


 俺が足を進めると、バフォメットが前回と同じように叫びながら鎌を上げた。

 バフォメットよりも速く走り、強襲するための準備をする。


 前回戦った時よりもバフォメットの動きが遅く感じた。


 俺はバフォメットの頭へ向かって思い切り飛びかかり、右目をダガーで貫く。

 ダガーを引き抜くときにねじりながら抜いたため、黒い液体が勢いよく飛び散った。


 顔を蹴りながら距離を取り、バフォメットの様子をうかがう。


 目をえぐられたバフォメットがその場で膝をついたため、俺は再度走ってバフォメットへ近づく。

 俺が近づいたら、バフォメットは持っていた鎌で俺を振り払おうとする。


(そんな遅い攻撃に当たるわけがない)


 弱ったバフォメットの攻撃は遅く、俺は余裕でかいくぐり2本のダガーをバフォメットの腹へ突き刺す。


「ライトニングボルト!」


 バフォメットが俺を振り払おうと抵抗して、鎌を投げ捨てて俺を殴ろうとしてきた。

 右手のダガーを引き抜いて、振り下ろされる腕を振り払うようにダガーを振る。

 バフォメットの攻撃が俺に届くことはなく、俺は右手のダガーをバフォメットの胸にねじ込む。


「ライトニングボルト!」


 2回目のライトニングボルトの直後、バフォメットは黒い煙を出しながら消えた。

 しかし、今回は鎌も消えてしまっている。


(2本目が欲しかったのに……)


 ダガーで戦うつもりが最終的には攻撃魔法に頼ってしまったため、次は使わないように心に決める。

 俺は足を進めて、今日の本命の戦いへ挑む。


(攻撃魔法は使わないように注意だ)


 富士の麓へ着き、足を進めると前と同じようにドラゴンが飛んでくる。

 俺はこんなにドラゴンと戦えることに感情が高ぶり、飛んでくるドラゴンに向かって走り出す。


 すぐに、目の前の岩が動き出すので、岩の境目へダガーをねじ込む。

 しかし、ダガーはストーンドラゴンの胴体まで届かずに弾かれる。


 ストーンドラゴンに弾かれた俺の目の前へグリーンドラゴンのブレスが迫っていた。

 テレポートを行い、ブレスを吐き終わったグリーンドラゴンへ襲い掛かる。


 俺の攻撃が当たる直前に、炎が一直線に俺へ向かってきていた。


(レッドドラゴンのブレスか!)


 ブレスに当たりそうになるので、グリーンドラゴンを踏み台にしてレッドドラゴンのブレスを避ける。

 レッドドラゴンのブレスを避けた俺の上空が暗くなり、俺はすぐに影の外へ避けた。


 その瞬間、俺がいた場所には雷の束が降り注ぐ。

 上空には黄色の鱗で覆われているイエロードラゴンがおり、雷のブレスが終わると同時に地面へ降りてきた。


(周りを確認すると、どんどんドラゴンが増えてきて、身を隠す場所もない)


 俺は絶体絶命の状況で、思わず笑みがこぼれてドラゴンたちに向き合う。


(どんどんやろうか!!)


 俺は押し寄せるドラゴンの波を断つためにダガーを振るい始めた。



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(だめだったな……)


 マウンテンバイクに乗りながら今日のドラゴン戦の反省をする。

 最初の攻防はなんとかなったが、それから大量に押し寄せるドラゴンの攻撃をさばくので精一杯になってしまった。


 今の俺はあのドラゴンがそれぞれ単体できてくれたら倒せる自信はある。

 しかし、あらゆる方向からこられると俺に攻撃をする暇がない。


 今日は予定していた時間になったため、森へ逃げ込んでしまった。


(第1の壁くらい突破できると思ったのに……)


 ドラゴンの巣は3階層になっており、第1の間では様々なドラゴンと戦わなくてはいけない。

 第2の間は強い個体のドラゴンと戦い、第3の間はドラゴンの王と戦う。


(今日の目標は第1の間突破だったのに、対応するだけで敗走とは……)


 まだ自分が弱いことを実感してしまったので、気持ちを入れ直す。

 ただ、今日の目標だった短剣熟練度Lvはスキル鑑定ができるまで上げることができた。


 急所突きも習得できそうだったが、使う場面がなかった。


(それはまた今度だな)


 マウンテンバイクは頑丈で、俺が全力で踏み込んでもしっかりと加速してくれる。

 自分の家から果てしなく遠いと思っていた富士への樹海ダンジョンは、こいつのおかげでたどり着くことができた。


 今日の反省をしていたら、もう家に着いてしまう。

 日が暮れて少し経ったくらいの時間なので、遅くならずに安堵して帰宅する。


「ただいま」


 リビングから、母親と父親の声が聞こえてきた。

 珍しいことに、今日は俺よりも父親が帰ってくる方が早いらしい。


 俺は荷物を自分の部屋に置いてから、リビングへ行く。

 リビングでは父親がテレビを見ており、母親が晩御飯を作ってくれていた。


 俺は椅子に座り、最近毎日のように言っている苦情を母親へ言う。


「お母さん、もうこれ外さない?」

「だーめ」


 俺は1つの額縁に飾られているものを見ながら母親へ外すように提案する。

 しかし、母親は1度も首をたてに振ってくれない。

 父親は誇らしげに額縁を見ながら話をしてくる。


「こんなに大きく写っているんだ。飾らないともったいないだろう」

「恥ずかしいんだけど……」


 俺が外してほしいものは、この前に大会で優勝したときに発行された新聞の切り抜きだ。


 新聞の一面には大会について書かれており、俺が空中で盾を振り下ろした瞬間が撮られていた。


 最初にリビングへ飾られた時に、壁から取ろうとしたら母親からすごく怒られた。

 それから、毎日の食事のたびにこの新聞を見せられている。


 両親は様々な人から、俺のことを聞かれているようなことも言っていた。

 優勝直後の俺たちに話を聞くために、テレビの取材が来ていたようだ。


 俺は鑑定士さんと話をしてからすぐに帰っていたため、家でテレビを見ていたら花蓮さんだけ映っていた。


 そのせいで、大会の日の夜に花蓮さんから【勝手に帰って許さない】とメッセージをもらってしまう。


 急に近所で有名になってしまい、近所の修練場を使えなくなってしまった。

 気にしないで修練場で丸太を切ろうとしたら、なぜか複数の人から握手を求められて、練習なんてとてもできない。


 バフォメットを倒した時の映像がモザイク無しで流れていたらこれ以上騒がれるのかと考えて、佐々木さんとギルド長へ感謝の電話をかけた。

 ギルド長は俺が大会で異常な勝ち方をしたおかげで、ギルドから人が減ったと喜んでいる。

 佐々木さんには、礼はいらないから少しは目立つことをしないように注意された。


 母親が晩御飯を作り終わり、テーブルにお皿を並べている時に俺を凍り付かせることを言ってきた。


「そういえば、明後日から合宿だけど、準備しているの?」

「あ……」


 俺は完全に合宿のことを忘れており、準備なんて何もしていない。

 その表情を見て、母親があきれるような顔で俺を見てくる。


 晩御飯を食べ終わった俺は、すぐに真央さんへ連絡をする。

 真央さんは2回目の電話で出てくれて、寝ていたのか不機嫌そうに俺へ話してきた。


「……なんだよ」

「真央さん、明日時間ありますか?」

「……いきなりなに?」

「キャンプ用品を買いに行きましょう!」


 電話越しに真央さんのため息が聞こえた後、迎えに行くから時間を教えろと言われた。


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