仲間の決意⑧~スライム奮闘戦~
少し林の中へ向かって歩くと、すぐに大量のスライムに会うことができた。
俺は後ろを付いてきてくれている2人へ、これからしてもらいたいことの説明を行う。
「真央さんは、そのダガーでスライムの急所を狙うように突いてください」
「スライムに急所なんてあるのか……」
真央さんは緑色に跳ねる球体を見ながら、俺の言葉を耳を疑うように聞いてくる。
(おそらく真央さんの短剣熟練度Lvは7を超えているはず)
真央さんには短剣熟練度Lv7で習得できる急所突きを覚えてもらいたい。
そのためには、モンスターの急所を狙うように武器を使用することが必要なため、このような指示になった。
次に花蓮さんへ戦い方を指示する。
「花蓮さんは、体力の続く限り全力でスライムへ攻撃をしてください」
「どういうこと……?」
花蓮さんにはまず体力回復力向上のLvを上げてもらい、攻撃速度向上を覚えてもらう。
花蓮さんも俺の言っていることが分からないようなので、とりあえず実行してもらうことにした。
俺は荷物から盾を2枚取り出して、笑顔で伝える。
「スライムはすべて俺が引き付けます。その間に今俺が言ったことをやってみてください」
俺はまだ疑問を持っていると思われる2人を置いて、見渡す限りのスライムへ挑発を行う。
すぐに20匹ほどのスライムが俺へ向かって跳ね始めた。
2人を見たら、スライムの量に怯えてしまったのか戸惑って動こうとしていない。
(だめだ……)
俺は自分の周りにいるスライムをすべてシールドバッシュで吹き飛ばす。
モンスターを前にして動かない2人へ優しく話しかけた。
「強くなりたくないんですか?」
2人は言葉を失ったように話さず、俺を見つめていた。
俺はため息をついて、言葉を続ける。
「たぶん、2人は俺の言っている意味がわからないと思います」
その言葉に、2人は静かにうなずく。
「今までと同じように弱いままか、強くなる可能性に賭けますか?」
俺は2人へ問うように言葉をかけて、動向を見守ることにした。
最初に花蓮さんが俺へ声をかける。
「本当にあなたのように強くなれるの?」
「もちろん」
これは俺が過去にやってきたことなので、花蓮さんへ自信を持って答えた。
俺の返事を聞いた花蓮さんは鞘から剣を抜いて、決意の目を俺に向ける。
「ならやるわ。スライムは任せていいんでしょ?」
「よかった。それなら、行きましょうか」
俺が花蓮さんとスライムへ向かおうとする時に、真央さんも声を上げる。
「待てよ!」
俺は足を止めて、真央さんの目を見つめる。
真央さんは右手にダガーを持って、近づいてきた。
そんな真央さんの様子を見守り、俺は黙って待っている。
「私も行くよ……よくわからないけど、スライムの急所を突いてやる!」
「わかりました。よく決心しましたね」
俺は笑顔で真央さんへそう伝える。
真央さんはやってやるとつぶやきながら俺と花蓮さんの後に続いた。
2人に話を聞いたところ、始めから大量のスライムを相手にしようとすると怖いらしい。
なので、俺は1人1匹ずつスライムを相手にできるように誘導することにした。
周りにスライムが数匹いる状態で挑発を行うと、数匹のスライムがこちらへ向かってくる。
そのため、1人1匹になるように盾でスライムを潰してから、2人へ攻撃をしてもらう。
花蓮さんは、バッシュを行えば数発でスライムが倒せることに気が付いたようだった。
途中から花蓮さんのためにスライムを引き付けるのを止めて、1人でスライムを倒してもらっている。
スライムの攻撃もスライムをよく見て躱してくれて、花蓮さんはスライムを夢中で倒していた。
(問題は真央さんか……)
俺が盾でスライムの攻撃を受けているはずなのに、真央さんはスライムの周りでうろたえている。
「真央さん、急所を狙ってダガーを突き刺すんですよ」
「わかんねぇんだよ!」
何度真央さんとこのやり取りをしたのかわからない。
その時、花蓮さんがこちらへふらふらと歩いて向かってきていた。
俺はスライムの攻撃を適当に盾で受けながら、花蓮さんへ声をかける。
「花蓮さん、どうしました?」
「……疲れたわ」
花蓮さんは絞り出すように声を出して疲労していることを伝えてきた。
俺はそんな花蓮さんの体力を回復させるためにヒールを行う。
花蓮さんの体をわずかに緑色に光が覆い、花蓮さんが自分の体を見て驚いている。
「なにこれ……」
「ヒールを行いました。これでまだ戦えますよね」
「休憩はなしなの?」
「休むのは後でたくさんできますけど、スライムは今しか倒せませんよ」
「バッシュが使えなくなったんだけど……」
「普通に剣で切ればいいじゃないですか」
花蓮さんがどうしても休もうとしているので、俺は真央さんが倒せたら休みにすることを提案する。
それを聞いた花蓮さんが、すぐに真央さんへアドバイスを始めた。
「太田さん! スライムなんてどこを刺しても同じですよ!」
「そうなの!?」
真央さんは花蓮さんのアドバイスを聞いて、意を決したように両手でもったダガーをスライムへ突き刺す。
ミスリルのダガーがスライムの体を貫き、そのままスライムは核を残してどろっと崩れた。
その光景に花蓮さんが真央さんよりも喜んでいる。
「よかったですね! 倒せましたよ!」
「できてよかった……」
真央さんはできたことに安堵しながら、その場へ座り込む。
花蓮さんは真央さんに駆け寄って、スライムが倒せたことをほめている。
なぜか、真央さんは俺よりも花蓮さんのアドバイスを聞いてからの方がやる気が出ていた。
俺もようやく真央さんがスライムを倒してくれたので、真央さんへ言葉をかける。
「それでは、少し休憩にしましょう」
2人がうなずき、1度車へ戻って中で休憩することにした。
車内では真央さんが俺のアドバイスに苦情を言ってくる。
「一也、お前のアドバイスはわからない」
「そうですか?」
「急所を突けとしか言わないから、まったくわからなかった」
「スライムの全身が急所に見えていたんですよね?」
「そうだよ……」
「なら突けばいいのに」
「お前……」
まだ真央さんが俺へ何かを言ってこようとしているので、俺は後ろで黙っていた花蓮さんへ話しかけた。
「花蓮さんは途中から1人で戦っていましたけど、どうですか?」
「え!?」
花蓮さんは急に話を振られて、俺の顔を驚くように見ていた。
その後、すぐに考えるようなしぐさをしながら、花蓮さんは口を開く。
「疲れているはずなのに、途中から剣が軽くなったように早く攻撃できるようになったわ」
「そうですよね。確実に最初よりも早く攻撃できるようになっていると思います」
「なんでなの?」
「スキルですよ」
「これがスキルだったんだ……」
花蓮さんがつぶやくように言いながら自分の手を握りしめていた。
「もっと速くなるので、意識してください」
「わかったわ!」
花蓮さんは強くなっているのを実感しているのか、来るときよりも目が輝き始めた。
真央さんも始める前よりは前向きになってくれている。
俺は休憩を終わりにして、またスライムと戦いに行くことにした。
休憩後にはもう2人にはそれぞれ戦ってもらうことにして、俺は2人が危険になったら動く。
2人に目を向けていたら、林の奥から巨大な緑色をした球状のものが跳んできていた。
球状のものが地面へ着いた瞬間、離れているここまで振動が伝わってくる。
「2人ともこっちへ来てください!」
俺は3mほどある緑色のものが来ているので、すぐに林の中にいる2人を呼んだ。
花蓮さんはスライムと戦うのに夢中で、来ていることに気付いていない様子だった。
花蓮さんへ巨大なものがこちらへゆっくりとした動作でこちらへ跳んできていることを教える。
「なんなのあれは……」
「あいつはビッグスライムですね」
俺の言葉を聞いて、真央さんと花蓮さんは再度迫ってくる巨大な物体へ目を向ける。
ビッグスライムは確実に俺たちへ向かって跳んできていた。
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