仲間の決意⑨~激闘ビッグスライム~

 ビッグスライムの面倒なところは、周辺のスライムまで引き連れてやってくることだ。

 こいつは大量にスライムを倒した時にまれに現れるが、今回は出てくるのが早すぎる感じがする。


(それでもスライムだからな……)


 3mほど大きくなってもスライムはスライムなので、俺にはなんの脅威を感じない。

 しかし、俺の横にいる2人にはそうは見えていないようなので、俺は2人の背中を軽く押す。


「それでは、2人で頑張って倒してください」


 俺が手を振って見送ろうとしているのを真央さんが全力で否定してくる。


「無理無理無理! あんなにでかいのどうすればいいんだよ!」

「急所を突いてください」

「またそれかよ!!」


 真央さんがその場で頭を抱えてしまい、動こうとしない。


 ビッグスライムは確実に、周りのスライムを誘導しながらこちらへきている。


 俺がその様子を眺めていると、花蓮さんが真央さんへ声をかけた。


「太田さん、行きましょう」

「花蓮ちゃんまで!? 本気なの!?」

「あいつを倒さないと今のまま変われませんよ」


 花蓮さんは真央さんの目を見て、はっきりとそう言っていた。

 俺はその通りだとうなずき、俺と花蓮さんを見た真央さんは力なくビッグスライムと向き合う。


「……一也、まわりのスライムは任せてもいいか?」

「大丈夫ですよ。2人はビッグスライムのみお願いします」


 真央さんは自分の頬を思いっきり叩いて、花蓮さんへ声をかける。


「行こうか花蓮ちゃん!」

「はい!」


 2人はビッグスライムに向かって走り始めた。


 俺も走り出して、2人がビッグスライムに集中できるように誘導されている普通のスライムを盾で薙ぎ払う。


 花蓮さんは真央さんへビッグスライムが地上にいるときに攻撃をして、跳んでいる時は全力で逃げようと提案していた。


(この様子なら大丈夫だろう。俺は周りのスライムを狩り続けるか……)


 2人がどうしようもなくなってしまった時だけ助けようと思い、俺は適当にスライムを盾で殴り飛ばし続ける。


 真央さんはビッグスライムへ一心不乱にダガーを突き刺していた。

 スライムが跳んだ瞬間に向きを確認して、押しつぶされないように逃げている。


 花蓮さんはビッグスライムの体を削るように素早く何度も切り付けていた。

 ただ、少し周りが見えないのか、たまに真央さんから早く逃げるように声をかけられていた場面がある。


(真央さんの方が冷静なのか……)


 それからしばらくして2人がようやくビッグスライムを倒した時、俺は失敗してしまったことに気がつく。


 ビッグスライムを倒して満足している2人へ、俺はこのことを伝えなければならない。


「2人ともお疲れ様です」


 2人は疲れ切ってしまったようで、俺の言葉に反応しない。


 俺は2人へヒールをかけて、体力を回復させる。

 真央さんはヒールで体が軽くなったことに感動していた。


「今まで気休めだと思っていたけど、ヒールってこんなに回復するんだな」


 花蓮さんも立ち上がって、ヒールの効果を実感している。


「ありがとう、一也くん」

「どういたしまして、保険でもう1度かけておきますね」


 俺はもう1度2人へヒールをかけて、体力が完全に回復したこと確認する。


「もう2人とも平気ですか?」


 2人はうなずいて、ビッグスライムを倒した達成感を味わっているようだった。

 そんな中、俺は2人へすぐに言わなければならないことがある。


「ビッグスライムって、なんで現れるか知っていますか?」


 急に俺から質問をされて、2人は困惑していた。

 俺は時間がないので、すぐに2人へ伝える。


「スライムを大量に倒すと、まれに出てくるんですよ」


 そんな時、真央さんが微弱な震動を感じたようだった。


「おい、まさか……」


 俺は2人に向かって、笑顔で真実を伝えた。


「俺がスライムを倒しすぎて、また出たので倒してください」


 その瞬間、俺の背後からまたも地面が震えるような震動を感じた。

 花蓮さんがすがるように俺を見てくる。


「一也くんは手伝ってくれるよね?」


 俺はゆっくりと首を横に振って、2人に言い放つ。


「俺はまわりのスライムだけを倒します。あんまり遅いともう1度出ますよ」


 真央さんが絶望したようにビッグスライムを見ているので、言葉を追加する。


「逃げてもいいですけど、それで強くなったって言えるんですかね?」


 花蓮さんは真央さんを気にせず剣を握りなおして、ビッグスライムに立ち向かおうとしている。


「私は必ずお姉ちゃんを超えるの! こんなところで逃げていられない!」


 自分を奮い立たせるように言い聞かせて、花蓮さんがビッグスライムに向けて走り出す。

 真央さんは少し遅れつつも、俺へ一言投げつけてから走っていく。


「周りは任せる!」

「任せてください」


 俺は真央さんの背中へ声をかけて、盾を持ち直す。

 2人を見守りながら、周りのスライムを倒し続ける。


 その後、2人は確実に1体目よりもはやくビッグスライムを倒すことができた。


 ビッグスライムの体が崩れ、その場に30cmくらいの緑色のスライムの核が落ちた。

 これは1体目に倒したビッグスライムからも出ている。


 普通のスライムから落ちる核は手のひらに乗るサイズで白い。

 今ビッグスライムから落ちた核は大きな緑色で目立つ。


 俺は2人に車で休憩してもらい、今回のスライムを倒した時に出た核を集めている。

 落ちているすべての核を回収してから、俺は車へ戻った。


「戻りました」


 2人は疲れ切ったように車でぐったりとしている。


(2体目のビッグスライムを倒した後にヒールをかけてあげたのにどうしてだ?)


 俺が不思議そうに見ているのが気になったのか、真央さんがまたも苦情を俺へ言ってくる。


「お前、スパルタすぎ……」

「そうでしたか?」


 花蓮さんも同意見のように、目で俺へ訴えてきていた。


 俺がスライムを倒していた時は朝から夕方まで倒していたと説明すると、2人はため息をする。

 真央さんが車のエンジンをかけてから、俺へ確認するように口を開く。


「もう帰ってもいいよな」

「ええ、その前にスライムの核を換金するために区役所へ寄りましょう」

「わかったよ」


 真央さんが出発しようとした時、俺のスマホへ電話がかかってきた。

 画面を見ても知らない番号なので、相手を確認するように電話を始める。


「もしもし」

「こんにちは、佐藤一也くんの電話で合っているかな?」

「そうです」


 声を聞いて、電話は佐々木さんからとわかった。

 俺が安堵した瞬間、スマホから尋常じゃないくらい大きな声で叫ばれる。


「お前はなにを考えているんだ!!!!」


 スマホから聞こえてきた佐々木さんの声が車中に響き渡る。


 その声に驚き、真央さんは出発するのを止めて、花蓮さんも身を乗り出して会話を聞き始めた。

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