仲間の決意⑦~花蓮と真央~

「それで、これからどうするの?」


 花蓮さんはいきなり少し睨みながら俺へ聞いてくる。

 俺は花蓮さんの表情が怖いので、すぐに真央さんの車まで案内しようと思った。


「とりあえず、移動をするので付いてきてください」

「わかったわ」


 花蓮さんが返事をしてくれたので、俺はすぐに戻るために歩き出す。

 区役所の駐車場へ入ろうとした時に、花蓮さんが俺を呼び止める。


「一也くん、今日は誰か来てくれているの?」

「ええ、一緒に練習してくれる人がいます」

「だれなの?」

「会えば分りますよ」


 俺は花蓮さんも真央さんのことを知っていると思って、今回一緒に練習をしてもらうことにした。

 俺たちの姿が見えたのか、真央さんは車を降りてくる。


 しかし、真央さんが車を降りた時、後ろを付いてきてくれていたはずの花蓮さんの足が止まってしまった。


 どうしたのかと花蓮さんを見たら、真央さんを見て固まっている。

 俺はすぐに花蓮さんへ声をかけた。


「花蓮さん、どうかしましたか?」

「……一緒に行くのって、太田さんなの?」


 花蓮さんの声が震えているので、俺は心配になって花蓮さんへ近づく。

 俺が花蓮さんへ足を向けた瞬間、花蓮さんが叫んだ。


「来ないで!」


 俺は花蓮さんの言葉で止まり、花蓮さんの様子をうかがう。

 真央さんも何かあったと思ってくれたのか、近くまで来てくれていた。


 俺と真央さんが花蓮さんを見つめると、涙目になった花蓮さんが真央さんを向く。


「私のことをお姉ちゃんから頼まれたんですか!?」


 花蓮さんは急に意味の分からないことを言い出す。


(急に絵蓮さんの話を出してどういうことだろう?)


 俺が考えている時、真央さんが花蓮さんへ話しかける。


「花蓮ちゃん、私もいきなりここへ連れてこられたからそんなことはないよ」

「どういうことですか?」

「えっと……」


 真央さんが俺を一目見てから、花蓮さんへ事情を話し始めた。

 真央さんの戦えない理由を聞いた花蓮さんは、疑いの目を真央さんへ向けている。


 花蓮さんは真央さんの様子を見て本当のことだと感じたようで、次の瞬間には俺をにらんできた。


「一也くん、これからどうするつもり?」

「とりあえず、車に乗りましょう」

「……わかったわ」


 すぐに真央さんは花蓮さんへ話しかけていた。

 俺にその話の内容は聞こえない。


 俺は何も聞かずに車の助手席へ乗り込み、2人が乗ってくるのを待った。

 しばらくしてから2人が車に乗ってくる。

 そして、なぜか2人から俺は冷たい目で見られる。


(なぜだ?)


 真央さんがどこへいくつもりなのかと聞いてきたので、俺は1つ真央さんへ質問をした。


「真央さん、武器は持ってきていますか?」

「ああ、後ろに銃があるけど……」

「だめですね。とりあえず、俺の家に向かいましょう」

「だめってどういうことだよ」

「銃なんて使っても強くなりませんから、まずはここを出て右折です」


 真央さんがまだなにか言いたそうにしているのを無視して、進むように言い放つ。

 納得しないまま真央さんは車を動かし始めて、俺の言うとおりに進んでくれた。


 そのままスムーズに俺の家の前へ着いたので、2人へ少し待ってもらう。


「武器を取ってくるので待っていてください」


 2人の反応を見ずに車から降りて、家に向かう。


「ただいま」


 俺が玄関の扉を開けたら、リビングからパタパタと音が聞こえてくる。

 玄関で靴を脱ごうとしている俺へ母親が驚きながら話しかけてきた。


「おかえり。今日は早いのね」

「ちょっと寄っただけ、またすぐに出るよ」

「そうなの? 夕飯は?」

「家で食べるよ」


 俺は靴を脱ぎながら母親へ伝えて、部屋へ向かう。

 部屋に入り、タンスの中からダガーを取り出す。


(これを真央さんに使ってもらおう)


 ダガーの入れ物を持って、車へ戻る。


「行ってきます!」


 玄関を出る時に母親へ聞こえるように声を出し、母親がリビングからいってらっしゃいと言ってくれた。


 車へ戻ると、2人が楽しそうに話をしている様子が外から見える。

 しかし、俺が車の乗った瞬間、2人から警戒されるような目を向けられた。


「何かありましたか?」


 俺は2人の視線を疑問に思い、なにかしたのかと思って聞いてしまう。

 俺の質問に真央さんはあきれながら俺へ言葉を放つ。


「お前がひどいって2人で話していたんだ」

「ひどいですか?」


 俺がなにもわかっていない様子を察した花蓮さんが後ろから話しかけてくる。


「この前、学校で私が一方的に棒で殴られたでしょ? その話をしていたの」

「ああ……あの時のことですか」


 俺の中で苦い思い出になりつつある学校での武術大会。

 花蓮さんに言われるまではみんなに喜んでもらえているものだと思っていた。


(この話で2人の仲が良くなったならいいか)


 少し複雑な気持ちで笑いながら、真央さんへ行き先を伝える。


「真央さん、ここへ行ってくれますか?」


 真央さんへスマホの画面を見せながら場所を指定する。

 スマホの画面を見た真央さんは、確認をするように俺へ聞いてきた。


「ここってスライムがたくさんいるところだろ?」

「そうです。今からスライムと戦います」

「なんで? スライムを相手にしてどうするんだよ」

「やってみればわかりますよ」

「まあ、いいけど……」


 真央さんは渋々、車を発進させた。

 まだ聞きたいことがあるように、花蓮さんが前へ身を乗り出して、俺へ声をかけてくる。


「一也くん、どうしてスライムなの?」

「相手にするのに一番安全だからですよ」

「……スライムが安全?」


 花蓮さんが信じられないと言いながら俺へ質問をしてきた。

 ただ、俺にはスライム以上に安全なモンスターが思い浮かばない。

 なので、花蓮さんへ俺が思っていることをそのまま伝えた。


「体当たりしてくるだけじゃないですか」

「それで毎年何人も怪我をしているでしょ」

「死なないってことですよね?」


 俺の言葉を聞いて、真央さんが話をさえぎるように口をはさんできた。


「花蓮ちゃん、普通の考えでこいつと話をしてもだめだよ」


 花蓮さんが真央さんの言葉を聞いて、あきれるように俺を見てくる。

 その後、花蓮さんはため息を軽くして、座席に座った。


 しばらく車を走らせると、すぐにスライムの巣に着くことができた。


(車だと早いんだな……)


 自転車でここまで通っていた俺は、車の便利さを改めて痛感する。


「それじゃあ、行きましょうか」


 俺の言葉を聞いて、2人は本当に行くのかと言いながらも車を降りてくれた。

 俺は真央さんへダガーを渡すために声をかける。


「真央さん、今日はこれを使ってください」

「これを使うのか……」


 真央さんは俺から受け取った箱の中身を見ながら落胆してしまう。

 俺はそんなに悪い武器でないことを伝えるために、真央さんへ説明をする。


「それはミスリルのダガーなので、使いやすいと思いますよ」

「これもミスリルなのかよ……」


 俺の言葉に真央さんは控えめにダガーを持ち、眺め始めた。

 花蓮さんがミスリルのダガーと聞いて、興味深そうに真央さんの持っているダガーを覗いている。


「これがミスリルのダガーなんですね」

「そうらしい、いくらすんだろうね……」



 俺は2人の話が聞こえてしまい、ダガーの値段を気にしているようだった。


「まとめて買ったのでわからないです」


 俺の言葉に、真央さんと花蓮さんが同時に聞き返すような声をだしてきたため、俺は再度同じことを言う。


「色々なものとまとめて4500万で買ったので、それ単品の値段は知らないです」


 それを聞いた花蓮さんは呆然と値段をつぶやき、俺を見ている。

 逆に、真央さんは焦るように俺へ近づいてきて、ダガーを持っていない方の手で口をふさいできた。


「4500万って……」

「ばか!!」


 急に真央さんに口を押さえられて驚いたため、真央さんの目を見て抗議をする。

 真央さんは俺にしか聞こえないような声で話しかけてきた。


「どう考えても、グリーンドラゴンの時にもらった金だろ? ばれそうなこと言うなって……」


 俺は口を押さえられながら、真央さんの言葉にうなずく。

 花蓮さんを見ると俺と真央さんのやり取りを見入るように見ていた。


 俺はごまかすように、声を出してスライムの巣に向けて歩きはじめる。


「2人とも防具は着けないで、武器だけを持ってきてください」


 俺は意気揚々と歩き出すのを見て、真央さんと花蓮さんは顔を見合わせてからゆっくり付いてきてくれた。

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